オペアンプのパラメーターと音質の関係
最近ようやくオペアンプの性能パラメーターと音質の関係が見えてきたので、まとめておきます。
オペアンプの音質比較でよくある問題
このブログでも何度となくオペアンプの試聴テストをしてきましたが、「回路によって最適なオペアンプが変わる」というのは、本当によくあることです。
もちろん、電源電圧が変わればオペアンプの性能が変化しますし、選択できるデバイスも変わるため、最適解が変わるのは当然です。しかし、電圧が一定でも回路によって最適なオペアンプはコロコロ変化します。
でもよく考えてください。巷で信じられているとおり、もし本当にTHD(歪率)だけで音質が決まるのなら、それはちょっとおかしな話です。ある程度「型(お約束)」を守った回路でみんな製作しているのに、オペアンプのTHDがそんなに大きく変化しますか?
実のところTHDは音質に影響する指標の一つにすぎません。音質には次の三大要素が強く関わっています。
- ノイズ・歪み性能(THD)。
- 駆動力。
- 負荷。
オペアンプにどうしても不足する駆動力と、オペアンプに悪影響を与える負荷への対策。それらを解決する回路を用意して、初めてオペアンプのデータシートに記載されているパラメーターで音質比較ができます。
試験回路

この図は、一般的なアンプ回路を簡略化したものです。ヘッドホンアンプでもスピーカーアンプでも、フルディスクリートアンプであっても、基本的にはこの構成になります。*1
バッファの必要性
一部の特殊なオペアンプを除くと、オペアンプ単体ではヘッドホンすら満足に駆動できません。その足りない駆動力を補うためのバッファ回路が必要になります。
バッファは駆動力が大きいことはもちろんですが、入力インピーダンスも十分に高くする必要があります。もしバッファの入力インピーダンスが低いと、バッファ自体がオペアンプへの重い負荷となり、性能を十分に発揮できなくなるからです。
フェライトビーズの役割
図中のB1はフェライトビーズ(もしくは1uHのコイル)です。付いていないアンプも多いのですが、これは負荷(ケーブル容量を含む)を切り離し、オペアンプの持つ性能を発揮させるのに必須の要素です。特に、アンプの高周波特性や安定性を大きく改善することができます。
このB1を付けるかだけで、天と地ほど音質が変化します。アンプに限らず、DACだとしても、このフェライトビーズの有無で大きく音質が変化します。
試験回路の重要性
この回路により「駆動力」を補い「負荷」を切り離すことで、初めてオペアンプ自身のノイズ性能や歪み性能(THD)と音質の関連を議論することができます。
逆に言えば、アンプ回路の「駆動力」と「負荷対策」が不足していると、オペアンプの持つ「駆動力」等に大きな影響を受けてしまい、何を評価しているのか分からなくなってしまいます。
一般的に語られるオペアンプの音質は、このような「どのパラメーターが支配的か分からない状態」で行われることが大半です。そのため、乗せる回路によってまったく異なる評価が生まれてしまいます。
電源ノイズ
電源ノイズも、オペアンプの性能評価時には除外したい項目です。特に昇圧・降圧のDCDC電源はノイズが大きく、本格的に対策をしない限り音質にかなりの悪影響を与えます。昇圧等していなくても、一般的なACアダプタやUSB電源もすべてDCDC電源ですので、今どき電池以外でDCDCではない電源を探すのは難しいレベルです。(対策の参考資料:電源とノイズのお話)
試験回路では電池を使用し、この要因を除外しています。
結論
- THDは、空間再現能力(音の混ざらなさ)に関係します。
- ノイズ性能は、音の綺麗さ(明瞭さ)に関係します。
なんとなくですが、ノイズ性能が多いといわゆる「つまらない音」になる印象があります。
低電圧ディアルオペアンプの音質評価(試験結果)
新作のヘッドホンアンプを使用し評価しました。
| オペアンプ | GBW (MHz) | THD+N @1kHz | 電圧ノイズ(nV) | 補足 | ||
|---|---|---|---|---|---|---|
| @1kHz | @10Hz | 0.1-10Hz | ||||
