超高音質ヘッドホンアンプ - SakuraAMP Whiteの製作/op-ebuf
これまでの研究の集大成として、待望の新作ヘッドホンアンプ「SakuraAMP White」を設計・製作しました。

※以下、技術的な話に興味がない場合はBoothの紹介ページを見てね。
開発の経緯
このアンプの雛形は2個目のD級HPAの発表後くらいにはありました。開発コードはop-ebuf。長らくHPAを発表しない間も、研究自体は続けていた感じです。通常、回路Versionは完成形だなと思った時点で「Ver.1.00」としているのですが、手元にある基板を見ると2022年に「op-ebuf Ver.1.00」の基板が製作されています。*1
それなのに今まで一切発表していませんでした。その理由のひとつがD級ヘッドホンアンプ Ver.2.3のほうが音が良かったからです。D級HPAのノイズ対策や動作安定化に成功したのは去年のことですが、それ以前からD級HPAの音質ポテンシャルは高かったのです。
去年完成したD級HPAですが、ある意味「D級の究極とも言える形」になってしまったので、これ以上を目指すのならD級は無理だと悟りました。それを踏まえて、アナログ(AB級)回帰としてop-ebuf回路の改良に本格着手しました。そうして出来上がったのが、今回のヘッドホンアンプになります。
回路図と部品表
自作用の「op-ebufヘッドホンアンプ」回路図です。

| 番号 | 部品概要 | 数 | 型番等 |
|---|---|---|---|
| U3 | 低歪みオペアンプ | 1 | OPA2863 |
| D1-D4 | 小信号ダイオード | 4 | 1N4148等 |
| Q61-64,Q91-92 | PNPトランジスタ | 6 | 2SA1015等 |
| Q71-74,Q81-82 | NPNトランジスタ | 6 | 2SC1815等 |
| C61-64 | フィルムコンデンサ 10nF | 4 | ECH-U1C103JX5 or GX5 |
| C65-66 | フィルムコンデンサ 0.1uF or 10nF | 2 | ECP-U1C104MA5等, 省略可 |
| C71-72 | 高分子電解コンデンサ 2.5V 2700uF | 2 | PSCやA750等 |
| C73-74 | 高分子電解コンデンサ 2.5V 470uF以上 | - | NC/接続しない |
| R15-16 | 薄膜チップ抵抗 RT0603 2K or 2.2K | 2 | 10ppm or 25ppm |
| FB1-2 | 低ESRフェライトビーズ | 2 | BLM31KN102SN1L, MI1206K601R等 |
| VR1 | 2連ボリューム 10kA | 1 | R1610G等お好みで。ただし音質に超関わる。 |
電源は電池2本(最低±1.0V)から動作しますが、U3とC71-72の耐圧が許せば、広い範囲の電圧で動作します。回路定数を変更しなくても±3.0Vで問題ないことは確認していますが、R15-16を適当に増やしてあげれば、もっと高い電圧でも動作するはずです。
- トランジスタで結構音は変わります。なるべく「低雑音・高hfe」のものを選択してください。
- 電池2本の場合、使用できるオペアンプは限られます。
- OPA2863A(選別品)はノイズが増えてるので選ばないように。
回路の仕様(op-ebuf)
- 電源電圧: ±1.0V~
- 電源±1.25V時
- 最大出力: 1.1Vpp
- 消費電流: 4.6mA以下(エネループ使用時、連続400時間動作)
解説
原理的には、オペアンプ+バッファのシンプルな構成のヘッドホンアンプです。
オペアンプの負荷を最大限軽くし、高速かつ高出力のバッファでヘッドホンを駆動します。この際、高周波特性を殺さないように、出力負荷(コンデンサ成分)をフェライトビーズで切り離すことで、オペアンプ本来の性能を発揮しやすくなってます。
以前発表した低電圧ヘッドホンアンプの超進化版でもあります。

