PCM2704 DAC Ver2 - DC直結・出力オペアンプレス
PCM2704 DAC(Ver1)キットを再販にあたり、大幅強化してみました。
概要
委託しているPCM2704DACが2019年2月から在庫切れになっていて悩んでいました。
初期設計(Ver1.0)から10年以上が経過し、ハイレゾが普及しつつあるこの時代にPCM2704はチップの制限上48KHz/16bitまでしか再生できません。再販するにはある程度まとまった数を作る必要がありますが*1、不良在庫を抱えたくありません(苦笑)
しかしながら再販の要望も複数頂いており、どうにか応えたい。
それならばいっそのこと「音質に全振りしたVer2を作ってしまおう」というので作られたのがこのDACです。
回路図と部品表
部品記号 | 部品名 | 使用部品型番 | 数 | 備考 |
---|---|---|---|---|
U1,U2 | 低ノイズ3端子レギュレータ(3.3V) | ADP150AUJZ-3.3 | 2 | Ver1.4はADP150専用 |
U3 | USB DAC 16bit/48kHz | PCM2704 | 1 | PCM2704Cでも可(確認済) |
U4 | DCDC反転チャージポンプ | MAX889RESA | 1 | LTC660から変更 |
Q1, Q2 | 低ノイズPNPトランジスタ | BC859C, 215 | 2 | 2SA1015とかでも可 |
X1 | 12MHz TCXO 2.5ppm | FT3HNBPK12.0-T1 | 1 | 12MHz-TCXOなら何でも |
L1 | コイル 100uH/40mA | - | 1 | 2012チップ使用 |
R1-R9 | チップ抵抗各種 | - | 1 | 1608チップ使用 |
R51-R54 | 薄膜チップ抵抗 1KΩ | - | 4 | 高音質チップ抵抗 |
R55-R56 | 薄膜チップ抵抗 5.1KΩ | - | 2 | 高音質チップ抵抗 |
C1-C8 | 積層セラコン 0.1uF | - | 1 | 2012チップ使用(X7R) |
C9 | 積層セラコン 10uF | - | 1 | 2012チップ使用(X7R) |
C10-C18 | フィルムコン 0.1uF | - | 9 | 2012/ECPU使用 |
C21-C32 | 高分子コンデンサ 6.3V 820uF | A750 or PSF | 12 | 470uF以上 |
C51-C54 | PPSフィルムコン 1000pF | ECH-U1H102JX5 | 4 | 高音質フィルムコン |
J1 | USB Bメス基板コネクタ | - | 1 | - |
J2 | 4極ステレオミニジャック | - | 1 | - |
設計方針と改良点
Ver1.4の問題点
Ver1.4の回路はある種の完成系で、これを改良するとなると大きな決断をせざる得ません。大きな決断というのは、何かを犠牲にしてでも音質を一番良くするということです。
Ver1.4の出力LPFにはいくつかの欠点がありました。
- 出力抵抗がないため、使用できるオペアンプが限られる。
- 電源電圧が±4V程度しかないため、使用できるオペアンプが限られる。
- ベッセルフィルタ構成が良くない。*2
他にもオペアンプ電源が安定化されていないとか色々あるのですが、とにかくすべての原因は半ば強引にオペアンプでLPFを動作させていることにあります。ここは設計当時の「価格(回路規模)を抑えて音質を狙う」ために妥協した部分です。
Ver2.0での改良点
抵抗とコンデンサだけのシンプルなパッシブLPFのほうが(ほとんどのケースで)音質は良くなります。これは当たり前のことなのですが、なぜオペアンプが必要だったのでしょうか。
それはPCM2704の出力に含まれる出力オフセット(+1.64V)をキャンセルするためです。オフセットがなくなれば、音質低下の最大要因である出力カップリングコンを排除できます。このために多くのことが犠牲になっていました。
これをどうにか解決できないかと検討と試行錯誤を繰り返し、オペアンプを使わずに出力オフセットをキャンセルする方法を思いつきました。
オフセット分をマイナス電圧で引き下げる作戦です。オフセットを+1.64V、マイナス電源を-4.2Vとすると、R56は次のように求められます。
この5.1KΩは音質に関わるので(RT0603等を持っていないと)簡単には変更できません。よって、出力オフセットはR3の値で調整するのですが(50Ω増やすと出力電圧が+20mVぐらい変化する)、左右同時にしか調整できません。
とはいえ、USB電源電圧が5.00~5.05V付近ならば、コンデンサのエージング後にオフセットは20mV程度に収まるかと思います。
Ver2の特徴
- 出力オペアンプレス+出力カップリングコンレスで音質が超進化。
- 音響用抵抗として、超高音質なRT0603を使用。
- 電解コンをすべて音質の優れる高分子コンデンサに変更。
Ver2の欠点
音質は最大限進化させてものの、これはこれで欠点があります。
- 出力電圧レベルが小さく、約1.3Vppしか出せない。
これが音質のために犠牲になった部分です。PCM2704は出力電圧範囲が元々小さめなところに、パッシブLPF&オフセットキャンセルの回路を詰め込んだことが原因です。これは諦めるしかありません。
1Vppあれば最低限問題は起こらないと思いますが、そういうものだとご理解ください。
音質比較
手持ちのDACと比べてみました。
セルフ魔改造PCM2702 DACとの比較
常用している魔改造PCM2702ですが、今回のPCM2704-v2の圧勝という悲しい結末になりました……。
慌ててPCM2702を再改造するものの、再改造してもこのPCM2704-v2のほうが良いようです。*3
msBerryDACとの比較
去年まで頒布していたラズパイ用 384kHz/32bit DACです。PCM2704-v2の勝ちでした……。
「それはさすがにまずい」ので、msBerryDACを改造して C1/C2 を 10nF→1nF に変更しました。
C1/C2改造msBereyDAC > PCM2704-v2 > ノーマルmsBerryDAC
というわけで、DACはチップの性能もさることながら回路設計が重要というのがよく分かる結果になりました。
まとめ
- PCM2704 DACの出力電圧範囲を妥協して、音質を進化させた。
- 使用している部品も進化させた。
キットの購入は委託先から。このDACは再販しない可能性があります。