TPA6211スピーカーアンプの製作(TPA1517アンプ進化版)
久しぶりにスピーカーアンプを製作しました。キット頒布中ですが、自作向けの解説もあります。
概要
- Ti製TPA6211を使用した、高音質なBTL出力スピーカーアンプ。
- 単電源動作で利便性が高く、音質的に有利なDC直結アンプ。
- 【キット】電子ボリューム内蔵で、ボリュームによる音質劣化が小さい。
- 【キット】赤外線リモコンに対応し、遠隔で音量のUp/Down/Mute操作が可能。
- もちろん普通のアナログボリュームでの操作も可能。

開発の経緯(読み飛ばし可)
「最近、音質良くて簡単なスピーカーアンプキットなくない!?」
ユニバーサル基板で作ったTPA1517アンプを長年使っていて満足もしていたので、再販しようかなとも思っていました。そこでICの値段調べたら、昔は400円ぐらいだったのに今買うと1個800円とかするんですよ(円安の影響)。
「古くて高いアンプICを使うくらいなら、新しいICで音良さそうなやつを探そう」と思ったのですが、アナログアンプICって全然売ってないんです。時代はとっくの昔からD級ですよ。過去にはフィルタレスD級アンプキットも作ってますけど、TPA1517に比べて電力効率以外に大きな優位性があるわけではなく、多少音質が良いものの、回路が複雑になって製作が面倒なんですよね。音質を最大限引き出すための工夫も大変(高コスト)です。
さて話は変わるんですが、D級アンプって出力フィルタ、最近ならほぼほぼ出力フェライトビーズが付いています。ところがアナログアンプになると付いてることは少ないですね。高出力なアンプに、ちょっとしたフェライトビーズか1uHのコイルが付いているぐらい。でも普通は付いてません。なんで付いてないのでしょうか?
去年発見したのですが、あらゆるアンプは出力にフェライトビーズを付けてあげると劇的に音質が改善します。それはTPA1517アンプもそうだし、ヘッドホンアンプもそう。何ならDACのLPFだってそうです。
最近のICを標準回路で使用するなら、ぜんぜん開発されない「アナログアンプIC」より、常に新製品が出る「D級アンプIC」のほうが音質はやや良いと思います。でも「アナログアンプIC」は、出力にフェライトビーズを付けてやると(D級を凌駕するような)驚異的な音質になるので、これを使って簡単ながら高音質なアンプを作りたい。
加えて、
- 疑似Lアッテネーターが劣化しやすく、ガリに困っていたので電子ボリュームを内蔵したい。
- 映像スピーカーとして使うために、リモコンに対応したい。
という2つの欲張りを実現しました。
回路図

部品表
| 番号 | 部品概要 | 数 | 型番等 |
|---|---|---|---|
| U1 | 5Vレギュレーター | 1 | LM2940T-5.0, NJM7805等 |
| U2 | 2.5Vレギュレーター, 低ノイズ | 1 | ADP150AUJZ-2.5, ADP7182AUJZ-2.5等 |
| U3,U4 | 3.1W完全作動アンプ | 2 | TPA6211A1, MSOPなので注意 |
| C1 | 積層セラミックコンデンサ | 1 | X7R推奨, 省略可 |
| C11-14 | フィルムコンデンサ 10nF | 4 | ECHU1C103, ECPU 0.1uFでも可 |
| C20 | 高分子電解コンデンサ 16V 1000uF | 1 | A750等 |
| C21,C22 | 高分子電解コンデンサ 6.3V 820uF | 2 | A750等 |
| C23,C24 | 高分子電解コンデンサ 6.6V 1500uF | 2 | A750等, SEPC(OS-CON)可 |
| R13-16 | 薄膜チップ抵抗 RT0603 | 4 | 10ppm or 25ppm |
