本格的な電流駆動アンプの製作

はてブ数 2009/01/21電子::アンプ

通常の電圧駆動(電圧出力)ではなく、電流駆動(電流出力)するアンプを以前より製作してきましたが、本格的に調整を行って製作してみました。

電流駆動には明確に長所と短所があるので、あくまで実験としてお楽しみください。

電流駆動アンプとは?

通常のアンプや音声信号はマイクからスピーカーまですべて電圧を基準としてシステムが設計されています。スピーカユニットを電流を基準として駆動する方式を電流駆動アンプと言います。*1

電流駆動アンプには次のメリットがあります。

  • 電圧駆動に比べ驚異的に良い「信号波形の立ち上がり」を実現できる。
  • スピーカーケーブルの特性を(ほぼ)無視できる。

もちろんデメリットもあります。

  • フルレンジスピーカでしか使用できない。*2
  • 単純に構成すると、高域がやたら音圧が大きく出てしまう。(シャリシャリする)
  • 低域共振の問題が避けられない。

低域共振だけは避けられませんが、ユニットによってはさほど問題にはなりません。小型システムなどではフルレンジスピーカーで十分です。これらのデメリットを克服した上でまともな電流駆動アンプを構成することはできないのでしょうか。

*1 : 以前言われた山本式電流帰還アンプがこれに相当します。電圧制御の回路方式に「電流帰還」というものが存在するため、混乱がないように電流駆動と表現しています。

*2 : 正確には他の方式でも使用できますが、構成がとても複雑になってしまいます。

電流駆動アンプの問題点

この項は理屈っぽい話になります。

fe83e_imp.png

赤く引いた線がスピーカーユニットのインピーダンスを示しています(FE83Eの説明書より引用)。

低域共振周波数

下の方に山がありますが、これをスピーカーの最低共振周波数foといい、この周波数より下は低音が出ません。これは、バネ(ダンパー)で吊るしてあるスピーカーコーンが、その固有振動によりゆれてしまうことでインピーダンスが上昇します。ブランコを思いっきり押してあげると、一定の周波数でしばらくゆれ続けるのと同じものです。

古い記事から低域共振の様子を示します。

  • 測定周波数  20Hz
  • 測定部分 スピーカー両端電圧
駆動方式方形波応答インパルス応答
電圧駆動
vol_step_res.jpg
vol_imp_res.jpg
電流駆動
cur_step_res.jpg
cur_imp_res.jpg

当時は出力カップリングコンがありますので、電圧駆動の波形が結構鈍っていますが、それでも電流駆動の立ち上がりの良さは見て取れます。また電流駆動に振動があることが見て取れます。電流駆動である限り、(特殊な仕組みを用意しないと)これは避けることができませんが、小型ユニットでは聴覚上あまり気になることないようです。*3

高域の音圧上昇の問題

インピーダンス図で高い周波数に向けてどんどんインピーダンスが上昇していますが、これはスピーカーのボイスコイルのL成分によってインピーダンスが上昇しているためです。一般に安物ユニットは高域が出ませんが、これはインピーダンス(抵抗値)が上昇することにより高い周波数でスピーカーユニットに流れる電流が減少し、その分ユニットの動きが小さくなることが原因です。安物ではないユニットでは、インピーダンスが上昇してもきちんと高域が出るようにユニットの形状に細工をして工夫しています。

つまり電圧駆動時に周波数特性がフラットになるよう設計されているため、電流駆動をしてしまうと高域でのインピーダンス上昇にあわせて高域の音圧が上がってしまいます。

グラフから計算してみると、このユニットは8Ω+40uHぐらいになります。R+Lの1次フィルタと見ることができるため、R+Cの1次ローパスフィルタで補正することが理論上可能です。

*3 : 個人的感想で、もちろん個人差はあると思います。

回路図

current_amp3.png

片チャンネル分だけ示してあります。U2が高域の音圧補正用のLPFです。U3が駆動用になります。オペアンプ+ダイアモンドバッファのシンプルなものです。

電源としてはトランス式ACアダプタを使用しましたが、きちんとした正負電源を用意したほうがベターでしょう。パワー段の影響がアンプ/LPFに影響がないよう細工がしてあります。両電源だとしても(同じではなくても)この手の細工をした方が良いです。

