計測用、差動プリアンプの製作

はてブ数 2012/04/25電子::その他

オシロスコープで電源ノイズを測ろうとすると、色々と問題があります。

  • オシロのフロアノイズのために5mVppぐらいまでしか測定できない。
  • DCDC回路等を測ろうとすると、パルス性の高周波ノイズ(同相ノイズ)が回りこむためまともに測定できない。

同相ノイズ対策として「差動プローブ」というものが市販されていますがオシロスコープが買えてしまうぐらい高いため困っていました。

もっと安価に、お手軽に測定するための差動プリアンプを製作しました。

設計方針

差動プローブと同じものをと考えると結局コストに跳ね返るので、ある程度割りきって作りました。

  • 入力インピーダンスは1KΩないしは10KΩにする。
  • カップリングコンデンサを置いてAC専用にする。
  • 電池駆動(単4×4本)にする。

この割り切りをすることで、コストを抑えたままSNR等の性能をある確保することができます。

  • 帯域幅は100MHz以上(下は20Hz以下)
  • ゲインは 40dB(100倍)

100MHzのsin発生器がないため確認はしていませんが、データシートを見ての設計上は確保したつもりです。

回路図と部品

diff-pre-amp.png


部品番号部品備考
U1LTC64051完全差動オペアンプ(900MHz,1600V/us)
U2LMH66291ローノイズ高速オペアンプ(800MHz, 690V/us)
R1-2,R7-R9高精度金属抵抗 1KΩ 0.5%5LGMFS25-102D
R3-R4高精度金属抵抗 10KΩ 0.5%2LGMFS25-103D
R5-R6高精度金属抵抗 100Ω 0.5%2LGMFS25-101D
C1,C2OS-CON SEPC 6.3V/1500uF26SEPC1500M
C11,C12無極性電解コンデンサ 22uF(10uF)2ECE-A1VN220U等
C21-C24PSチップフィルム 0.1uF4ECP-U1C104MA5
C31-C34PPSチップフィルム 0.01uF4ECH-U1C103GX5
C41-C44PPSチップフィルム 1nF(1000pF)4ECH-U1C102GX5
SW12回路電源スイッチ1100DP1T2B4M6QE等
J1ターミナルブロック3P(縦)1秋月のTB112-2
J2BNCコネクタ10731000131
  • R3,R4は0.1%高精度抵抗(MFP-25BRD52-10K)に変更するとCMRRが上昇します。

性能測定

無事完成したので性能を測定してみました。

<1>はオシロの通常のプローブ(X1)接続で、<3>がプリアンプ接続です。プローブ倍率をX0.01設定してあるため、オシロ表示値で正しい電圧値になっています。

プリアンプとオシロ間はBNCケーブルで繋ぎました。*1

以下、GND同士は常に接続しています。

フロアノイズ

非測定回路は何も接続せずに、+IN、-IN、GNDをそれぞれ接続(短絡)しました。

floor-noise_1K.PNG

150~200uVppぐらいでしょうか。


入力インピーダンス10KΩ(R1=R2=10K, R3=R4=100K)の場合、300~400uVpp程度。

floor-noise_10K.PNG


入力インピーダンス100Ω(R1=R2=100, R3=R4=1K)の場合、100uVpp程度。

floor-noise_100.PNG

ゲインと最大入力

1KHzのsin波を入れて測定。ファンクションジェネレーターのOutに+INを、GNDに-INを接続しました。

gain_check.PNG

max_input.PNG

40dB(100倍)設定でオシロで見る限り問題なく40dBのゲインがあります。最大入力範囲は±15mV程度のようです(ニッケル水素充電池使用)。

CMRR

重要な同相除去比です。ファンクションジェネレーターのOutに+IN及び-INを接続しました。

  • 1KHz
    CMRR_1K.PNG
  • 10KHz
    CMRR_10K.PNG
  • 100KHz
    CMRR_100K.PNG
  • 1MHz
    CMRR_1M.PNG
  • 10MHz
    CMRR_10M.PNG

1MHz以下の範囲で同相除去比は66dB。10MHzでは62dBぐらいでしょうか。ファンクションジェネレーターが15MHzまでのため測定できていませんが、このまま下がり続けると思われます。

LTC6405の仕様書では75dB程度のCMRRですが0.5%精度の抵抗を使ったせいか、ゲインをかけたせいか仕様書ほど出ませんでした。LTC6405の仕様書から類推するに、100MHzでも40dB程度はあると思われます(あくまで類推です)。