| L1 | 電源用コイル 100uH | 1 | 12RS104C等, 省略可 |
| FB1,3-6 | 低ESRフェライトビーズ, FB1省略可 | 5 | BLM31KN102SN1L, MI1206K601R等 |
| VR1 | 2連ボリューム | 1 | R1610G等お好みで。ただし音質に超関わる。 |
- 最大出力: 8Ω負荷時は約8Vpp、4Ω負荷時は約7Vpp
- 最大利得: 4倍(12dB)
※キットでは一部仕様が異なります。
製作時の注意
- 入力信号のマイナス(基準)はGNDではありません。いわゆる仮想GND仕様になっており、回路内の仮想GND(=VCOM)は2.5Vです。このため、再生装置と電源を共有することはできません。
- ACアダプタを使用する場合、何も気にする必要はありません。
- ACコンセントが一緒とか、そういうのも全然問題ありません。
- 例えば、PCのラインアウトを使用し、同じPCのUSB電源を使用してこのアンプを駆動することできません。
- U1のドロップ電圧によって入力電圧を調整してください。
- LM2940なら6V以上、7805なら7V以上必要です。
- 大きめの電流を消費する場合は、L1, FB1の直列等価抵抗による電圧降下も考慮してください。
- TPA6211は裏面が放熱パターンになっています。
- 大きめの出力を取るときは必ず接続してください。
- 小さい出力でも、この放熱パターンを接続したほうが音が良くなります(確認済)。
- 変換基板を使用する場合は、放熱パターンによる予期せぬショートに注意してください。
- 掲載回路図では、配線の都合でTPA6211の3/8, 4/5ピンを逆接続にしてますが、ペアを逆にしても構いません。
- ボリュームは疑似L接続のほうが音質はよくなりますが、ガリが出やすいのでお好みで。
- 薄膜チップ抵抗RT0603は音質が大変良い抵抗です。なるべく指定品をご使用ください。
電源について
- 電源電圧の推奨は6V~9Vです。
- U1とC20の耐圧が許せば電源電圧を15Vとかにしても構いませんが、U1の放熱が必要になったり、消費電流次第ではU1が熱破壊されます。
- U1をLM2940T-5.0などのLDO(低ドロップレギュレータ)にすると、6VのACアダプタが使用できて便利です。
- アンプでどれくらい出力するかによりますが、最低でも0.5A、出来れば1A流せる電源を推奨します。
- 音質に関わるので、トランス式電源(トランス式ACアダプタ等)を強く推奨します。
- マルツのトランス式ACアダプタとか(ただし高い)。
- ナカバヤシADA-T60/E。*1
- 多少音質が犠牲になってもよければ、秋月GF06-US0610Aは安くて便利です。これでも十分という人も多いと思う。
解説
経緯で書いたとおり、比較的新しいアナログアンプICは数えるほどしか存在しません。その中でTPA6211を選択し、最初にTPA1517とTPA6211(共に入力カップリングコンあり, 出力フェライトビーズあり)を聴き比べました。結果、TPA6211のほうが少し音が良いことを確認し、このアンプの製作に取り掛かりました。
でもどうせ作るなら、色々改良してもっと良くしたい。
着目したのは「入力カップリングコンデンサ」です。アンプでカップリングコンを除去するには、通常両電源が必要になります。でも、クリーンな両電源を作るのは(電源自体をトランスから自作する必要があるので)なかなかハードルが高い……。

ところで、この手の単電源アンプICは内部的に仮想GNDを持っていて、TPA6211だとそれは2番ピンに当たります。これをうまく使えばいいのでは? こういう仮想GNDは、ほとんどの場合「抵抗分圧」ですので、外部からもっとクリーンな電源を与えたら、さらに音質が向上するのでは?
