高音質な バスパワーUSB-DAC の製作 (PCM2702)

はてブ数 2008/07/29電子::DAC/ADC

※2010年8月、リファインした新型PCM2702DACを製作しました

※2009年6月、更なる高音質化改良の記事を書きました

※2009年2月、U4の音質へ影響を追加


pcm2702dac_pcb02.jpg

ヘッドホンアンプを公開した際、HPAだけあっても、まともな再生装置がないと良い音質で楽しめないことが残念でした。良い音を求め、SE-U55SXなどの市販のPCオーディオカードを様々改造し続けましたが、元々の回路以上の実力を出すのは困難が伴います。

そこでシンプルで高音質なUSBDACの設計・製作を行いました。利便性を考えバスパワーとしましたが、「バスパワーだからお手軽な構成」ではなく、「バスパワーだから徹底的に凝った電源回路」が特徴です。

  • Ti製PCM2702E使用。
  • DACとしてはめずらしくDC直結です(カップリングコンなし)。
  • 超低ESRコンデンサ10個、OS-CON10個使用。
  • 超低ノイズオペアンプの選別品、LT1028ACN使用(0.1-10Hz雑音、最大75nVpp)。

目次

主な仕様

PCM2702Eの仕様そのままですが。

  • USB1.0
  • 32kHz, 44.1kHz, 48kHz/16bitに対応
  • 2~3Vpp出力
  • SNRその他は回路と実装による*1

*1 : チップの性能を書いても意味がない。

回路図

pcm2702dac_circuit.png

※この回路は組み立て後の調整が必須です(後述)

部品表

部品記号部品名使用部品型番備考
U13端子レギュレータ(3.3V)NJM2391DL1-331LM3940も可
U2DCDC反転チャージポンプLT1054CN81-
U3USB DAC 16bit/48kHzPCM2702E1SNR=105dB
U4★オペアンプLT1677/LME49721を推奨14Vで動作すること
U5, U6★オペアンプ(LPF)LT1028ACN8#PBF2en=35nVpp(Typ)
U5, U6ICソケット(丸ピンDIP8)2-
TR1PNPトランジスタ2SA1015-Y1-
PowerLED高輝度赤色LED(リード)TLGE1601-
PlayLED高輝度緑色LED(リード)TLRE160A1-
XT1水晶振動子(12MHz)HC49US12.000MABJ1Citizen, 30ppm
D1~D5ショットキーバリアダイオード1S35Vf=0.2~0.3V
J1USB Bメス基板コネクタ1-
J2ステレオミニ、メス-1-
J3RCA基板用コネクタ(白)-1-
J4RCA基板用コネクタ(赤)-1-
L1~L5アキシャルコイル 4.7uHLAL03NA4R7K556MHz, 190mA
VR1, VR2半固定抵抗 500ΩGF063P1B50121kΩBでも可
RS1酸化金属皮膜抵抗 1W 0.1ΩRLF1S 0.1ΩJ1-
RS2~RS4カーボン抵抗 1/2W 10ΩRD50SJ 10ΩJ3-
RS5酸化金属皮膜抵抗 1W 1~2.2ΩRLF1S1キットは実装不可
R1, R2カーボン抵抗 1/4W 22ΩRD25SJ 22Ω2-
R3, R4カーボン抵抗 1/4W 2.2kΩRD25SJ 2.2kΩ2-
R5カーボン抵抗 1/4W 330ΩRD25SJ 330Ω1-
R6カーボン抵抗 1/4W 1MΩRD25SJ 1MΩ1-
R7~R14カーボン抵抗 1/2W 2.2ΩRD50SJ 2.2Ω8-
R15~R18金属皮膜抵抗 9.1kΩKOA MF1/4CC4-
R19~R24★音響用抵抗 10kΩREY25 10KΩ6LPF抵抗
R25, R26金属皮膜抵抗 1/4W 10ΩKOA MF1/4CC2Zobel
JP1, JP2ジャンパ(または100Ωの音響用抵抗)-2-
C1~C6低ESR電解コンデンサ 6.3V 1500uF6.3MCZ1500M616mΩ
C7~C10低ESR電解コンデンサ 10V 1000uF10MCZ1000M418mΩ
C11~C14汎用電解コンデンサ 16V 47uF1AUTES470M416V/10uF以上
C15~C19★OS-CON 6.3V 1500uF6SEPC1500M5-
C20★OS-CON 6.3V 560uF6SEPC560M1-
C21~C24★OS-CON 16V 470uF16SEPC470M4-
C25, C26チップ積層セラミックコンデンサ 22pFGRM1885C1H220JA01D21608, C0G, 5%
C27, C28★PPSフィルムコンデンサ 330pFECH-U1C331GX521608, 16V, 2%
C29, C30★PPSフィルムコンデンサ 100pFECH-U1C101GX521608, 16V, 2%
C31, C32★OS-CON 10uF-2従来は積セラ/X7R
C33, C34PPフィルムコンデンサ 0.1uFECP-U1C104MA522012, 10V
C51~C90チップ積層セラミックコンデンサ 0.1uFGRM188R71C104KA01D401608, 16V, X7R

