TPA1517 スピーカーアンプの製作
※2012/02/07 音質改善に内容追加
このアンプの特徴。
- 部品点数が少なく製作が簡単。
- 部品コストが安い(2000~3500円/使用する電解コンデンサによる)
- アンプICがDIPなので扱い易い。
- 単電源仕様。
- もちろん音がいい。
目次
はじめに
最近の自作スピーカーアンプというとD級が盛んですが、AB級アンプでも良いICもあります。その中でもTPA1517というICは音質が良く扱いやすい優れたアンプICです。
- DIPである(DIP20のものがある)。
- 単電源で6Wまで出力できる。
- 出力にZobel等の回路が不要*1。外付け部品がとても少ない。
- 出力カップリングコンは必要。
- ゲインは10倍(20dB)固定(倍率設定抵抗が不要)。
- 1つのICでL/Rチャンネル出力が可能。
これだけの特徴を揃えたAB級アンプICは他に見つけることはできませんでした。
データシートを参考に普通に組み立てても(ちゃんと組めば)相当いい音で鳴るのですが、個人的に出力カップリングコンがついているのが大変もったいない。電解コンデンサによる音質劣化は大きいと予想されるのですが、その状態でいい音がしているため出力カップリングコンレスにしたときの音質に興味が湧いてきました。
回路図
図は片チャンネル分です。ステレオアンプですので電源部を含め同じ回路を2つ作ってください(ACアダプタ等は共通でいい)。ボリューム部は省略しています。下に続く解説も熟読して製作することを推奨します。
部品表(数は2チャンネル分です)
部品番号 | 部品 | 数 | 備考 |
---|---|---|---|
U1 | 7812/7815 | 2 | 3端子レギュレータ12V or 15V。LM2940等も可。 |
U2 | TPA1517NE | 2 | TiのアンプIC。DIP20品。 |
L1 | パワーコイル 100uH | 1 | 1A以上流せるものを。 |
C1 | OS-CON 16V/470uF以上 | 2 | 固体コンデンサ(OS-CON等)を強く推奨。 |
C2,C3 | OS-CON SPEC 16V/470uF | 4 | 電源/ICデカップリング用 |
C4 | OS-CON SPEC 16V/100uF | 2 | 100uFを推奨 |
C5,C6 | フィルムコンデンサ 1uF | 2 | 0.22uFでも可。必ずフィルムコンで。音質に影響。 |
R1 | カーボン抵抗 10kΩ | 2 | 出力ONのために必要。 |
その他、ボリュームが必要だと思います。
アンプ部の解説と部品選び
- BTLにすることなく片chを仮想GND(SPKのCold)として使用しています。BTLにすると部品点数が増えてしまうためです。
- TPA1517はBTL構成を想定してないので、OUT1/OUT2の出力オフセットが特に調整されていません。ですから、数十mV(当たりを引くと0.2~0.3V)のオフセットが出ることがあります。詳細はこちら。
- C5,C6のフィルムコンは必須です(ICの構造上DC直結アンプにはできません。)。音が残念なことになるので間違っても積層セラミックなどは使わないでください。必ずフィルムコンをご用意ください。
C6はあまり音に影響しないようですので、C6はそこまで拘らなくてもよさそうです。C5ほどではありませんが影響します。
- C2~C4は音質に直結するのでOS-CONを推奨します。C2, C3は音響用や低ESR品でも構いません。フィルムをパラに入れるのも可です。
- C4の中点吊り用コンデンサは100uF程度で音質の良いものを付けます。これは、この手のアンプICに共通する音質UPのコツです。*2
電源とC1の解説
AB級アンプなので電源が音質の要です。
単一電源でOKですので、トランス式電源(トランス式ACアダプタ)またはスイッチングACアダプタ(SW電源)を使用してください。電流は1Aぐらい流せれば問題ありません*3。音質面からトランス式電源(ACアダプタ)での製作を強く推奨します。
- 【トランス式電源の場合】
- トランスの全波整流部は可能な限りSBD(ショットキーバリアダイオート)を使用してください。*4
- 【SW電源の場合】
- C1はOS-CONなどの固体コンデンサを使用し、C1と並列に積層セラミックコンデンサ(1uF)をいくつか入れてください。C2は音質に関わるので入れるとしても(積層)フィルムコンデンサにしましょう。
- C1/C2の容量は大きめが良いです。電源ノイズ除去のためOS-CONを指定していますが、それ以外にC1にパラレルに別の電解コンをつけることで(電源が貧弱な場合でも)低域を改善させることができます。
- U1の3端子レギュレータは何でもいいのですが、最低でも1A流せるもの、出力に低ESR電解コンデンサをつけても問題がないもの(できればロードロップでないもの)を選んでください。
- 電源電圧は12Vまたは15Vを選択してください。低能率スピーカーを使用する場合、12Vでは音量によってはクリップするかもしれません。普通使う分には12Vで十分だとは思います。12Vのときは入力電圧はせいぜい15V程度にしましょう。
- 15Vレギュレータを選択する場合、入力電圧が16Vを超えることになるので、C1の耐圧に注意し25V品などに変更してください。
製作のコツと注意
基本的には回路図の配置を参考に製作してください。上にも書きましたが、電源部を含めて片chずつ2つアンプ回路を製作してください。
- C3, C4はなるべくICに近づけて配線してください。
- GNDの配線。0.1~0.3A程度の電流が流れますのでヘッドホンアンプのそれとは訳が違います。GNDの配線は慎重に行ってください。特にGNDのループを作らないように注意してください。
