2026/05/18(月)電子ボリュームの耐圧問題。低電圧で使用するときの注意点

デジタルポテンショメーターや電子ボリュームの基本から耐圧問題について。外付けのミュート回路がなぜ必要なのかについてまとめました。特に低電圧で使用するときは色々大変です。

プチバズした、違法建築基板で何をやっていたのかの解説にもなっています。

なぜデジタルポテンショメーターを使用するのか

デジタルポテンショメーター(電子ボリュームを含む)は、シリコン薄膜抵抗で構成されたボリュームであり、原理上は薄膜抵抗による抵抗アッテネーターと同一です。そのため、(オペアンプ非内蔵品を)ちゃんと使えば*1一般的なアナログボリュームよりとても音質が優れています。

アナログボリュームによる音質劣化はその影響の大きさからよく知られていますが、電子ボリュームはその問題を避ける有効な手段です。

他の方法、例えば抵抗分圧によるゲイン切替だけのアンプ等も市販されていますが、「音は良くても使いにくくない?」と個人的には感じてしまいます。

*1 : ちゃんとの定義が難しいですが、電源がDCDC昇圧等をそのまま使ってるときは大部ダメかなという印象です。

電子ボリュームと一般的なデジタルポテンショメーターの比較

電子ボリュームICの特徴。

  • 【利点】減衰がAカーブで使いやすい
  • 【欠点】正負電源で高めの電圧が必要(±9Vや±12V)
  • 【欠点】音質不明なオペアンプ内蔵品が多い(音質劣化の要因)

一般的なデジタルポテンショメーターの特徴。

  • 【利点】低電圧で使える
  • 【欠点】最小音量が大きめになる(256接点で-48dB程度)

なお「電子ボリューム」は「デジタルポテンショメーター」の一種です。

デジタルポテンショメーターの原理とミュート動作

これは、一般的な電子ボリューム構成のポテンショメーターの回路図です。*2

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図2 デジタルポテンショメーターの内部構造

A接点とワイパーと呼ばれるW接点、最後にGNDに接続しているB接点があります。アナログボリュームと論理構造は同じです。アナログボリュームのミュートは、W接点をB接点に接続することですが、デジタルポテンショメーター(電子ボリュームを含む)ではこれがとても難しいのです。

図2はMCP4651のデータシートより引用したものです。このように、デジタルポテンショメーターは、ずらっと並んだ抵抗と、電子的に構成されたスイッチ(32~1024箇所ぐらい)により構成されています。W接点を車のワイパーのように動かす(切り替える)ことでボリュームを変更しています。図2ではW接点を一番下のB接点と同じ電位に接続するのは容易く見えます。

しかし、ここにデジタルポテンショメーター特有の問題があります。それはB接点にあるスイッチが抵抗を持つということです。データシートに書いてないこともあり、もちろんICによるのですが、概ね50Ωぐらいの抵抗値があります。全抵抗値が10KΩとすると、ボリューム0に設定しても、減衰率は-46dBになります。普通に聞こえる音量です。

この問題を防ぐため、デジタルポテンショメーターの多くにはミュート動作が組み込まれており、A接点などを切り離せるようになっています。A接点を切り離すことで、信号入力を断つ仕組みです。

*2 : 電子ボリュームICを使用する場合はR1は省略されることが多いと思います。

低電圧で問題になるミュート動作

このA接点の切り離しが低電圧動作では問題になります。入力に対する負荷が切れてしまうので、本来R1とU1で抵抗分圧される入力電圧が、そのままU1にかかってしまいます。

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「A接点が切り離さてるのに何が問題なの?」

という声が聞こえてきそうですが、これが実は大問題なのです。

なぜなら、あらゆるシリコンICは、原則としてすべての入力が電源電圧の範囲でのみ正しく動作するようにできています。*3

ICのシリコンは「P層」と「N層」をうまく形成することで機能(回路)を作り込んでいます。このとき、隣り合う「P層」「N層」は自然とダイオードを構成します。ダイオードということは、+0.5~0.7V程度の電位差があれば電流が流れるということです。

こんな無茶苦茶な環境でどうやって回路を構成するかというと、IC上では電源電圧によって(流れてほしくない)隣接した「P層」と「N層」の間に逆電圧をかけています。逆電圧をかけることでダイオードと同じように空乏層が広がり、この空乏層が絶縁体の役割をするわけです。ICの電源を逆接続すると大電流が流れてICが焼けるのもこのためです。*4