ということで、超低ノイズ2.5Vレギュレーターで外部電源化して、DC直結接続にしました。
ただこの構成ひとつだけ欠点がありまして、2.5V電源ラインの電圧変動が5V電源に追従しないので、電源オフ時にポップノイズが鳴ってしまいます。別にスピーカーが壊れるほどではありませんが、ご注意ください。*2
ゲイン(利得)設定
一般的なスピーカーアンプのゲインは10倍(20dB)ぐらいあるんですが、普通はそんなに要りません。ゲインが大きいということは、その手前のボリュームでその分信号を小さくしていることになります。
- 微小信号
- 高ゲイン
微小信号を扱うということは単純にSNを悪化させます。
一方、オペアンプのデータシートを見たことある人なら分かると思いますが、ゲインは低ければ低いほどアンプの性能は良くなる傾向にあります。つまりどちらもアンプにとっては悪い要素です。つまり、ゲインは小さいほど音質は良くなります。
正直、自分で使うだけならゲイン1倍にしたいところですが、世の中にはいろんな再生装置やスピーカーがあるので、4倍に設定しました。
最大音量
最大8Vpp出力なので、音量を心配される方が居るかもしれませんが、通常使用するレベルではまったく問題ありません。
参考までに「88dB/W, 8Ω」のスピーカーで「隣から苦情来るかも?」レベルの音量を出すと2Vppぐらいです。このとき計算上の音圧は75dB/chになります。
| スピーカーの能率と抵抗 | 最大音量 | 2ch合計 |
|---|---|---|
| 88dB/W, 8Ω | 88dB | 91dB |
| 88dB/W, 4Ω | 91dB | 94dB |
価格.comの最低能率のスピーカーでも80dB/W(8Ω)です。これでも、80dB/chの音(左右合わせて83dBの音)は出せる計算になります。ちなみに、一般的に音圧が80dBを超えると騒音と言われます。
キットの電子ボリュームについて
電子ボリュームとは言っても、このアンプで使っているMCP4651Tはデジタルポテンショメーターと呼ばれる、ただ同じ値の抵抗が256個並んでいるだけの半導体です。半導体内部の抵抗(シリコン薄膜抵抗?)は、かなり音質が良いことが経験上分かっていて、電子ボリュームはアナログボリュームに対して大きなアドバンテージになります。
MCP4651Tは電子ボリュームとして使用していますが、一般的には電子ボリュームICとは呼ばれません。一般に電子ボリュームICと呼ばれるものはデジタルポテンショメーターの一種であり、内部の抵抗値がAカーブになるよう構成されていたり、必要電圧が高かったり、内部にオペアンプを内蔵しているものが多かったりします。
電子ボリュームICを使用すると簡単にAカーブの減衰特性が得られて大変ありがたいのですが、電圧とオペアンプ内蔵がネックになってしまいます。±12Vとか下手に作るとノイズだらけになってしまって、電子ボリュームで音質を劣化させかねないんですよね……。
オペアンプ内蔵なら、PGA2320とかPGA2311とかが有名でしょうか。オーディオアンプを自作する人ならオペアンプで音が変わる(オペアンプで音質劣化する)ことはご存知だと思いますが、なぜみんな電子ボリュームに内蔵されている音質も不明なオペアンプの存在を無視するのかよくわかりません。
素のデジタルポテンショメーターで試した感じだと、「RT0603 10ppm + RD925G/R1610G」構成の疑似Lより少し良いぐらいの印象ですので、オペアンプ内蔵品だと電子ボリュームの良さを殺して、アナログボリュームに劣ることすらあるのではと思います。実験したわけではないので、あくまで印象ですけど。
音質とか
音を届ける方法がないので困りものですが、過去にその音質とコスパの良さから一世を風靡した(?)TPA1517アンプと比べても、圧倒的に良い音で鳴ります。
- 出力フェライトビーズ
- DC直結の恩恵
- 電子ボリューム
- IC自体の進化
と4つの進化要因がありますが、一番影響が大きいのは①ですね。「TPA1517アンプ」とか「自作アナログアンプ」を持ってる人は、騙されたと思って低ESRフェライトビーズ(1Kぐらい)を出力に突っ込んでみてください。
※空間解像度を最優先で評価しています。
キットについて
この記事の回路図はキットのものよりシンプルですので、自前で部品を集めてユニーバーサル基板などに実装すると結構低コストで製作できます。ぜひ挑戦してみてください。電子ボリュームなくても十分に良い音しますよ。
蛇足
全然関係ないけど、OS-CON(SEPC) 6.3V 1500uFの音、良かったです。DIP品のOS-CONは終売が近いので将来的に手に入らなくなりますが……。
まとめ
- TPA6211を使用したアナログスピーカーアンプを製作した。
- 例の如く、DC直結に魔改造した。
- 電子ボリューム、ガリが出なくて最高。
- 赤外線リモコンのデコードにかなり苦労した。
- 赤外線通信でマンチェスター符号使うPHILIPSと、何でも独自規格のSonyは特に許せない(苦笑)
もし次を作るとしたら、オペアンプ載せ替え式のパワーアンプかなと思っていますが、このアンプでかなり満足したし、やり切った感もあるので作る気は当分起きなそう。
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