FETヘッドホンバッファアンプ(単3×2)

はてブ数 2007/12/24電子::アンプ

2009/09/19 全面修正

※旧タイトル「単3電池式 高音質ヘッドホンアンプ(改良型)」

『FETヘッドホンバッファアンプ』(または「FETヘッドホンアンプ」)*1


目次

コメント欄トラックバック欄にみなさんの作例がありますので、ぜひ参考にしてください。

リンク等はご自由にどうぞ。

*1 : 電池式ということで簡易なものとお思いかもしれませんが、電池はAC電源では到底太刀打ちできない最高に綺麗な(ノイズの少ない)電源であり、このヘッドホンアンプの音質は本格的なものです。

概要

  • 純A級のDC直結の無帰還アンプ*2です。
  • 電圧増幅はできませんので、出力レベルが低い再生機器、低能率ヘッドホンとは接続できません。
  • 単3電池2本(特にニッケル水素電池)で使用できます。消費電流は60mA程度で、容量にもよりますが連続24時間程度は使用できます。*3
  • 歪み率は0.1%@1kHz-1Vppです(同条件で旧型は0.7~1.0%、CMoyは0.01%です)。*4

音質はこのオペアンプ一発ヘッドホンアンプ(006P×2、±9V電源)をOPA627で駆動したときよりも良い音だと感じました。好みですけど。

みなさんの感想にも書かれているとおり、「クリア」で「素直」で「音の分離」が良く「楽器の空間位置が分かる」(音が広がりを保つ)などの特徴があります。入力された音がほぼそのまま出てくると考えるといいかと思います*5

音の厚みとは無縁ですので、そういうのが好きな方にはあまりお勧めできません*6

*2 : オーバーオール帰還がないという意味。FETソースフォロワは局部帰還回路。

*3 : エネループ(ニッケル水素電池2000mAh)使用時に30時間連続稼働できました。

*4 : 32Ωイヤホン接続時の測定。なおこの3つを比べても、単純な歪み率に起因する音の差はほとんど分かりません。

*5 : その意味で再生装置側のごまかしが効きません

*6 : 経験上、音を少し色づけすると厚みが出るようです。色づけによっては大変心地良く感じることもありますので、好みですね。また、BassをEQでブーストしたような低音が好きな方も、あまりお勧めしません。低音ははっきり明瞭に再生されますが、Bassブーストとは性質が異なります。

回路図

最新の回路図以前の回路図
fet-hpa3.png
fet-hpa2.gif

無帰還(オーバーオール)なので抵抗による音質劣化の影響を受けやすい回路です。1Ω抵抗としてMPC78を推奨していましたが、OHMITEの無誘導巻線抵抗の方が音がよいです。

しかし、いっそ抵抗レスの方が音がいいのでこちらを推奨。アイドル電流は抵抗レスの方がやや増えます。たしか2~3割ぐらい。

部品の選定と入手先

FET変更するとまったく動作しません

部品名必要数入手場所
2SK1708千石電商(3個1袋)
2SJ748千石電商(3個1袋)
●コンデンサ(下記のいずれか)
SEPC 2700uF/2.5V2マルツ(店舗にもあり)
SEPC 1500uF/6.3V2千石電商。鈴商やラジオセンターにもあり。

ボリュームの選定はこの記事を参照してください

製作時の注意点

  • 電源のコンデンサからFETへ向かう配線は3本(+V/GND/-V)はできるだけ太く短くしましょう。
  • FETの個体差にもよりますが、常時70~80mA程度消費します。
  • 電源電圧にも左右されますが20~40mV程度の出力オフセットが出ます。電気的に問題にはなりませんが気にする人は他の回路でも作ってください。
  • FETのIdssを合わせることで、出力オフセットをほぼ0mVにすることが可能ですがなかなか大変です。
  • 消費電流を減らしたい場合はパラ数を減らしてください。音質からいうと最低BL3パラ(GRなら5パラぐらい?)はほしいところです。
  • ヘッドホンのインピーダンスが30Ω未満のとき、パラ数を増やさないと、このアンプでの駆動は難しくなります。*7
  • 単3×2の電池ボックス使用時は、中点から配線する細工が必要です。実際には電池の±だけ繋いでも問題なく動作するのですが、つながないと低音の鳴り方が悪くなります。
  • ブレッドボードでテストするときは発振しやすいので、電源の配線に極力注意してください(なるべく近くにコンデンサを実装する)。