ミュート動作時、A接点は切り離されていますが、その切り離しはあくまでICのシリコン上での話です。電源電圧+0.5Vを超えた電圧をかけると、IC設計者の予期しないところで電流が流れてしまいます。その結果、「電源電圧+ダイオード順方向電圧」を超えた入力は、ICの中の予期せぬ部分を流れ、出力や他の端子にノイズとして漏れてしまいます。

これを防ぐためには、低電圧動作では抵抗分圧を常に有効とし、A接点を切り離すことなくミュート動作を実現しなければなりません。

*3 : 電源電圧を超えて高電圧が入力できるように作られた特殊なピンを除く。

*4 : より詳しい人からツッコミが入るかもしれませんが、概ね間違ってないと思う。

ミュート回路: a案

以後、電源電圧は±1.2V、入力振幅を6Vpp(2.1Vrms, ピーク電圧±3V)として話を進めます。ミュート出力が±1.2Vであることに注意してください。

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この回路はNPNトランジスタを使った簡単なものですが、実際うまく動きます。MUTEが+1.2Vのとき、トランジスタがonになりGNDに短絡されます。

ただ問題がありまして、明らかに音質が劣化します

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使用したトランジスタはSS8050で、おそらくコレクタベース間容量Cob(20pF程度)の影響かと思います。

入力信号はオフ時に、Cobを通してGNDではなく-1.2Vにつながってしまいます。GNDにつながるだけなら単なる高周波減衰で終わる話なのですが、交流信号をGNDではなくマイナス電源に接続してしまうと、GNDを中心として見たとき波形は歪んでしまいます……。*5

*5 : 全帯域でまったく同じようにマイナスに接続し、抵抗の電流ノイズを無視すれば、回路理論上はDCオフセットが加わわって波形が小さくなるだけです。ですが、実際はそうではないので。

ミュート回路: b案

『a案』の問題は、R2の抵抗値が低いことと、非ミュート時にR2がGNDではなくマイナス電源に接続されていることにありました。それを改善したのが『b案』です。

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R3はGNDに接地、マイナス電源の影響を避けるためD1(SBD)を配置しました。実際、『a案』と比べ音質もかなり改善しました。完璧な設計に見えますね!

ただ、この回路には致命的な問題があります。それが何か分かりますか?

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3Vppぐらいの入力信号だと問題ないのですが、6Vppの信号を入力するとなんか音が歪んでしまうのです。

NPNトランジスタというのは「N層-P層-N層」の三層構造からなる半導体です。ベース-エミッタ間がダイオード(P→N)であることはよく知られていますが、当然ながらベース-コレクタ間もダイオード(P→N)になっています。

つまり、-0.5Vより低い電圧が入力されると、Q1とR3を通してGNDから電流が流れ込んでしまいます。これでは使えません……。

R3を付けなければいいのでは?

R3を切り離すというアイデアを頂いたので試してみたのですが、a案並に音質が劣化してまいました。残念。

ミュート回路: c案

その後も色々考えたのですが、バイポーラトランジスタの場合、解決するのは難しそうでした。ならば答えは簡単です。

「バイポーラがダメならMOS-FETを使えばいいじゃない!!」

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バイポーラトランジスタよりもシンプルな回路になりました。はじめからこうしろよって感じですよね、そうですよね。実際『b案』より音質もさらに改善して、大満足って感じになりました。もうパーフェクトです。

……とはなりませんでした。このミュート回路も致命的な問題があるんですが、分かりますか?

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MOS-FETはボディダイオードと言って、ソース-ドレイン間にダイオードが自然と形成されています当たり前に存在するので回路記号には書かないことが普通です

こうなると、さっきより酷いですね。非ミュート時に、-0.5V以下の電圧が入力されると、抵抗も介さずにダイレクトにGNDから電流が流れ込み、結果音が盛大に歪みます。*6

*6 : これを解決するため、半導体を使用したアナログスイッチ(デジタルポテンショメーター内部のスイッチを含む)では、MOS-FETを4個使ってこの問題を解決しています。詳しくは、自分で調べてね。

ミュート回路: 解決編(2026-05-31追記)

結局、アナログスイッチIC*7を使用して解決しました。

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音質はそこそこ良いのですが、数pFとはいえ結合コンデンサがあり、その影響を受けて多少音質が劣化してしまいます。

