D級ヘッドホンアンプ Ver2 / pwm-hpa2

はてブ数 2016/05/28電子::HPA

D級ヘッドホンアンプを、専用ICを使わずに、超高速(35MHz)に発振させ、電池2本という低電圧で動作させた、画期的かつ高音質のアンプです。

目次

D級ヘッドホンアンプの回路を公開して早4年。ようやくキットにしても良いかなという音質になったので、Ver2として公開します。

はじめに

過去、D級ヘッドホンアンプを実用化した例はほとんどなく、あったとしてもスピーカー用のD級アンプに抵抗を繋いでヘッドホンを鳴らしていた程度でした。

4年前、専用ICを使わないD級ヘッドホンアンプの回路公開して以来、たいへん多くの方に作って頂きましたが、D級の欠点である「高域の再現性」がやや劣る問題がありました。

それから2年後に、VerUpとして高速コンパレーターとロジックICを使った高速発振回路により、高域の問題を解決。それにより本格的なヘッドホンアンプへと進化しました。

本回路はそれを更に改良したものになります。

Ver2の特徴

  • 音を歪ませることなく35MHz発振させている
  • 出力バッファが6パラになり、低インピーダンス出力になった。

D級アンプは発振周波数が速ければ速いほど音も性能も格段に良くなるのですが、一般的なMOS-FET素子はそこまでの高速動作に追従できません。例えば、かの有名な「TA2020」の発振周波数は300KHz程度(本アンプの100分の1)しかありませんし、市販されているほとんどのD級アンプ素子は1MHz以下の発振周波数です。*1

このヘッドホンアンプは超高速ロジックIC(中身はMOS-FET)をパラレル使用することで、高速性と低出力インピーダンスを実現しています。ちょうど、バイポーラトランジスタのLAPT素子と同じ思想で、遅くて大きいMOSを使わずに、速くて小さいMOSを複数使用することで高速性と低インピーダンス化を同時に実現しています。

また発振周波数が速くできても、周波数が速くなればなるほど左右チャンネルが互いに干渉して音が歪むという現象も発生します。この問題を解決するため、左右のコンパレーター電源を分離するなど回路上の工夫をし、プリント基板のレイアウトも色々と工夫しています。

*1 : 最新のものでようやく1.5MHzとかそういうレベルです。

回路図

pwm-hpa2.png

  • 回路原理は元の記事を参照してください。
  • 電池は2本専用です。4本だと音が歪みます。
  • R1/R2は結合や誘導による信号の回りこみを軽減するフィルタを構成しています。とても重要です。
  • 全消費電流:約55mA(単3ニッケル水素で40時間程度)

コンパレーターについて(2023/01/07追記)

  • ADCMP600の代わりに、LTC6752またはTLV3601が使用できます。
  • コンパレーター変更によりノイズが出る場合、ノイズ対策や発振周波数を下げる対策が必要です。
  • ADCMP600/LTC6752は±1.00Vで動作しますが、TLV3601は最低でも±1.05V程度が必要です。
  • 同一回路につけた場合、音質は ADCMP600 < TLV3601 < LTC6752 となります。そのときの発振周波数は ADCMP600 < TLV3601 = LTC6752 です。

音質

おそらく言われなければ誰もD級アンプだと気づかないと思います(苦笑)

手元の環境では、低電圧ヘッドホンアンプVer3(op-dbuf3)の回路と、双璧のような感じになっていまして、音質的に抜きつ抜かれつデットヒートを繰り返しています。

op-dbuf3と比べると、好みもあると思いますが、こちらのほうが音は良いかと思います*2。更に改造したい人は、配線が大変ですけどもチップ抵抗に載せ替えてみても良いかもしれません。

*2 : op-dbuf3も改良すると今より音が良くなる模様で、その際の比較は難しい。今までの基板でも簡単に再現可能なのでキットの説明書に改良方法を書いてあります。検証が終わったら記事にも反映させます。