- 3端子レギュレータ7812(7815)とTPA1517の間は太い線で可能な限り短く配線してください。GNDもVccも両方です。
- 10pin~20pinのGND/HSは放熱用端子です。放熱用に銅箔テープを貼って処理しています。本気で6W出力しようとしたらヒートシンクをつけた方が良いでしょう。
- "SPK-"(スピーカーのマイナス端子)はGNDではありません。GNDや他のchとショートさせるのは厳禁です。
上にも書きましたが、いかに安定してクリーンな電源を与えるかが勝負となります。電源の差で音質は結構違ってきます。
製作時のお話
この項目はあまり役にも立ちません(苦笑)
- 出力カップリングありの状態で色々試していましたがAB級アンプだけあって電源にうるさく、安定化されているスイッチングACアダプタを使用しても、同一基板上で3端子レギュレータを付けてあげないと音質が劣化する有様でした。出力電流の少ないトランス式だと音はいいけど低音が出なかったりと(この時IN:470uF+OUT:470uFの構成)。
- その後、直流安定化電源を使用して両電源駆動し、出力カップリングコンレスにして遊んでいました。すばらしい音質です。
- 「ACアダプタ2個」とか「製作にトランス必須です」とかあり得ないので、いかにして簡単に再現するか考えました。最大0.5Aとか1Aとか流れる状況ではレールスプリットという訳にはいきません。その状況でまともに動くレールスプリットICなどありませんし、それ用の回路を作ると規模が大きくなってしまいます。
- BTLを考えましたが、反転回路が必要になり回路が大きくなってしまいますし、抵抗や反転オペアンプによる音質劣化など考えたくない問題を背負いこむことになるのでやめました。
- BTL用ICではありませんが、幸いなことにOUT1/OUT2のオフセットがそれほどずれないので(100mV未満?)気にせず仮想GND(スピーカーCOLD)にしました。こうすることでデュアルモノアンプ構成にできるので一石二鳥。
- 単体電流駆動アンプ(東芝IC使用)の箱を流用することに決定(下に写真あり)。コイツは気合入れて作ったのですが、そのまま部屋の飾りになってまいした(苦笑)。基板から部品を外し、基板とレギュレータやコンデンサなどを流用しました*5。おかげでC1=Muse FG 2200uF, C2=OS-CON 1000uFに*6。
- ボリュームはR1610G A10KにOHMITEの1kΩ無誘導巻線抵抗を付けて擬似Tにしました。音量調整が少々面倒ですが、詐欺みたいな音質を体験したいので気にしないことに(苦笑)
まとめ/音質評価
音質は非常に良いです。今度TA2020(D級アンプ)と比べる予定ですが、勝っていると思いたい。*7
とりあえずチューンナップしまくったAU-D907Limitedで不明瞭に感じられた音や定位がはっきり聞こえるようになり、複数ボーカルによる音の混ざりも解消されたました。*8
ちゃんとした電源で作ってまっとうな(フルレンジ?)スピーカーを鳴らせば、音の空間が「ぱぁー」っと左右に広がる体験ができると思います。最近ヘッドホンに飽きて音楽聴いてなかったのですが、今はスピーカーで音楽を聴くのが楽しくてしょうがないです。
多分、もっといいアンプはたくさんあるんだとは思いますが、これだけローコストでここまで優れた音質が得られることは非常に魅力的です。騙されたと思って一度お試しください。 →キットも頒布中です
オフセットについて
製作時はほぼ0mVと20mVだったのですが、おなじくマルツで買ったICで調べたら237mVもありました。個体差が大きいようです。Digikeyで買った10個を同様に調べた次のようになりました。
(1)23mv (2)-53mV (3)-11mV (4)-3mV (5)11mV
(6)-60mV (7)-35mV (8)56mV (9)106mV (10)-42mV
スピーカーなので100mV程度なら許容範囲なのですが*9、237mVはさすがに気になります。
どうしても調整回路をつけるなら次のようにします(Rb=12V時1.5~2.2kΩ/15V時1kΩ)。ただ、調整回路を付けることで発振しやすくなり音も悪くなるので全くお薦めしません。おまけに電源OFF時のポップノイズが大きくなった……。
ここまでやるならBTLなICとか使えよという話ですので、オフセットは気にせず使うのがこのアンプにはいいかと思います。*10
TDA1517との比較
よく言われるピン互換のTDA1517(フィリップス/現NXP)を数日エージングしてから比較試聴をしてみました。
- 音の広がりや響きのいい TPA1517 (TI)
- 定位が優れ、全体の音がすっきりしている TDA1517 (NXP)
さらに1ヶ月以上十分にエージングした後再度比較しました。
- 音の広がりや響きのいい TPA1517 (TI)
- 定位感が悪くなんとなく音が丸い TDA1517 (NXP)
TPA1517の方が音が良いということで間違えなさそうです。
さらなる音質改善
- トランス電源の場合、C1に低ESRは必ずしも必要ないと説明していましたが誤りでした。手持ちの(キットでない)回路にC1と並列に「OS-CON(SEPC) 100uF/16V」を投入したところ歴然とした音質改善効果がありました。
- C3,C4,C5,C6と並列にチップフィルムコンデンサ「ECPU 0.1uF」等を入れることで明らかに音質が改善します。さらに ECHU 0.01uF や ECHU 0.001uF も追加するとより音が変化します。ECPUとECHUの記事を参考にしてください。
- IN1(U1 9pin)とGND間に100pFのフィルムコンデンサ(ECHU 100pFとか)を入れると明瞭感が向上します。
追加。
- 電源の影響が大きいので、トランス式ACアダプタによる安定化電源(14V以上)を入力してあげると一番良いと思います。