Q1/Q3およびQ2/Q4はそれぞれ熱結合が必須です。シリコングリスで接合した上でそれぞれ離れないように巻きつけてください。(→参考

高音質の工夫。

  • R5/R8/R9は以前の回路図では100~1kΩ程度になっていましたが、抵抗により音質劣化を避けるためジャンパしまいた。
  • 音質への影響が大きいのは、VR1/C8/R6です。VR1は今回は擬似T型アッテネータに逃げました。R6はタクマンREY(1/4W)、C8はKP1830(若松等で販売)としました。
  • U2/U3はLT1364を使用しましたが、LT1469などもお勧めです。アンプに使うようなオペアンプならほぼ何でもかまいません。
  • 以前はU3にNJM4580を使用していました。ダイアモンドバッファつきのおかげか、それでも大きく見劣りはしません。

周波数特性の補正

R6/C8でLPFの定数を変えることができます。計算は省略しますが、およそ1k付近からLPFが効くように設計されています。ユニットによってカット&トライした方がいいと思われますが、およそこの値で問題ないようです。R6を変更するときはR7も変更する方が良いでしょう*4。R6やC8を大きく(小さく)するとより高域の音圧が下がり(上がり)ます。

今回はR14で調整を行いました。R14を小さくすると、高域の音圧が上がり、R14を小さくすると高域の音圧が下がります。しかしR14は全体の音量も大きく変わるので、回路ゲインのみ増やしたいときはR7の値を減らしてください。

R14F特
0.33Ω
ftoku_0R33.png
0.68Ω
ftoku_0R68.png
1.00Ω
ftoku_1R0.png
2.20Ω
ftoku_2R2.png
電圧
ftoku_vol.png

WaveGeneでホワイトノイズを再生し、NT3とWaveSpectraを使って周波数特性を計りました。FE83E自体のデコボコや、マイクのデコボコがあるため電圧駆動時*5の周波数特性を基本として参考にしつつ最後は耳で調整しました。

200Hz付近の山は低域共振です。

何ヶ月か使用し色々試しましたが、FE83Eの場合は3.3Ω前後(以上?)がよさそうです。この値はユニットによりますが、8Ωのユニットならば3.3Ω前後が良いと思います*6。もし4Ωのユニットならば半分ぐらいだと思います。

*4 : LPFの増幅率を一定にするため

*5 : ちなみにこれ使いました。さすがに音量取れませんでしたが。

*6 : FE83Eで2.2Ωでは中抜けでした…

製作物の写真

前とほとんど変わらないのですが、再生能力がよりあがったため、吸音材を増やしました。

f_speaker_hontai.jpg
current_amp2.jpg
200812-case.jpg

安物ユニットを外して余っていたFE83Eを取り付けました。最低限、まともなスピーカーユニットを使ったほうがいいと思います。

視聴

とても立ち上がりの良い素直な音です。箱が箱なので若干の鳴りと、若干の低域共振による膨れが気になります。その代わり、優れた定位と音空間の自然さが魅力的です。ちゃんと前方に音場が広がるのでヘッドホンで聞くより好きになってしまいました(ヘッドホンより音が優れているという意味ではありません)。また低音の鳴り(アタック)がとてもきれいです。*7

電流駆動アンプは、普通のアンプ(電圧駆動アンプ)とはちょっと違う鳴り方をするので、好みに依存すると思います。

注意

低音が比較的きちんと出るユニット(箱)では、低域共振(fo)が明らかに膨らみ気になります。電流駆動アンプは欠点のあるアンプであると承知ください。

*7 : 今回使用したユニットや箱が小さいので低音の十分な量感や超低域は出ません。個人的には気にはなりませんが、人それぞれでしょう。

まとめ

電流駆動アンプは、決して万能なアンプではありませんが、電圧駆動で実現するのは困難な立ち上がり特性をとても簡単に実現できることが面白いなーと思います。

一般に勧めることは難しいのですが、電流駆動アンプ自体に昔から興味があってフルレンジのスピーカーユニットをお持ちの方は試してみるといいと思います。

小型スピーカー向きかなと思いますが、はたして。

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