トランス式ACアダプタの基礎と ADA-T60/E のレビュー
5V動作のスピーカーアンプ回路を製作中なのですが*1、秋月6Vスイッチング電源を使ったら(トランス式電源に比べて)音が悪かったので、ナカバヤシ(旧ミヨシ)製トランスACアダプタを購入しました*2。写真右は比較用のサンヨー(SANYO)製ACアダプタです。

使ってみると普通トランス式ACアダプタと挙動が違うので、トランス電源の基礎的な部分の解説をしつつ解析してみました。また、分解せずに解析する過程で教科書で見るような電子回路の知識を活用しますので、そういう意味でも面白いかもしれません。
なぜトランス式ACアダプタが必要なのか?
今一般的に売られている電源装置は、ほぼほぼすべてスイッチング電源と呼ばれるものです。変換効率が良く小型化できるのですが、トランス式電源に比べてノイズが多いという特徴があります。これは原理上避けられない問題です。
アナログ回路は電源ノイズによって性能(アンプなら音質)が劣化しますので、そういった用途ではトランス式電源が使用されたりします。
ちなみに、スイッチング電源もトランス自体は使用してるためトランス式という名称は不正確ですが、便宜上、旧来の電源回路をトランス式電源、旧来の電源アダプタをトランス式ACアダプタと呼ぶことが多いです。
標準的なトランスACアダプタの回路

図1が一般的なトランス式ACアダプタの回路です。トランスによってコンセントと絶縁をしつつ電圧を変換し、ブリッジダイオードで波形を整えて(全波整流)、コンデンサで平滑するだけの単純な回路になります。*3
トランス式電源と言った場合は、この出力を3端子レギュレーター等で安定化している場合が多いと思います。
ADA-T60/Eの性能を調べる
出力に負荷抵抗を接続し、その時の電流と電圧を同時に測定しました。また比較として、サンヨーアダプタも測定しました。
| 負荷抵抗 | ADA-T60/E 6V 700mA | サンヨー 10.5V 600mA | ||
|---|---|---|---|---|
| 電圧 | 電流 | 電圧 | 電流 | |
| 解放 | 6.19V | 0mA | 15.5V | 0mA |
| 1KΩ | 6.19V | 6mA | 14.8V | 15mA |
| 100Ω | 6.16V | 60mA | 13.7V | 133mA |
| 20Ω | 6.03V | 260mA | 10.8V | 520mA |
| 16Ω | 6.00V | 315mA | 10.3V | 606mA |
| 10Ω | 5.87V | 550mA | 8.92V | 852mA |
| 8Ω | 5.80V | 669mA | - | - |
- 測定時のACコンセント電圧は101Vです。
- アダプタの性能を知りたいので、電流計を含めた電圧を測定しています。
スペック上6V/700mA出せることになっていますが、6Vを維持できるのは300mAまでです。トランス(電源)において「6V/700mA」と言った場合、一般的に次の意味になります。
最大700mAの電流が取れます。700mAの電流を取ったとき電圧が6Vになります。700mAより少ない電流(負荷)のとき、電圧が上がります。
測定結果と見比べると正直スペック詐称感はありますが、「電源電圧は±5%の誤差まで許容される」というのも一般的な概念なのでギリギリセーフかなという感じです。
トランス式ACアダプタの性能は大きさに比例する
最初の写真を見てほしいのですが、左が700mAで右が600mAです。通常、ACアダプタの体積の6~7割がトランスで、2~3割が電解コンデンサです。トランスは2次側電圧に比例して巻数が増えます。また2次側電流に比例して導線が太く(断面積が広く)なります。つまり、出力性能(出力電力)は物理的な体積に比例するのです。
体積的に右のサンヨーアダプタの半分ぐらいしかないので、電圧差を考慮しても、公称通り700mA取り出せる感じはしません。
電圧の特性がおかしい
表の低負荷の部分に注目してほしいのですが、サンヨーのトランス式ACアダプタでは、少しでも電流を取り出すと急激に電圧が下がっています。それに対してADA-T60は、低負荷時にほとんど電圧が変化していません。
図2でピーク電圧8Vのアダプタを仮定して説明します。無負荷時の全波整流回路の出力電圧は、(コンデンサで平滑された結果)8Vになります。それが少しでも負荷が増えると7Vに低下します。というのも、回路構成の仕組み上、使用できるエネルギーは波形の色を塗った部分に限られるからです。

このように、少しでも電流を消費すると(無負荷に比べて)劇的に電圧が低下するのが、一般的なトランス式ACアダプタの特徴です。
この特徴を持っていないことから、ADA-T60は通常のACアダプタ回路ではないことが分かります。
ちなみに、スイッチング電源では、無負荷から出力限界値まで電圧はほぼ一定になります。
平滑コンデンサの容量を知りたい
出力電圧の件は一旦置いておいて、今度は別角度から検証してみます。
分解せずに中に入っている平滑コンデンサの容量を知ることはできるのでしょうか? この問いの答えは、一般的なトランス式ACアダプタなら可能です。コンセントから外した状態で容量測定モードに設定したテスターを出力あてれば測れます。
コンデンサ容量を測定する仕組み
抵抗を介してコンデンサを充電してそのときの波形を見て容量を測定してます。簡単な「1KΩ+X uF」のRC平滑回路を例にやってみましょう。6Vの電源に接続し、コンデンサが充電される様子をオシロスコープで測定しました。

時定数を習ったことはあるでしょうか。「コンデンサの容量」と「抵抗の値」を掛け算したもので、電源電圧の 63.2% まで充電(もしくは 36.8% まで放電)するのにかかる時間を示します。