エミッタフォロワバッファ(SEPP)
ダイヤモンドバッファ(dbuf)がシングルエンドプッシュプル(SEPP)のエミッタフォロワバッファ(ebuf)になりました。ダイアモンドバッファは「トランジスタの歪み(非線形特性)を『前段と後段』『プラス側とマイナス側』で互いに打ち消すから低歪みになる」という触れ込みで大昔から使われています。自分も、それを信じて何度となく作ってきたし、現代のアンプ設計でもよく使われます。
しかし、実際試してみたら単純なエミッタフォロワ型のほうが明らかに音良かったんですよね。条件とか色々あるとは思いますが、自分が試した範囲ではダイアモンドバッファは完敗でした……。今回のようなエミッタフォロワ回路のほうが配線も楽だし、部品も単純で作りやすく、ダイアモンドバッファ使う意味皆無じゃんというのが今回の出発点です。
一応理由を考えると、PNPトランジスタとNPNトランジスタの特性が違いすぎて理論通り動かないせいかなと思います。2SC1815/2SA1015のように「コンプリメンタリ」を謳っているトランジスタは無数にありますが、実際に特性を測ってみると「とてもコンプリとは言えない」ぐらい違うんですよ……。
定電流源を変更した
以前の回路図をみると分かりますが、オペアンプ後の負荷として定電流ダイオード(CRD)を使用しています。
ただ、電圧が低いことと、素子自体の元々の性能が相まって、なんちゃって定電流源ぐらいの役割しかしていませんでした。試しにCRDを薄膜チップ抵抗に変更したら、なんとびっくり音質が見違えるほどアップ*2。CRDお前だったのか、バッファの音質を悪化させてたのは……。
という感じで、しばらく薄膜チップ抵抗を使っていたのですが、抵抗は抵抗で電圧変更に無茶苦茶シビアで面倒くさいんです。電池電源の宿命でもあるのですが、電源電圧が変動してしまいます。新品アルカリ電池は1.7V近くあり、放電終止電圧は1.0Vです。2本なら3.4V~2.0Vです。その範囲のすべてでうまーく動くように抵抗値を設定しないと、熱暴走の危険と隣り合わせ。
そんなこんなで色々検討した結果(別記事)、定電流回路をきちんと作ることにしました。トランジスタ12個中8個は定電流回路用です。でもこのことによる恩恵はとても大きく、目に見えて音質アップとなりました。
バッファ駆動用コンデンサを除去した
回路のC73-74がNCとなっていることに気づいたかと思います。
以前のアンプでは、このコンデンサ(C3)の容量が大きければ大きいほど音が良くなりました。今回の回路では、CRDを定電流源に変更したことが影響したのか、少しの差ではありますが、C73-74のコンデンサを付けない方が音が良くなります。なので、NC推奨です。
ですが、このコンデンサは「出力電圧範囲を拡張する機能」があるため、任意で付けても構わないという意味でパターン自体は残してあります。出力拡張の詳細は、以前のHPAの解説を参照してください。
ダイオードの改善
オペアンプの出力が変化するとき、本来「一定電圧であるべきダイオード」はどうしても非線形な動作をしてしまい、バッファの応答性を損なってしまいます。
バッファに重要なのは線形性と高速応答性です。
C61-64がこれを改善する役割をしており、10nFのコンデンサがあることで非線形性や応答性を改善することができます。聴感上、明らかに分かる音質改善効果がありました。これはオリジナルの発見です。*3
参考までにLTspiceによるシミュレーション結果を貼り付けておきます。*4

オペアンプの選定
「オペアンプのパラメーターと音質の関係」に書きました。
SakuraAMP Whiteの製作(キット/完成品)
リリース版の回路も簡単に解説しておきます。

マイコンは限界までクロックを落として使用しており、動作時間の大半はsleepすることで消費電流の削減と、アンプへのノイズ源となることを避けています。さらに、電源に抵抗は挟むことでアンプへの影響を極力小さくしています。*5
電子ボリュームは「AD5142」です。電池2本だと若干電圧不足ではありますが、それでも十分な性能を発揮しています。この高級ICのボリュームとしての音質は素晴らしく、単品でも物理ボリュームより断然良いものになっています。
ただ、AD5142は256段階しか音量を調整できません。音量を調整しやすいように、また電子ボリュームの耐圧による難しい問題を避けるために(問題の詳細は「電子ボリュームの耐圧問題。低電圧で使用するときの注意点」参照)、抵抗アッテネーターを組み合わせています。副効果として「ボリュームの音質改善方法(電子ボリュームを含む)」の記事でも触れたとおり、ボリュームの音質をさらに改善しています。
SakuraAMP Whiteの音質

超良いです。むちゃくちゃ良いです。
もうなんか良すぎて表現が難しいのでサラっと書く程度にしておきます。
- 大好評だった過去作低電圧ヘッドホンアンプVer.3と比べても、一瞬で違いが分かるレベル。
- 生録の音源だと、イヤホンで聞いているのにスピーカーが鳴っているのかと勘違いすることも。
- あまりに良すぎるので、C61-64の音質改善を将来のために内緒にしようかと考えた。
キットおよび完成品
キットではない自作報告もお待ちしています!!
まとめ
- 研究の集大成としてのヘッドホンアンプ。
- 大幅音質アップでヤバい。
- 初めての完成品の配布。
お気軽にコメント、感想を頂けたら嬉しいです。