計測用、差動プリアンプの製作
オシロスコープで電源ノイズを測ろうとすると、色々と問題があります。
- オシロのフロアノイズのために5mVppぐらいまでしか測定できない。
- DCDC回路等を測ろうとすると、パルス性の高周波ノイズ(同相ノイズ)が回りこむためまともに測定できない。
同相ノイズ対策として「差動プローブ」というものが市販されていますがオシロスコープが買えてしまうぐらい高いため困っていました。
もっと安価に、お手軽に測定するための差動プリアンプを製作しました。
設計方針
差動プローブと同じものをと考えると結局コストに跳ね返るので、ある程度割りきって作りました。
- 入力インピーダンスは1KΩないしは10KΩにする。
- カップリングコンデンサを置いてAC専用にする。
- 電池駆動(単4×4本)にする。
この割り切りをすることで、コストを抑えたままSNR等の性能をある確保することができます。
- 帯域幅は100MHz以上(下は20Hz以下)
- ゲインは 40dB(100倍)
100MHzのsin発生器がないため確認はしていませんが、データシートを見ての設計上は確保したつもりです。
回路図と部品
部品番号 | 部品 | 数 | 備考 |
---|---|---|---|
U1 | LTC6405 | 1 | 完全差動オペアンプ(900MHz,1600V/us) |
U2 | LMH6629 | 1 | ローノイズ高速オペアンプ(800MHz, 690V/us) |
R1-2,R7-R9 | 高精度金属抵抗 1KΩ 0.5% | 5 | LGMFS25-102D |
R3-R4 | 高精度金属抵抗 10KΩ 0.5% | 2 | LGMFS25-103D |
R5-R6 | 高精度金属抵抗 100Ω 0.5% | 2 | LGMFS25-101D |
C1,C2 | OS-CON SEPC 6.3V/1500uF | 2 | 6SEPC1500M |
C11,C12 | 無極性電解コンデンサ 22uF(10uF) | 2 | ECE-A1VN220U等 |
C21-C24 | PSチップフィルム 0.1uF | 4 | ECP-U1C104MA5 |
C31-C34 | PPSチップフィルム 0.01uF | 4 | ECH-U1C103GX5 |
C41-C44 | PPSチップフィルム 1nF(1000pF) | 4 | ECH-U1C102GX5 |
SW1 | 2回路電源スイッチ | 1 | 100DP1T2B4M6QE等 |
J1 | ターミナルブロック3P(縦) | 1 | 秋月のTB112-2 |
J2 | BNCコネクタ | 1 | 0731000131 |
- R3,R4は0.1%高精度抵抗(MFP-25BRD52-10K)に変更するとCMRRが上昇します。
性能測定
無事完成したので性能を測定してみました。
<1>はオシロの通常のプローブ(X1)接続で、<3>がプリアンプ接続です。プローブ倍率をX0.01設定してあるため、オシロ表示値で正しい電圧値になっています。
プリアンプとオシロ間はBNCケーブルで繋ぎました。*1
以下、GND同士は常に接続しています。
フロアノイズ
非測定回路は何も接続せずに、+IN、-IN、GNDをそれぞれ接続(短絡)しました。
150~200uVppぐらいでしょうか。
入力インピーダンス10KΩ(R1=R2=10K, R3=R4=100K)の場合、300~400uVpp程度。
入力インピーダンス100Ω(R1=R2=100, R3=R4=1K)の場合、100uVpp程度。
ゲインと最大入力
1KHzのsin波を入れて測定。ファンクションジェネレーターのOutに+INを、GNDに-INを接続しました。
40dB(100倍)設定でオシロで見る限り問題なく40dBのゲインがあります。最大入力範囲は±15mV程度のようです(ニッケル水素充電池使用)。
CMRR
重要な同相除去比です。ファンクションジェネレーターのOutに+IN及び-INを接続しました。
- 1KHz
- 10KHz
- 100KHz
- 1MHz
- 10MHz
1MHz以下の範囲で同相除去比は66dB。10MHzでは62dBぐらいでしょうか。ファンクションジェネレーターが15MHzまでのため測定できていませんが、このまま下がり続けると思われます。
LTC6405の仕様書では75dB程度のCMRRですが0.5%精度の抵抗を使ったせいか、ゲインをかけたせいか仕様書ほど出ませんでした。LTC6405の仕様書から類推するに、100MHzでも40dB程度はあると思われます(あくまで類推です)。