既に述べた通り、結合コンデンサによるマイナス電圧への接続は音質を悪化させる原因となるので、R6の抵抗値はなるべく大きくしたいところです。しかし、トランジスタやFET等の能動素子の制御端子のインピーダンスをあまり大きくすると*8、外来ノイズ等の影響を受けてしまいます。

実際、単純にR6を1MΩとかにすると、音の空間表現は良くなりますが明瞭感が失われてしまいます。

制御端子と出力端子が絶縁されていないICを使う以上、容量結合による問題は避けられません。何かしら対策が必要です。次の「d2」がその対策をした回路図です。

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R6によってミュートon/offを制御し、C1によって高周波ノイズを逃がしています。しかも、嬉しいことに容量結合による電流もそのほとんどがR6ではなくC1によってGNDに落ちることになります*9。これによって、容量結合によってマイナス電圧に引っ張られるという歪みの原因となる現象を抑制することができます。

ちなみに、C1をフィルムコン変えたところ音質が劣化したので注意してください。おそらく高周波特性が悪化したためと思われます。

抵抗とコンデンサの値は?

R6は1Mぐらいがよさそう。抵抗値を上げると空間表現はよくなりますが、明瞭感が失われます。下げると逆です。C1も増やすと空間表現がよくなりますが、明瞭感が失われます。

1M~1.5M/10nぐらいで、元の音質と遜色ない程度になっています。

*7 : 複数のアナログ入力の中から1つを選択する回路

*8 : 100KΩ以上はアナログ回路としては大きいです。オシロ持っている人なら、1MΩとかのリード抵抗をプローブに挟んで、どれくらいノイズ拾うか試してみるといいと思います。

*9 : なぜなら、容量結合はC1よりもはるかに小さいことから通過してくる信号は高周波に限られます。高周波においてC1のリアクタンスはR6の抵抗値より十分に小さくなるため、電流のほとんどはR6ではなくC1に流れることになります。

その他の解決策は?

他には、絶縁された制御素子を使う方法があります。

  • フォトカプラー(フォトトランジスター)
  • フォトトライアック
  • フォトモス
  • 物理リレー

ただ、物理的にちょっと大きいし高いんですよね……。

フォトカプラーとフォトトライアックは安めですが、on電圧が0Vにはならないのでポテンショメーターのミュート機能と組み合わせる必要があります。

電子ボリュームICでも耐圧問題が発生する?

電子ボリューム用として作られたICなら、比較的高い電源電圧を要求するので耐圧問題は発生しなそうですが、実際どうなのでしょうか。

例えば、電子ボリュームとして有名なPGA2311というICは、電源が±5V固定です。つまり±5VがICの仕様上の入力限界です。別の書き方をすれば「3.5Vrms」で「+13dBu」です。ついで書いておくと、クリップしない最大入力はもっと低く2.5Vrms(+10dBu)です。

ところで業務用ミキサー等で使われるライン出力レベル(最大レベル)をご存知でしょうか? 色々ありますが、+18dBu以上のものが多いかと思います。

そんな機器をPGA2311に接続して最大音量を出したらどうなるでしょうか?

当然、この記事で書いた耐圧問題が発生します。*10

*10 : 思ったのですが、PGA2311の最大入力の解説ってあまり見かけない気が。ミキサーなんか繋ぐなよと言えばそれはそうなのですが、業務用たって2万ぐらいで最大21.5dBuですからね。持ってる人がいても不思議ではない(実際ベリのミキサー持ってる)。

まとめ

  • 電子ボリュームを低電圧動作させる場合、ミュート動作時に入力信号による破綻の問題がある。
  • 外付けのミュート回路を、音質への影響を小さくして構成するのは難しい。
  • 半導体工学の授業って役に立つんだね。

ちょっと偉そうに解説はしましたが、全部実際に試して失敗したものなので別に偉くはないです(苦笑)。ただまあ、すぐ原因に至ったのは(基礎とはいえ)半導体工学を学んだおかげではあるので、学問って大事だなと思いました。なにせ、常日頃シリコン半導体を見ては「PN接合の上に回路作ってるんだよなコイツ」と思っているので。

半導体工学(や電子工学)を抜きにして回路理論のみで考えると意表を突くような話ばかりですので、結構興味深いお話になったと思いますが、どうでしょうか。