「ジッター 音質」とかで検索すると色々と出てきますが、DACなどにおいてクロックの精度が音質に影響することは知られているものの、発振周波数安定度(ppm)が良ければ音が良いと勘違いしている人もかなり多いのではないでしょうか。それは多分、DACのクロックを「TCXOに載せ変えて音が良くなった!」という記事が多数あるせいでしょう。
ジッターというのは1つのクロックと次のクロックの間の時間ゆらぎ(位相雑音)のことで、これが狂ってしまうと再生する波形が歪んでしまいます。次のグラフはどちらも同じ5Hzのクロックですが、ジッター量がまったく異なります。
TCXOというのは「温度補償付水晶発振器」のことで、周囲温度が変わっても発振周波数が変化しにくいように補償された水晶発振器のことです。ある期間(例えば1秒間)のクロックの個数を補償しているだけで、ジッターとは何の関係もありません。ある区間のクロック個数が規定値内に収まるように保証しているだけですので、実際のクロックは上のグラフのどちらの波形でも構いません。
よって、ジッター低減のためにTCXOを使うのはあまり意味のない行為なのです。
水晶発振器にはTCXOのような温度補償があるタイプのほか、ジッターを低減したタイプの発振器があります。FXO-HC53シリーズやCB3シリーズがそれです。
内部構造は書かれていませんが、おそらくVCO(PLL)(参考)を使用して低周波のジッターを低減しているのではないかという情報をいただきましたので載せておきます。
最強「PCM2702 USB-DAC」の製作 / PCM2702-v2にFXO-HC53-12MHzを載せて実際に音がどのように変化するか確認してみました。
……しかし、単に乗せ変えただけでは全く動作しません。よくよくデータシートを見てみると消費電流が20mA!! CRフィルタを弱めたり色々と細工をしてようやく動作させることができました……。
- 3.3Vレギュレータ出力を直接発振器に与え、消費電流が大きい発振器側ではなくPCM2702-PLL電源側をCRフィルタしました。
- フェライトビーズが入ってます。
- PVccからでは電源能力が不足したので、DCDC出力の+12Vから直接電源を引き込みました。
特別音がよくなることはなく、TCXOに比べほぼ同等か少し劣る音質となりました。
予想と異なるこの結果はFXO-HC53やCB3等の低ジッタ発振器が20mAを超えるような電流を消費することが原因と考えられます。クロック発生部の電源をフィルタするなどの工夫が一切されていない回路や、PLLが介在せず直接DACの動作クロックを与えているようなケースならば、ジッターの少ない発振器のほうが音が良くなることはあるでしょうが、PCM2702-v2の回路図では消費電流が大きいというデメリットばかりが際立つ残念な結果となりました。
結論だけみると「TCXOバンザイ」みたいに見えて嫌なのですが、消費電流の問題と低ジッタ発振器でなくても回路の工夫次第でジッタ(ノイズ)は低減できる話だと捉えて頂ければ幸いです。
逆にTCXOをXO(標準的な水晶発振器)に変えても音は変わらないような気がするので、後日実験してみたいと思います。→(続編)標準XOとTCXOの音質を比較してみる
それにしても、これで部屋に転がってるPCM2702 DACは5台目なのですが(1台はVer1の試作品)、どうしたものか(苦笑)