主な仕様
測定結果を踏まえて主な仕様をまとめておきます。
項目 | 値 | 補足 |
---|---|---|
電源 | ±2.5V(単4ニッケル水素電池4本) | ICの絶対定格が5.5V |
入力インピーダンス | 1KΩ | 100Ω、10KΩに変更可 |
最大入力範囲 | ±15mV | 電源電圧低下時は下がる |
出力インピーダンス | 1KΩ | あまり下げると発振する |
ゲイン | 40dB | - |
フロアノイズ | 150uVpp | 入力インピーダンス1KΩ時 |
CMRR(R3-4=0.5%) | 1MHzまで66dB、10MHzまで60dB | 100MHz時40dB程度と類推 |
CMRR(R3-4=0.1%) | 1MHzまで70dB以上、10MHzで66dB | 100MHz時50dB程度と類推 |
帯域幅 | 10Hz~100MHz ※上側は類推値 | IC仕様書より類推 |
製作物
写真の感じで製作しました。一部部品番号を変えてあり、C11-C12が電解コンではなく1uFのフィルムコン×2になっています。
MAX2-8-9という金属ケースにあわせて製作したのですが、ケースに入れても入れなくてもノイズの影響などはほとんど変化ありませんでした。ハイインピーダンスラインを作らないように製作したのが効いてるかも知れません。
一応、MAX2-8-9の前パネルと後ろパネルを加工したのですが、あまりに分厚く(3mm)とんでもなく苦労しました。相変わらずタカチの実使用は何も考えてない素敵仕様に感動しまくりでした。もう2度と加工したくないので、両側のふた以外同サイズのMX2-8-10等に変更するつもりです。
入力端子はBNCが一応使えるようになっていますが、設計上はターミナル端子を介して+IN, -IN, GNDのリードを伸ばすようになってます。
また、+IN, -INは「だいたい等長配線」にしてありますが(手計算で……)、そもそもGHz帯でもないので意味はまずないと思います(苦笑)
計測実例
ヘッドホンアンプで1KHzのsin波を再生しヘッドホンから音を鳴らしたときの+側電源のノイズの様子です(音量は適当)。
<1>がオシロスコープのプローブで直接測定、<3>が差動アンプ(-INはGNDに接続)を介して測定したものです。
- アナログヘッドホンアンプ
- D級ヘッドホンアンプ
D級は高周波スイッチによる高周波ノイズが多いことが見て取れます。
D級の無音時のノイズを時間軸とレベルを変えて見てみます。
- フィルタ手前の出力波形(U2、1pin)。トリガーソース。
- 「+側電源」をオシロのプローブで直接測定(X1=1倍)。
- 「+側電源」を制作した差動プリアンプを使用して測定。
<2>と<3>の電圧レンジの違いを比べてほしいのですが、差動プリアンプがパルス性のノイズの回り込みを防いでいるのが分かるでしょうか。
高精度抵抗でCMRR改善
R3,R4を高精度抵抗(MFP-25BRD52-10K 0.1%精度)に変更して、CMRRを再調査しました。
1K | 1M | 10M |
---|---|---|
74dB | 70dB | 66dB |
66dBから74dB程度まで改善しました。U1の仕様値が75dBなのでこんなものでしょう。20KΩを2つ並列にしても一緒だったので性能限界だと思います。
波形ひずみが大きいのは電源電圧に対して入力電圧が大きいことと、綺麗なSin波ではないこと*2が原因として予想されます。1Vの交流なんて実際は測定しないのでまあいいかなと。
交換前のLGMFSは高精度抵抗よりもCMRRは落ちますが、抵抗自身のノイズはLGMFSのほうが小さいようで、実測定でとちらを使うかは悩ましい問題があります。
現在は
超低ノイズなLGMFSAに変更しました。変更直後はノイズが酷くて使い物になりませんでしたが、数日エージング(電源onで放置)してかなり良い状態になってきました。
簡単に調べた感じだと、CMRRはLGMFSとそんなに変わらないかもしれない。
まとめ
- 40dB差動プリアンプを製作して、電源等のノイズ測定がやりやすくなった。
- しかし本格的な高周波性能は測定器がないため確認できず。
- 分厚いアルミパネルの加工に大変苦労をした。
タカ○のケースは相変わらずクソ
もし頒布するとすればケースなしで1万近くかな……。希望者が少なく割に合わないのでやめました。
生基板(基板のみ部品一切なし)なら少しあります。基板上にC11、C12のパターンはなかったりしますが(写真参照)。それでも良ければ希望頒布価格を書いてメールください。