D級ヘッドホンアンプ Ver.2.3 / pwm-hpa2.3

はてブ数 2025/10/04電子::HPA

単3電池2本で高速発振(約28MHz)させたD級ヘッドホンアンプVer.2.0の改良版です。記事執筆時点で、手持ちHPAの中で最高音質。

過去記事

原理などは過去記事を参考にしてください。この記事はVer.2.0の改良版になります。

原理抜粋

D級アンプは発振周波数が速ければ速いほど音質が格段に良くなるのですが、一般的なMOS-FET素子はそこまで高速に動作できません。市販されているD級アンプは、(2025年の)最新のもので2MHz程度ですので、このアンプがいかに高性能か分かるかと思います。

このヘッドホンアンプは超高速ロジックICをパラレル使用することで、高速性と低出力インピーダンスを実現しています。遅くて大きいMOSを使わずに、速くて小さいMOSを複数使用することで高速性と低インピーダンス化を同時に実現しています。

回路図と部品(Ver.2.30)

pwm-hpa2.30.png

部品番号部品備考
U1-2LTC6752(or ADCMP600)2高速コンパレーター
U3-10NC7WZ16P6X8高速ロジックバッファ
B1-6フェライトビーズ(低ESR品)6MI1206K601R 600Ω@100MHz
D1-4SBD(1A以上流せるもの)4CUHS20S30推奨。CRS01(TE85L,Q,M)等
R1-2薄膜チップ抵抗 10KΩ(VRと同じ抵抗値に)2RT0603
R3-6薄膜チップ抵抗 100Ω4RT0603
VRボリューム 10KA(10K以下で)1RD925G等
C1-2PPSチップフィルム 100pF(1nFでも可)2ECH-U1C101GX5
C3-4PPSチップフィルム 1000pF(=1nF)4ECH-U1C102GX5
C31-38PPSチップフィルム 1000pF(or 10nF or 0.1uF)8ECH-U1C102GX5
C21-28導体性高分子コンデンサ(PSC 2.5V 2700uF等)8低電圧・大容量品(1500uF以上推奨)
D9LED1-
R9カーボン抵抗等 470Ω1-
  • 発振周波数: 約28MHz
  • 全消費電流: ±1.20V 67mA, ±1.30V 75mA
  • この回路図は、LTC6752用に調整されています。

部品購入リンク

D9(LED), R9, VR, 電源スイッチ以外すべて。

ミスがあっても責任は取れませんので、よく確認してご利用ください。予備が必要(不要)な場合は、上の部品表と見比べて数を調整してください。

回路の説明と補足

  • ボリュームは必ず10KΩ以下を使用する。
    • 5K以下が使えれば理想的だけども、ほぼ売ってない。
    • 疑似Tではなく通常ボリューム接続でも構わない。ノイズ的には通常ボリューム接続のほうが有利。
  • C31-C38は、10nFでも0.1uFでも良い。
  • R3-R6はIC(U1,U2)に可能な限り近づけて配線する。
  • R3-R6は抵抗値を増やすと「ホワイトノイズ」が増える。
  • R5,R6はなくても良いが、安定性のためには付けたほうが良い。
    • ボリュームからの距離や配線にもよるが、一般的には付けたほうが音質も良い。
  • C1,C2は容量を増やすと音質がわずかに劣化する。
    • 大きな差でもないので、C3,C4と同じ1nFを付けても良い(部品購入が楽になる)。
    • 最悪付けなくてもよいが、付けたほうが安定性が良い。
  • R3,R4は抵抗値をこれ以上減らすと音質が劣化するが、「ホワイトノイズ」は減る。
  • C3,C4の容量を増やすと音は劣化するものの「歪みにくく」なる。
    • また消費電流も増える。両方とも10nFまで増やすと125mA程度になる。
  • C3,C4の容量を減らすと音は劣化し「歪みやすく」なる。

再生時はLINE OUTに接続してボリュームを絞って使うほうが音が良くなります(プレイヤー側の音量は最大であるほうが良い)。これはどんなアンプでも言える一般的なことですが、このアンプは他のアンプ以上に入力インピーダンスに敏感であるため、ボリュームはなるべく絞った状態で使用したいのです。