2SK170側、2SJ74側どちらかだけしか接続されていない状態でも音は出てしまいます。大きく音が歪むときは配線(ハンダ付け)を疑ってください。

補足の解説

  • 以前の回路のR1/R2は発振防止用です。この抵抗とボリュームはアンプの音質を大きく左右します参考)。
  • 現在の回路ではR1/R2は省略しています。実装(配線)よってはこの状態では発振することがありますので、どうしてもおさまらないようならR1/R2の実装を検討してください。抵抗による音質劣化をうけますので多少音質は悪くなりますが、発振している状態よりはよっぽど音質はいいはずです。

電解コンデンサ実装時の注意

電解コンデンサはハンダ付けをすると性能が劣化します。劣化した電解コンデンサの性能回復には、耐圧に近い電圧を100時間程度かける必要があると言われています。電圧が低いと、この回復は非常にゆるやかになります。

電池2本で駆動させる場合は可能な限り2.5V品を使ってください。性能回復を見込めるのは耐圧6.3V(6.3V 1500uF OS-CONとか)が限度でしょう。極端な例ですが、Muse KZは最低が25V品なので、単3電池では回復は見込めません。耐圧付近の電圧を100時間ぐらい加圧して性能を回復させる必要かあります。

もちろん接触不良の方が何十倍も悪いので、きちんとハンダ付けしましょう。

*7 : 低音がややもやつく

動作原理

アンプというよりはバッファです。電流を稼いでいるだけです。通常ヘッドホンで音楽を聴く際、プレイヤーよりも小さい電圧(1/5~1/100といった電圧)をヘッドホンに対して与えています。

電圧としては充分すぎる信号が得られているのに、電圧増幅回路を組み込むことは音質的に不利になることがあります。ならば再生装置に直接ヘッドホンをつければ良いという話になりますが、実際には出力インピーダンスや電流の問題から再生装置に直接ヘッドホンを付けても望む音質は得られません。

このアンプは電圧を増幅しないと割り切ることで回路をシンプルにし、単3電池で動くように設計されています。負帰還回路も存在しないため、数値上の歪み率は決して良いものではありませし、出力オフセット電圧(最大50mV程度)の問題は避けられませんが、シンプルにした音質上の恩恵を最大限受けることができます。特に抵抗レス増幅回路(ボリューム除く)はなかなか実現できないものですので、FETは音が悪いと思い込んでいる方にはぜひ一度試してほしいと思います。