★マークの部品は、大きく音質を左右します。

回路図と部品の解説

オペアンプ等

  • オペアンプはLT1115やLT1028などでも構いません。LT1028ACNはいかんせん高いので、安価なおすすめはLT1468*2。次いでLT1115(マルツ店頭にて入手可能)。
  • その他のオペアンプ(シングルに限る)使用時は、C33-R25(C34-R26)のZobelフィルタを外した方がよい場合があります。(ZobelフィルタはLT1028/LT1115を安定させるためには必須です。)
  • U4はバッファ用です。バッファとして使用でき、+5V単電源で動作するオペアンプならば基本的になんでも構いません。(2009/02訂正)U4にはLME49721等を使用すると音がよくなります(#U4)。

コンデンサ等

  • C25, C26には可能ならば温度特性C0Gのものを使用してください。
  • セラミックコンデンサはすべて耐圧10V以上を使用してください(C31,C32除く)。
  • C31, C32は6.3V耐圧の積層セラミックや電解コンデンサで構いませんが、ノイズを拾わないために電解の場合は積セラ0.1u等をパラってください。
  • 大量のパスコン(C51~C90)はノイズ除去用です。こんなに付ける必要はないと思いますがお好みで。*3
  • OS-CON大量投入ですが、高く付くので、★印電解コンデンサは音響用コンデンサで構わないと思います(C15はデジタル段なので音響用ではなく超低ESRコンデンサ1000uF以上を)。試作時はC16~C20に6.3V470uF程度、C21~C24に10V220uFを使用しましたが、音質は充分でした。その場合、R7~R14は4.7Ωぐらいにすると良いと思います。
  • 低ESRコンデンサは基本的になんでも構いませんが、一般に超低ESRコンデンサと言われるものを推奨します。容量は大きいほど良いです。
  • C11~C14はあえてESRの高い標準品を使用しています*4。耐圧16V以上の方が良いです。

JP1, JP2の使い方

  • JP1, JP2は導線(抵抗の足など)でジャンパします。10mを越えるようなケーブルを使用したり、容量負荷の大きいものを接続する場合、その他、安全対策を万全に取りたい場合は100Ω前後の抵抗に置き換えて保護してください。*5
  • DACから1mVもオフセットが出ることはまかりならんという人は、JP1, JP2に適当なカップリングコンデンサを付けてください。

LPF

  • 音響用抵抗R19~R24はお好みで選んでください。タクマンREYシリーズかREXシリーズを値段・音質・入手性から推奨します。
  • R19~R24は必ず10kΩ前後を使用してください。PCM2702EのDAC出力インピーダンスが約600Ωあるため、これ以上低くすると出力が狂ってしまいます。逆にこれ以上高くすると音質面から不利になります。
  • フィルムコンデンサはPPSが良いです。他の推奨品はKP1830かスチロールコンデンサ(スチコン)です。