他のコンパレーターを使用する場合

  • ADCMP600: 発振周波数が低めで、音質はそこそこです。
  • TLV3601: 音質は良いですが、電源電圧が±1.05V必要です。
  • LTC6752: 音質は一番良いです。しかし、ADCMP600で製作した場合に比べて難易度が高くなります。

Ver.2.20基板(シルクVer2.10表記)で実装する場合

  • D1-D4がフェライトビーズの後ろに配線されています。フェライトビーズ手前のほうが音質はやや良くなりますが、変更しなくても動作に問題はありません。
  • R5,R6のパターンはありませんが、直結でも動作に問題はありません。
  • C7,C8のパターンはありませんが、未実装推奨なので問題ありません。
  • 旧基板の回路図

使用上の注意点

  • 高能率イヤホンでのホワイトノイズ問題があります。
  • WiFiルーターの近くなど電磁波の強いところでは、無線由来の外来ノイズが乗ります。
    • コンパレーター周辺またはアンプ全体をシールドすると解消(低減)できます。
  • 電池がなくなると(動作時電圧が±1Vを切ると)急激にノイズが増えます。
  • ノイズ問題を避けたい場合、コンパレーターにADCMP600を使用してください。それでも問題が起きる場合のみ「R3=R4=470Ω~1KΩ」程度に増やしてみてください。

ノイズ対策や回路調整のあれこれ

音が歪む問題

このアンプ、PWMとか言いながらオシロで見るとほとんどsinみたいな波形で発振してます。長い検証を経て分かったのですが、sinに近ければ近いほど音質が良くなり、再生音が歪みにくくなります

例えば、SBDを試して外してみると音質が少し悪くなるのですが、波形をみるとこんな感じです。

SBDありSBDなし
pwm-hpa2.3_wave01.png
pwm-hpa2.3_wave02.png

今回の回路は、定数を調整してsinに近くなるようにしています……というのは嘘です。実際は、音が良くなるように調整したら何故かsin波みたいになっただけです。

ホワイトノイズの問題

これが本当に大変でした。アンプ自体が28MHzで高周波発振しているため、自分自身でそのノイズを拾ってしまいます。コンパレーター(U1,U2)をガチガチにシールドしても、ぜんぜん消えませんでした。

試行錯誤を重ねた結果、コンパレーター入力端子のインピーダンスを下げると劇的に改善することが分かりました。具体的には、今まで「R3:C3=1K:100p」だったたものを「R3:C3=100:1000p(1n)」にしました。

この改良により、電圧に対する音圧感度が140(dB/V)を超えるようなイヤホンではわずかにノイズが聞こえますが、普通のヘッドホンやイヤホンではほぼ聞こえないレベルになりました(聴力や試聴環境にもよる)。

{\rm 電圧感度(dB/V)} = {\rm 電力感度(dB/mW)} + 20\log\frac{1000}{\rm インピーダンス(\Omega)}

同じ理由で、ボリュームに使用する抵抗値も小さい方がよく、また疑似Tではなく通常ボリューム構成にしたほうが(ホワイトノイズ低減という意味では)有利になります。

ちなみに、R3を47Ωや10Ωにも減らしたり、C3の容量も変えたりしましたが、ホワイトノイズは減っても音質が悪化しますので、多少のホワイトノイズは諦めてこのままの定数で運用するほうが良さそうです。

音圧感度の換算例
  • 8Ω:+42dB, 12Ω:+38dB, 16Ω:+36dB, 20Ω:+34dB, 32Ω:+30dB, 40Ω:+28dB, 50Ω:+26dB

例えば、感度「108dB/mW 16Ω」のイヤホンを電圧感度換算すると「108 + 36 = 144dB/V」となります。

まとめ

Ver.2.30で、ようやく安定した回路にできました。現時点(2025/10/04)で手持ちヘッドホンアンプの中で一番良い音です。ノイズという欠点もありますが……。

色々試していると、D級ではなくsin発振型PWMとか作れれば、もっと安定して音が良くなるのではないかと思いました。どうやって作るかが問題なんですけど。


Ver.2.30の試作基板の余りをBispaさんに委託中です。完売しました。

作例リンク