| OPA2626 | 120 | 0.000006% | 2.5 | 14.0 | 800 | 電池2本はやや問題あり |
| ADA4807-2 | 180 | 0.000009% | 3.3 | 5.5 | 160 | 電池2本はやや問題あり |
| OPA2863 | 50 | 0.000010% | 6.0 | 10.0 | 500? | A付はノイズ多い |
| MAX44251 | 10 | 0.000063% | 6.2 | 7? | 123 | |
| LME49721 | 20 | 0.000200% | 4.0 | - | - | 駆動力高め。op-dbufで使用 |
| TLV2387 | 6 | 0.000300% | 8.5 | 8.0 | 177 | OPA2387の選別漏れ |
| OPA2836 | 205 | 0.000030% | 5.0 | 24.0 | 800? | |
| LT1807 | 325 | 0.000100% | 5.5 | 20? | 800 | |
| OPA2375 | 10 | 0.000150% | 4.6 | 30.0 | 1200 | |
| AD8656 | 28 | 0.000700% | 4.0 | 30.0 | 1230 | 駆動力高め |
| OPA2607 | 50 | 0.000708% | 3.8 | 38.0 | 1600 | |
| OPA2365 | 50 | 0.000600% | 4.5 | 110.0 | 5000 | op-dbuf3で使用 |
| LMP7732 | 22 | 0.002000% | 2.9 | 3.1 | 75 | 低ノイズ |
| LT6203 | 83 | 0.003162% | 1.9 | 24.0 | 800 | |
- THD+Nについて複数記載がある場合は、一番負荷が軽く、増幅率1倍のものを選んでいます。
- THD+Nの記載がないオペアンプもあり、代わりに「2次高調波のみの値(HD2)」を書いている場合があります。
- ノイズ値は、グラフから読み取ったものも含みます。"?"付きは推定値です。
概ね、THD順になっているのが面白いところですが、THDが良くてもノイズが多いものは「ガヤガヤ」してしまうので、評価が下がっています。空間再現よりも明瞭感を重視する場合は、違う順序になると思います。
表には電圧ノイズを記載しましたが、他に電流ノイズという値があり、本来なら回路を見ながら計算し合算して考慮する必要があります。ただ、オペアンプの入力端子インピーダンス(抵抗値)が十分に低いならば、概ね無視しても大丈夫です。*2
電圧ノイズは、一般的に1kHzの値が書かれることが多いのですが、オペアンプのノイズには「1/fコーナー」といって急激にノイズが増えるポイントがあり、1kHzのノイズ量だけ見るのは不適切です。本来は「20-20kHzの音声帯域全体のノイズ量」が分かると一番良いのですが、記載されてることはほぼありません。
では、実際にどの指標を見れば一番参考になるのでしょうか。オーディオ用途では1kHzと併せて10Hz(や20Hz)のノイズ量を見て総合的に判断するのがよいと思います。1kHzのノイズ量は似た値であることが多いので、簡易的には10Hzノイズ量だけ見ても良さそうです。*3
まとめ
- オペアンプの性能を発揮させるには「駆動力」と「負荷の切り離し」が必要。
- 歪率(THD)は、空間再現能力に影響する。
- ノイズ性能は、音の明瞭感に影響する。
- ノイズ性能を見るときは、10Hzの値に注目。
- 電源ノイズ対策も重要。
ポイントは、各種の回路対策をした上で、THD性能もノイズ性能も両方揃って初めて良い音になるってところですね。
なお、スピーカーアンプでは信号が大きいためノイズの影響は相対的に下がりますが、一般的なスピーカーアンプのゲインは10倍以上あるため無視できるほどではありません。なぜなら、アンプゲイン10倍のとき、ノイズ量も10倍以上になるからです。*4
さて、オペアンプの音質の謎がようやく判明したので、アンプを作るたびに大量のオペアンプを買って試聴せずに済みそうです(苦笑)