抵抗の解説

  • RS1は、3端子レギュレータ発振防止用の抵抗です。C15に超低ESRコンデンサ(や固体電解コンデンサ)を付けることが前提になっています。*6
  • RS5は突入電流(バスパワー警告)防止用です。手元では1Ωで大丈夫でしたが。あまり大きくすると供給電圧が0.5V低下するので、性能が落ちそうです。
  • 1/2W抵抗や1W抵抗(酸化金属皮膜)は、通常の1/4Wカーボン抵抗で何ら問題ありません。
  • R25, R26は金属皮膜抵抗を使う意味はほぼありません。カーボンでもなんでも構いません。

その他

  • コイルは電源の高周波ノイズ除去用です。1uH~4.7uHぐらいの間で好きな値を選んでください(直列の10Ωは低周波ノイズ除去用です)。
  • D1~D5には必ずSBDを使用してください。電圧降下の問題もありますが、通常のダイオードでは大きなノイズ源になってしまいます*7
  • クロックの安定は高音質化の必須条件ではありますが、このICはSpActという特殊な機構を持っているため(詳細は仕様書やブロックダイアグラム参照のこと)、TCXOを使用してもあまり意味はなさそうです(未確認)。

LPFについて

LPFは緩めでベッセル特性になっています。位相平坦性(群遅延特性)を最も考慮しました。カットオフ87kHz、Q=0.60です。定数決定にはLTSpiceでシミュレーションを行い、音声帯域(~20kHz)でのゲイン平坦性にも注意しました。

pcm2702dac_lpf_sim.png

※DAC-Voutの内部抵抗(測定値)込みのシミュレーションです。

シンプルな2次フィルタなので、これ以上きつくすると位相が狂ったり、~20kHzでの平坦性が損なわれたりと、あれこれ無理が出てきます。この辺が限界点ですね。

各部の電流、Vcom電圧

目安程度に。全消費電流 150~200mA。

L1=25mA, L2=25mA, L3=100mA

R7=4.2mA, R8=5mA, R9=11mA, R10=5mA

Vcomは、PCM290xシリーズと違い電源(Vcc)電圧の中点とずれがでます。LとRでもずれます。また、Vcom自体もVcc/2とはすこしずれるようです。参考までに電圧測定値を書いておきます。

Vcom2.4123V
VoutLセンター2.4379V
VoutRセンター2.4357V

*2 : 安価といっても800円ぐらいしますし、音もよいです。

*3 : チップコンデンサを使用しなければ、そもそも1つが限界でしょう。

*4 : DCDCチャージポンプをスイッチする際、ESRが低いと大きな過渡電流が流れ、大きなパルスノイズが発生します。

*5 : その抵抗の分だけ、音質は落ちます。

*6 : C15に通常の電解コンデンサを使用するならジャンパにしてください。

*7 : 詳しくは「ダイオード 逆回復時間 ノイズ」あたりで検索してください。

調整

回路組み立て後、いきなり音を出してはいけません

  1. USBを接続して10分ぐらい放置してください。
  2. LとRの出力にボルトレンジにしたテスターを充てます。最初は2~3Vぐらい、電圧が出ていないことを確認したら、mVレンジに合わせます。
  3. 0Vからすこしずれて数十mVのオフセットが出ているはずです。これを0mVにするように、VRを調整します。L-chの調整はVR1、R-chの調整はVR2で行ってください。

必ずオフセットの調整が終わってから使用してください

製作のコツ

この回路図では、GNDの引き回し方(電源ラインの取り方)が生命線になります。電源ラインひとつで音質を左右しそうです。試作は汎用基板で行いましたが、銅箔テープを使用し、GNDラインは特に注意しました。

  • DCDCチャージポンプ(LT1054周辺)のGNDが、アナログラインに回り込まないよう注意して下さい。
  • Tiの資料にあるとおり、DACチップ直下でデジタルGNDとアナログGNDを十分低インピーダンスで接続してください。