キット化

pwm-hpa2.jpg

低電圧HPA(op-dbuf3)と同じTB-56ケースに入るようにレイアウトしてキット化しました。高速ロジックICの、NC7WZ16がとても小さいのでハンダ付け難易度は高めです。

また入出力端子には4極ジャック(GND分離対応)を使用しました。3極でもそのまま使用できますし、4極仕様のヘッドホンをお持ちの方は、一味違った音質を楽しめます。*3

*3 : 4極のピンアサインはプラグ先端からL/R/LG/RGです

購入はこちらから

関連の頒布物もリンクしておきます。

販売元(メーカー)がBispaになっている商品については、品切れの際はBispa様にお問い合わせください。

その他

  • 手元の環境では十分にテストしていますが、きちんとハンダ付けされ、かつ、ちゃんと電池が残っている状態で音が歪むなどの問題がありましたら、具体的にコメントにてお知らせいただければ幸いです。*4
  • オシロで観測すると出力にスイッチノイズが若干残っているのは仕様です。再生音には影響はありません。むしろ、スイッチノイズを完全に消そうとすると音質が悪化します。
  • ユニバーサル基板で再現するのはかなり大変だとは思いますが、絶対に不可能というわけでもないとも思いますので(この辺使えば)、興味ある方の挑戦をお待ちしています。

*4 : その場合、基本的にはR3/R4/C3/C4のいずれかの値を大きくする(3Kや330pF)他解決法はありません。ご了承ください。

作例ほか

感想・作例、心待ちにしています。

導体性高分子コンデンサ聴き比べ

電解コンデンサは、OS-CONに狙いを定めてから、もっぱらOS-CONのSEPCばかり使ってきましたけど

「はたしてSEPCってそんなに音いいの?」

という疑問が湧いてきたので検証してみました。

検証

一昔前は固体電解コンデンサと言えばOS-CONしかなかったのですが、現在では導体性高分子コンデンサを各社が開発・製造しています。ですので、他社製品も検証してみようというのが今回の記事です。

pcap.jpg

  • Panasonic SEPC 2.5V 2700uF / 10mΩ / σ:0.1
  • ニチコン PLG 2.5V 2700uF / 8mΩ / σ:0.08
  • ニチコン PLG 2.5V 3900uF / 8mΩ / σ:0.08
  • 日本ケミコン PSC 2.5V 2700uF / 8mΩ / σ:0.1

いずれもほとんど同サイズ(φ10mm×12-13mm)でほぼ同性能の導体性高分子コンデンサの大容量低ESR品(8-10mΩ)になります。新しいD級ヘッドホンアンプの電源用コンデンサとして使用しました。

SEPC

これまで数多くのアンプで使用してきました。元々SANYO製で、SANYOがなくなったあとはパナソニックが製造を引き継いでいます。

OS-CONは元々有機半導体コンデンサについた名称で、現在の固体コンデンサ(導体性高分子コンデンサ)のパイオニアとなった技術です。

SPECは高分子コンデンサの中では、大容量・低ESR品になります。

os-con.png

https://industrial.panasonic.com/jp/products/capacitors/polymer-capacitors/os-con

PLG

刻印が「LG」なのでニチコンLGと呼ばれることが多いようですが、以前はLGというシリーズ名だったようですが、現在の正式名はPLGです。刻印はLGになります。高分子コンデンサの中では、SEPCと同様に大容量品に位置します。

nichicon.png

http://www.nichicon.co.jp/products/solid/solid_daia_f.htm

PSC

刻印「C」で型番がAPSCで始まるためAPSCとも呼ばれることがありますが、正式名はPSCです。高分子コンデンサの中では標準品に位置しますが、他社との比較では「大容量品」に相当します。

ni-cemi.png

https://www.chemi-con.co.jp/download/(pdf)

聴き比べ

ソケットを使わず、めずらしくすべてハンダ付けによる検証をしました。*1

PSC >> PLG 3700uF > PLG 2700uF >> SEPC

という具合でした。SEPC音良く無いじゃん!(笑)

