単3電池式 ヘッドホンバイポーラバッファアンプ
このヘッドホンアンプは当ブログの中で、初代に当たります。こんなんでもヘッドホンアンプになるんだという感じであって音も別段悪くはないのですが、成熟度の面から以下の新しいものを推奨します。
このアンプはいわゆるダイアモンドバッファのみのアンプで、どこにでもある部品(2SC1815/2SA1015)で作ることができます。出力電圧範囲が狭い問題などもありますが(高能率ヘッドホンならば十分な音量が出せる)、ちょっと試すには面白いと思います。こんな回路なのに、音も決して悪くありません。
概要
- 単3電池2本で動く、とてもシンプルなヘッドホンアンプです。
- トランジスタ式ですが、オペアンプ式+少々の手間で製作できます。
- 解像度が非常に高く、立ち上がり立ち下がりの大変良い音です。
- 低音から超高域まで綺麗に再生するNO-NFB型DCアンプです。
- LM4880よりいい音がします。
- 大音量は出せません。出力レベルが低い再生機器とは接続できません。また低能率ヘッドホンでは駆動力不足になります。
- 歪み率が(音量によりますが)最大1%程度あります。
回路と解説
回路図は片チャンネル分です。電源以外はもう1つ製作してください。
- 単3電池2個、特にニッケル水素電池でも動作できるように回路定数を決めています。
- R1は発振防止用です。当然無い方が歪み率がよいのですが、外したり(短絡したり)これ以上小さくすると入力ボリュームの位置によって発振することがあります(特にGNDに落としたとき)。*1
- コンデンサはOSコンだと音質か良いと思いますが、動かすだけなら何でも構いません。音響用コンデンサ(Muse,UTSJ等)でも構いませんが、コンデンサは音質に直結します。
- ボリュームは専用の記事を参照。
- 回路の抵抗値や電源電圧は安易に変更しないでください。無闇に電圧をあげるとトランジスタが熱暴走する(壊れる)可能性があります。
- 部品点数が少ないので好みに応じて音響用抵抗を使うと良いと思います。特にNO-NFBなので抵抗が与える音質への影響は大きめです。1Ωの抵抗がない場合は少し大きく(~4.7Ω)しても構いません。適当な1Ω抵抗は今のところMPC78 1Ωです。無誘導巻線抵抗の方が音がいいのですが(OHMITEとかDALEとか)。
- R2/R3の100Ωは1mA程度のCRD(定電流ダイオード)でも構いません(こちらを参考に)。
再生について
- このアンプはAB級動作ですが無音時の消費電流は大きめです。電源電圧やトランジスタにもよりますが、片チャンネルで常時10~15mA、両チャンネルで20~30mA消費します。
- OSコンを使用した場合、エージング(電池をつないで放置する)は100時間程度必要なことがあります。
- 電池の電圧が下がってくると音が歪みます。音が歪んだら電池を交換してください。ニッケル水素に比べ非経済的ですが、オキシライド乾電池やアルカリ電池を使う方が歪みは少なくなります。
- 2500mAhのニッケル水素2本で(音量によりますが)連続24時間以上再生できます。
詳しい解説
詳しい方はすぐわかると思いますが、ただのダイアモンドバッファ回路です。
ヘッドホンで音楽を再生しているとき、その信号(電圧レベル)は通常入力電圧よりも小さくなります。オペアンプの利得は少なくとも80dB程度あり、オペアンプ入力端子ではピーク0.1mV程度の信号(電圧差)を扱っています(小さい音ならば1uV以下)。回路中に小さな信号が存在するということは、それだけ電源や外来ノイズに弱くなることを意味しています。
最近の再生装置(ラインアウト)は+4dBuと言われ、ヘッドホン直結時には(電流不足は別として)音割れして聴けないぐらいの信号が出ています。ほとんどのケースで、再生装置出力側の最終段にオペアンプが付いていてバッファしています。
あまり意味のない*2再生装置側のオペアンプを排除してしまうという割り切った考えでこの回路は作られています。
- デメリット
- 負帰還回路が存在せず最大1%程度の歪み率が代償となっている。
- 出力インピーダンスがオペアンプ帰還使用時ほど下がらない(0.1Ω未満か、0.5Ωかの差)。
- メリット
- (負帰還回路がないので)超高域まで優れた立ち上がり特性を得られる。
メリットについて解説します。オペアンプではその高い利得から周波数追従性を優先すれば回路が不安定になります。発振しないように収めこまれていても、位相特性の変化は避けて通れません。オーバーシュートもその1つで(これは顕著な例であるだけで他にもある)波形の乱れによる音質劣化が避けて通れません。
NO-NFBといわれるオーバーオール帰還のない回路では、波形くずれのない優れた高周波特性を得ることができます。
また、一般に両電源を作るため006P(9V乾電池)から生成する回路がよく使われますが、この回路は両電源回路です。中点からGNDを生成する回路では、電流を流したときに(大きな音が鳴ったときに)GNDの電位がゆらいでしまい音がぼやけます。*3
音質評価
以下の部品は当時のもので、今もって推奨しているわけではありません(特に上2つ)。
- ボリューム アルプス製ミニデテント10kΩ
- 抵抗 タイヨーム音響用抵抗(30円/本)
- トランジスタ 2SA1015/2SC1815
- 電源 SANYOニッケル水素 2500mAh
大変にクリアな音です。ノイズは皆無。再生装置の音が如実にヘッドホンから出てきます。音の立ち上がり、立ち下がりが非常によく超高域まで綺麗に再生され、それでいて刺々しさは微塵もなく非常になめらかな音がなります。DCアンプだけあり、超低音まできちんと再生され、またその低音がきちんと止まります。ビートを打つような曲で変にもわもわすることはありません。
LM4880と比べると、LM4880の再生音が雑に感じます。そしてLM4880の高域がまるい(スライドガラス越しに聞いている)印象です。(LM4880は決して悪い音ではないのですが……)
(音量によって)歪み率が最大1%程度ありますが、通常再生時に歪みを感じることはありません。ただし、電池の電圧が下がると歪みます(このときは電池を交換します)。電源を入れて1時間ぐらいで鳴り方が変わり、より良くなります。
NO-NFBですので、NO-NFBアンプの製作について(マイナーオーディオの部屋さん)の解説はそのまま当てはまります。