オシロ上で時間を測定すると、6V×0.632≒3.8Vに充電されるまで「665ms」かかっています。ここからコンデンサの容量を求めます。
C=665uFとなります。実際には560uFのOSコンでした。固体コンデンサの漏れ電流等の影響で少しズレていますが、概ね正しい値と言えます。
どうやら出力と並列に負荷抵抗が付いている
同様にADA-T60の平滑コンデンサを調べようとしたところ、問題が発生しました。充電電圧に達する前に頭打ちになるのです。5.00V注入において、「1.5KΩ」時に「2.60V」、「3.0KΩ」時に「1.758V」で頭打ちになります。
色々考えられますが、単純にアダプタの出力に負荷抵抗(出力と並列な抵抗)R1が付いているような気がします。

アダプタ内部が図3の回路だと仮定した場合、この仮定が正しければ抵抗分圧の知識を使って、R1の抵抗値を調べることができそうです。
2つとも値が一致するので、負荷抵抗に関する仮定は概ね正しそうです。R1の抵抗値は(実在する抵抗値として)1.62KΩ(もしくは1.65KΩ)だと推測されます。
ちなみに、もし異なる印可電圧でR1の推定抵抗値が一致しない場合、仮定が間違っていることになります。その場合、単なる負荷抵抗ではなく、定電流負荷など色々な回路になっているかもしれません。
波形がおかしい……
負荷抵抗があることを考慮した上で、出力から電圧をかけて充電してみたのですが様子がおかしいのです。

(1)がADA-T60、(2)が普通のRC回路です。電圧印可on/off時に、急激に電圧が変動しています。単純なトランス式電源回路ではありえない挙動です。とりあえず、このような挙動になる回路を考えてみました。

D1/D2のように出力にシリコンダイオードをこのように取り付けると、こんな波形になりそうです。ブレッドボード上に(平滑コン以降の)回路を再現して、実際に測定してみたところ同じような波形(2)が観測できました。

ダイオード分を無視して時定数を測定してみます。

満充電で6Vになるように電源電圧を調整しるので、 (6-1.42) \times 0.632 + 1.42 \fallingdotseq 4.31。時定数が 576ms。「電圧入力抵抗Ri」は、平滑コンデンサから見ると「ACアダプタ内部の負荷抵抗R1との並列」と見なせるので、Ri//R1=1K//1.62K≒618Ωで計算する必要があります。
平滑コンデンサには 1000uF が付いているようです。
出力の脈流(リップル電流)を調べてみる
470Ωの抵抗負荷を付けてリップルを測定してみました。①がサンヨーアダプタ、②がADA-T60です。

ADA-T60ではまったく脈流が見られません。これ自体は良いことなのですが、これまた普通のトランス式アダプタではないことを意味します。
ADA-T60だけ負荷抵抗を27Ωに変更してみました。

ようやく脈流が見られるようになりましたが、全波整流回路では 50Hz×2 = 100Hz の脈流が見られるはずが、50Hzの部分しかありません。山と山の間に「小さな山」は見られますが謎です。さすがに半波整流ということはないと思いますが、少なくとも単純な全波整流ではないことは確かです。
ADA-T60の回路を予想する
これまでの測定結果から以下のことがわかりました。
- 単純なトランス式ACアダプタ回路ではない。
- 出力に負荷抵抗として1.62KΩが内蔵されている。
- 平滑コンデンサの容量は1000uFっぽい。
そして波形から、謎のダイオードが接続されていることが推察されますが、
- 電圧降下が通常より少ない
- 出力リップルが通常より少ない
という2点と併せて考えると、図5のように出力が安定化されている可能性が高いと思います。

ZDは基準電圧用で、仮にツェナーダイオードを置いただけで、実際はどういう構成になっているかはわかりません。リニアレギュレータIC等が入っている可能性もありますが、レギュレーターを使っているとしたら安定度が悪すぎると思います。
何にせよ「逆電圧防止用のダイオード」と「レギュレーション用のNPNトランジスタ(とそれに内蔵されるシリコンダイオード)」、「レギュレーションを安定させるための負荷抵抗」とそれぞれの要素の意味と測定結果が綺麗に説明できます。ただリップル観察で見られた「単純な全波整流ではなさそう」という点についてはよくわかりません。
ナカバヤシのADAアダプタシリーズは電圧が違っても「同じサイズ、同じ重量(250g)、同じ700mA」なので、その他の部品はすべて一緒で基準電圧の部分だけ変えている可能性が高いと思います。
まとめ
基礎的な電子回路の知識を使って、ADA-T60の中身を推測してみました。
ADA-T60の良いところ。
- 出力は軽く安定化されており、リップルノイズが少ない。
悪いところ。
- 出力に負荷抵抗(1.62KΩ)や安定化回路が付いているため、使用していなくても電力を消費する。
- 公称6V/700mAを謳いながら、6Vを維持できる電流は300mAまで。
- 1.2Aを継続出力させても、4.5Vに下がるだけで出力制限されない。*4
売り方が「スイッチングACアダプタの代わりに使うとノイズが減って良いですよ」みたいな感じなので、よく分かってない購入者が何も分からず差し替えても機器が壊れないよう、極端に高い電圧が出ないよう調整しているんじゃないかと思います。
普通のトランス式ACアダプタがほしい
マルツとかでも売ってるけど高いんですよね……。Twitterで教えてもらった以下のお店は安くて良さそうです。