PSCやPLGはエージングが進まないと結構酷い音がするのですが、SEPCはその点少し安定している印象でした。

*1 : エージング含め、とても時間かかりました……

追加検証

大容量品ではなく、小型品(φ6.3~8)でも検証してみました。検証回路は異なるものを使用しています。

  • SEPC 6.3V 560uF / 7mΩ
  • SEPC 16V 470uF / 10mΩ
  • PSF 16V 470uF / 10mΩ
  • PSC 6.3V 560uF / 8mΩ
  • PSC 16V 470uF / 10mΩ
  • L8 6.3V 1000uF / 9mΩ
  • S8 6.3V 680uF / 8mΩ

PSFはPSCの低ESR品です。6.3V品が流通していないため、16V品で代用しました。

L8、R8はFPCAPシーリズの1つです。FPCAPは元々富士通が開発・製造していたコンデンサのシリーズですが、現在はニチコンが買い取りニチコンより販売されています。

聴き比べ

PSF 16V > PSC 16V > PSC 6.3V > S8 > L8 > SEPC 16V ≥ SEPC 6.3V

やはりPSCの音質が優れる結果に。そして比べた時のSEPCの音の悪さ(苦笑)

ついでに、HZやMCZなどの高分子ではない従来の低Zコンデンサと比較してみましたが、SEPCより明らかに劣りました。

追加検証2 2021/07/22

KEMET_A750_16V.png

KEMETのA750というタイプの高分子コンデンサを購入したので、追試してみました。

  • PCM2704 DAC Ver2の電源部
  • ヘッドホンアンプの信号部*2

いずれもECPU 0.1uF(フィルムコン)が並列に入っています。*3

  • KEMET A750 16V 470uF / 13mΩ / A750KS477M1CAAE013
  • SEPC 16V 470uF / 10mΩ
  • PSF 16V 470uF / 10mΩ
  • PSC 16V 470uF / 10mΩ

PSF 16V > A750 16V > PSC 16V > SEPC 16V

A750とPSFは僅差です。好みでも変わってくるかと思います。音はたしかに違うのですが、帯域によって得意不得意があるような感じです。

  • 奥行き感や音の綺麗さが良い: PSF 16V
  • 低音が良い(多分): A750 16V

注意として、A750 16V 470uFとPSF 16V 470uFはスペックこそ一緒ですが、A750が直径8mm、PSFが直径10mmとPSFの方が大きく、そしてESR低くなっています。固体コンは、同容量同電圧でも「大きさが大きくなるほどESRが低く性能が良くなる(音が良くなる)」ことが多く、このことからA750が不利な比較とも言えます。

追加検証2-2

同サイズ、同容量、同耐圧と条件を揃えて、A750とPSFを比較しました。

  • A750 6.3V 820uF / A750EM827M0JAAE008
  • PSF 6.3V 820uF / APSF6R3ELL821MF08S

比較結果。

A750 6.3V 820uF > PSF 6.3V 820uF

サイズを揃えてしまえば、A750に軍配が上がるようです。DigikeyやMouserで買いやすいことを考慮すると、これはなかなか良さそうです。

*2 : 低電圧ヘッドホンアンプ Ver3 (op-dbuf3)で言うところのC3/C4相当。

*3 : 並列のフィルムコンを入れないないほうが差が顕著に現れますが、普段からフィルムコンを並列に入れるので普段の状況でテストしました。

まとめ

  • 導体性高分子コンデンサも、種類によって音が違う
  • SPECは音質よくない
  • 低ESRはだいたい正義

これからはKEMETとPSFをメインで使っていこうかなと思っています。

補足

SEPCの性能が悪いわけではないのでそれだけは誤解しないでください。これは性能テストではなくて音質テストです。性能テストならば、もっと全く別の評価をする必要があります。

また空間再現能力を最重要視してテストしていますが、音質に関する要素は人それぞれ好みがあり、ましてコンデンサはオーデオ的な音色の差が出やすい素子ですので、その点はご理解願います。