部品配置だけ注意すれば、アナログ/デジタル共通ベタアースにしてしまっても良いように思います(DCDC部を除きそうしました)。

【重要】本来の音質で再生するために

PCで高音質に再生するためには次のことに注意してください。この辺をきちんと行わないと本来の音質が出ません

  • USBケーブルはシールド線もきちんと結線されているものを使用する。
  • PC側のデジタルボリューム(WAVEボリューム、マスターボリューム)は最大にする(音量調整はDAC後のアンプなどで行う)。*8
  • 以下はWindowsのみ

濁りも曇りもない本当にクリアな音質です。改造したSE-U55SXもこの音質には敵いませんでした(僅差ではなく格が違いました…)。最近DV8400と比較しましたが、全く負けてませんでした。

*8 : 非公式ながら直接ヘッドホンを差すこともできなくはないですが、PC側音量を最大にしてきちんとしたヘッドホンアンプを使用した方が断然音が良くなります。

*9 : 比べると分かりますが、ひどい音質です

*10 : これ以外の状況ではWindowsのシステム自体が音質を劣化させます。WaveOutでボリュームMAXなら多くの場合ほぼ問題ない音質で鳴りますが、やはりベストにはならないようです。ASIO対応プレイヤーとしては、Winampfoobar2000Sound Player Lilithなどがあります。最後のLilithのみ標準状態で設定のみすればASIO経由で再生できます。

U4バッファによる音質への影響と更なる高音質化について

当初、U4は音質に影響せず、したがってどのようなオペアンプを使用しても構わないとアナウンスしてきました。しかし、司さんによってU4の音質への影響が明らかとなりました。よって、可能であればU4の電源もCRフィルタすべきですし、さらに一つの出力を殺したりしないで、2つのチャンネルをブレンドするか、LRに1chずつ使うほうがよいかもしれません。

これを踏まえ、U4をNJM4580からLME49721へ設計変更しました。さらにその後、LT1677に変更しました。この方が音が良いように感じます。(キットの場合はsingle→dual下駄などを使用して片ch(ch2)のみ付けてください。)

U4の影響がないと誤解した理由

これを説明するために、バッファ部の回路を模式的に抜き出してみます。

pcm2702dac-buffer.png

  • 入力であるDAC基準電圧は基本的に変動するものではなくコンデンサによって平坦化されているが、インピーダンスが低いためオペアンプでバッファする必要がある。
  • 基準電圧は変動するものではないが、DACの動作により多少のノイズが生じるため、RCで平滑化している。
  • RCフィルタはLPFであり、カットオフ周波数は約3Hzである。
  • コンデンサは高周波でも安定して平滑できる積層セラミックを使用している。

つまり、RCフィルタ単独で、20Hzで約15dB、100Hzで約30dB(以下6dB/oct)のノイズ除去能力があります。音声帯域のほとんどでオペアンプの差異をはるかに超えたノイズ除去性能を発揮するため、オペアンプによる音質の差は出ないと考えました。

この考えは誤りだったことになります。音の差がでたという結果から逆に言えば、3Hzカットオフ6dB/octのフィルタでは除去しきれないようなノイズが音質に影響を与えていると推測できます。それは数Hz以下の低周波信号です。

経験上、オペアンプの音質は0.1Hz~10Hz入力換算ノイズが音質と深く影響すると考えており、今回のバッファオペアンプの音質への影響は、期せずしてこれを裏付ける状況証拠となりました。

更なる改造

更なる改良記事を読んでください。

キット

在庫切れのため、配布終了しました。

LKs_PCM2702-USBDAC_01.jpg

キットも良いですが、個人的には部品をかき集めて同等品を製作する強者の登場をお待ちしています(笑)。特にLPF抵抗をNS-2Bあたりで作ってほしい。

追記。と書いてしばらく、LKさんが汎用基板で作られました(右写真)。おつかれさまです!! カバオさんも作られたそうです。感想に頂いた失敗例が製作の参考になります。

その他、感想記事リンク

case_holes.pdf:MX2-8-10ケース、標準穴加工位置(pdf)(「拡大縮小なし」で印刷してください)