よくある失敗

製作時に失敗される方がいるようなので、アドバイスを書いておきます。これは全部、知人が作ったとき実際に起こったトラブルです。

  • 左右で音量が違う
  • このとき音量の小さい方は割れたようになる
  • 片側だけ音が出ない
  • オフセットが1V近く出る

原因は次のどちらかです。

  • ハンダ不良
  • 一方だけ電池がない

2SK170(プラス側)と2SJ74(マイナス側)でコンプリメンタリになっていてますが、ハンダ不良によりどちらかしか動作しないとこのような現象が起こります。

おかしいなと思ったら。

  1. よく回路図を見直して配線を間違えてないか確認する。
  2. 念入りにハンダ付けをしなおす。*8

*8 : コンデンサの劣化云々よりハンダ付けが中途半端の方が100倍も悪いです。

回路の解説

アンプ回路や電子回路についてある程度知識のある人向けのお話になります。分かる人だけどうぞ。

  • 出力段が4パラになっているのは、電流を稼ぐというより出力インピーダンスを低くするためです。出力抵抗1Ωのとき(以前の回路)で1kHzに対し、BL4パラで4Ω、BL3パラで6Ω、2パラで10Ω前後、BLを1パラで20数Ωでした(ON/OFF法での計測)。
  • プッシュプル型回路構成なのでB級アンプと思われがちですが、A級です。A級とB級の違いはトランジスタに対する動作点の設定によるものですが、極端な話、無音時も再生時も消費電流が変わらないアンプはA級アンプです。
  • 仮にB級だとすると、出力インピーダンスがここまで下がらないので*9、音質はもっと悪いものになるでしょう。

一番気になるのは2SK170/2SJ74以外では動作しないことだと思います。

  • MOS-FET等エンハンスメント型素子は低電圧駆動不可能で、必然的にコンプリメンタルなJFETを選択することになります。この時点でかなり選択肢は狭くなります。
  • 出力インピーダンスに直結する順方向アドミタンスYfs=gmを見てみると、ほかのFETは(JFETの本来の特性である)低電圧、低消費電力向けに作られており、総じてYfsが低いことがわかります。
  • ほかのFETに取り替えて実験したことがあるのですが、オフセットが0.2V近く出てしまい使えませんでした。電源電圧に大きく依存してオフセットが出ます。
  • 2SK170/2SJ74はgmの高さ等が影響しているようで、電源電圧依存性が低く、おかげでこのようなアンプ回路が実現しています。

*9 : オンになっているFETのみしか出力インピーダンスに寄与しない。A級なので2SK170/2SJ74が常にオンになっている

他の回路図、改変回路図、追加情報

(1)旧記事の回路図(2)オフセット調節付
fet-hpa-lr.gif
fet-hpa2_zero-offset.gif

(2)は初段バッファに可変抵抗が付いています。ここで出力オフセットを調整できます(92booさんのアイデア)。どちらの回路も音質的には若干劣ると思います。

電源電圧

電源電圧が高い方が音質が向上するという話がありますが、次のことが判明しています。

  • 一般に、アンプやオーディオ機器が本来の性能(音質)を発揮するためには電源を入れて暖まるのを待つ必要があると言われています。
  • この時間は、物理的に暖まる時間ではなく、コンデンサの電荷が安定し本来の性能を発揮したり、抵抗の状態が安定して本来の音質を発揮するのに要する時間だと思われます。*10
  • この時間は、コンデンサの耐圧に対して電源電圧が高いほど(耐圧に近いほど)短くなる傾向があるようです。

この話はハンダ熱からの回復(いわゆるエージング)とは無関係です。回復終了後のお話になります。電源電圧やコンデンサの耐圧、普段どれだけの頻度で使用ているかなど様々な要因で変わりますが、このアンプは電源投入後1時間ぐらいで本来の性能を発揮しはじめるようです。

FET、出力抵抗と消費電流

横はFETランクと出力抵抗の値。

パラ数BL/1ΩBL/0.47ΩV/1ΩV/0.47Ω
113mA14mA25mA26mA
229mA30mA46mA50mA
342mA43mA65mA69mA
455mA57mA84mA88mA
568mA72mA100mA107mA

現在掲載回路は0Ω(抵抗レス)なのでさらに2~3割電流が増えます。アイドル電流をたくさん流す方が音質が向上しますが限度がありませんので、コメント欄を参考に変更してください。

2SJ74Vが入手出来なくても2SJ74BLを多めに並べれば同等の音質はでると思います

*10 : 経験上、抵抗によっては電源投入から1時間ほど立たないと音が安定しないものがあります。REY等

補足

(2009/07/19) Vランク4パラ+0.1フィルムコン4箇所追加+擬似Tボリュームのスペシャル版を1台手元に残していますが、いまもってって新型に負けない鳴りをしています。低音の止まりだけ新型に勝てませんが。

Vランクの代わりにBLランクを多めにパラ(5~6?)っても同等だと思います。