*1 : インピーダンスマッチングはされないのですが、ここは妥協。

主な仕様

測定結果を踏まえて主な仕様をまとめておきます。

項目補足
電源±2.5V(単4ニッケル水素電池4本)ICの絶対定格が5.5V
入力インピーダンス1KΩ100Ω、10KΩに変更可
最大入力範囲±15mV電源電圧低下時は下がる
出力インピーダンス1KΩあまり下げると発振する
ゲイン40dB-
フロアノイズ150uVpp入力インピーダンス1KΩ時
CMRR(R3-4=0.5%)1MHzまで66dB、10MHzまで60dB100MHz時40dB程度と類推
CMRR(R3-4=0.1%)1MHzまで70dB以上、10MHzで66dB100MHz時50dB程度と類推
帯域幅10Hz~100MHz ※上側は類推値IC仕様書より類推

製作物

diff-pre-amp-bd.jpg

写真の感じで製作しました。一部部品番号を変えてあり、C11-C12が電解コンではなく1uFのフィルムコン×2になっています。

MAX2-8-9という金属ケースにあわせて製作したのですが、ケースに入れても入れなくてもノイズの影響などはほとんど変化ありませんでした。ハイインピーダンスラインを作らないように製作したのが効いてるかも知れません。

一応、MAX2-8-9の前パネルと後ろパネルを加工したのですが、あまりに分厚く(3mm)とんでもなく苦労しました。相変わらずタカチの実使用は何も考えてない素敵仕様に感動しまくりでした。もう2度と加工したくないので、両側のふた以外同サイズのMX2-8-10等に変更するつもりです。

入力端子はBNCが一応使えるようになっていますが、設計上はターミナル端子を介して+IN, -IN, GNDのリードを伸ばすようになってます。

また、+IN, -INは「だいたい等長配線」にしてありますが(手計算で……)、そもそもGHz帯でもないので意味はまずないと思います(苦笑)

計測実例

ヘッドホンアンプで1KHzのsin波を再生しヘッドホンから音を鳴らしたときの+側電源のノイズの様子です(音量は適当)。

<1>がオシロスコープのプローブで直接測定、<3>が差動アンプ(-INはGNDに接続)を介して測定したものです。

D級は高周波スイッチによる高周波ノイズが多いことが見て取れます。



D級の無音時のノイズを時間軸とレベルを変えて見てみます。

classD-pow-noise.PNG

  1. フィルタ手前の出力波形(U2、1pin)。トリガーソース。
  2. 「+側電源」をオシロのプローブで直接測定(X1=1倍)。
  3. 「+側電源」を制作した差動プリアンプを使用して測定。

<2>と<3>の電圧レンジの違いを比べてほしいのですが、差動プリアンプがパルス性のノイズの回り込みを防いでいるのが分かるでしょうか。

高精度抵抗でCMRR改善 2012/06/07

R3,R4を高精度抵抗(MFP-25BRD52-10K 0.1%精度)に変更して、CMRRを再調査しました。

1K1M10M
CMRR_0.1p-1K.png
CMRR_0.1p-1M.png
CMRR_0.1p-10M.png
74dB70dB66dB

66dBから74dB程度まで改善しました。U1の仕様値が75dBなのでこんなものでしょう。20KΩを2つ並列にしても一緒だったので性能限界だと思います。

波形ひずみが大きいのは電源電圧に対して入力電圧が大きいことと、綺麗なSin波ではないこと*2が原因として予想されます。1Vの交流なんて実際は測定しないのでまあいいかなと。

交換前のLGMFSは高精度抵抗よりもCMRRは落ちますが、抵抗自身のノイズはLGMFSのほうが小さいようで、実測定でとちらを使うかは悩ましい問題があります。

現在は

超低ノイズなLGMFSAに変更しました。変更直後はノイズが酷くて使い物になりませんでしたが、数日エージング(電源onで放置)してかなり良い状態になってきました。

簡単に調べた感じだと、CMRRはLGMFSとそんなに変わらないかもしれない。

*2 : SG-4105という比較的安価な15MHz DDSファンクションジェネレーターなので

まとめ

  • 40dB差動プリアンプを製作して、電源等のノイズ測定がやりやすくなった。
  • しかし本格的な高周波性能は測定器がないため確認できず。
  • 分厚いアルミパネルの加工に大変苦労をした。タカ○のケースは相変わらずクソ

もし頒布するとすればケースなしで1万近くかな……。希望者が少なく割に合わないのでやめました。

生基板(基板のみ部品一切なし)なら少しあります。基板上にC11、C12のパターンはなかったりしますが(写真参照)。それでも良ければ希望頒布価格を書いてメールください。