2025/06/15(日)ヘッドホンアンプ用バッファ回路の検証

オペアンプ+バッファのHPA回路にて、全体の仕組みを変えずにバッファ回路だけ変更してどれが一番良いか検証してみよう! という企画です。

バイアス回路はどれがいい?

ebuf-bias-test.png

3つとも同じようなバッファ回路になっていますが、バイアス電流の仕組みが少し異なっています。

  • 左上は、薄膜抵抗によるバイアス回路。
  • 右上は、CRDによる定電流バイアス回路。
  • 左下は、カレントミラー回路による定電流バイアス回路。

さて、この3つを音が良い順に並べるとどうなるでしょうか? 予想するのも楽しいと思うので、X(Twitter)でアンケートをしてみました。

  • 一番良いの投票数:カレントミラー > CRD > 薄膜抵抗
  • 一番悪いの投票数:CRD=薄膜抵抗 > カレントミラー

みんなすごいなー。結論として音が良い順に並べると以下のようになります。

カレントミラー > 薄膜抵抗 >> CRD

ただの主観ですが、結構はっきり違います。

なぜそうなるのか?(考察)

昔はよく使っていたCRDですが、ここ何年かは全く使わなくなっていました。あるとき、実験として抵抗に置き換えてみたらめちゃくちゃ音が良くなったんです。

CRDのほうが回路として安定するし(オプアンプから見た負荷も軽いし)、取り出せる振幅も大きくなるにもかかわらず、音は薄膜抵抗のほうが良かった。抵抗ぐらいシンプルなほうが良いのかなと漠然と思っていたのですが、カレントミラー回路の音が良いことから原因が推測できます。

おそらく上の回路ではCRDの定電流源としての安定性が良くないことが原因です。今回使用したCRDを安定動作させるためには、両端に8~10Vぐらいかけてあげる必要があります。実際10mAのCRDを使って6.2mAしか流れてないわけで、規定の飽和動作をしていません。飽和状態で使用しないと、(オペアンプの)出力電圧によってバイアス電流が非線形に変動してしまいます。*1

そんなわけでここ何年か抵抗を使用してきたのですが、一応カレントミラー回路も検証したほうがよいよね? とも思っていました。放置された理由はカレントミラー回路を組み込むのが面倒なのと「回路的には超安定するけど、多分抵抗より音悪いんだよな……」という予想(苦笑)

検証したら、これまた明らかにカレントミラー回路のほうが音が良かったです。この回路だと(オペアンプから見たとき)理想定電流源に近いんですよね。つまりオペアンプ対して抵抗よりも負荷が軽くなることが大きな要因だと思われます。

勘の良い人なら正解するのは簡単

基本的に「バイアス電流が多いほうが音が良い」のですから、その知識があれば簡単に並べ替えできます。

なぜなら「それ単にバイアス電流が増えただけでしょ?」というツッコミをされないように(実験時にその要因を排除できるように)、回路の電流値を設定してあるからです。

*1 : とはいえ、飽和状態で使ったときに、他の方式と比較して優位かどうかは不明です。

バッファ回路のコンデンサどっちがいい?

ebuf-cap-test.png

左右の回路、どっちが音が良いと思いますか?

アンケートでは、およそ「左が良い:右が良い=2:1」という投票結果でした。

聴き比べた感想は、やや左が良いかな(大きな差はなさそう)。

回路を普通に考えてみる

まず普通に回路を考察してみます。C1に位置するコンデンサですが、これは経験上容量が大きいほど音が良くなることが分かっています。

右回路の中点と出力の接続を一度無視すると、単純に左から右の回路になった場合、C1に相当するコンデンサ容量が半分になっいます(コンデンサの合成容量)。

もうひとつ、X(Twitter)で指摘していた人が居てさすがと思ったのですが、右の回路は高周波特性が悪化します。オペアンプの高周波出力がC2/C3コンデンサを突き抜けて出力(負荷)に接続されているためです。

ebuf-cap-test-spectrum.png

2つとも音が悪くなる要因として考えられます。

経過とか

どちらにもC1の820uFを付けた状態で、C2, C3に100uFを追加したとき追加したとき明らかに良くなったので、それならばってことで上の比較回路を考えてみたのですが、実際作ったら微妙な感じ。

もう少し回路を工夫して検証してみても良いかもだけど、820uF×3(C1-C3)してもC1単独より悪いっぽいからダメかも。

まとめ

  • 思いつきを検証するのは大事。
  • 追試しまくるので時間がかかって大変(コンデンサのエージングも必要ですし……)。
  • 意外と思ったとおりの結果にはならない。

ところで全部正解した人は居ましたか?

D級ヘッドホンアンプ Ver.2.2 / pwm-hpa2.2

はてブ数 2025/02/07電子::HPA

電池2本という低電圧で高速発振(約40MHz)させたD級ヘッドホンアンプVer.2.0の改良版です。執筆時点での最高音質(LTC6752使用時)。

過去記事

原理などは過去記事を参考にしてください。この記事はVer.2.0の改良版になります。

回路図と部品(Ver.2.21)

pwm-hpa2.21.png

部品番号部品備考
U1-2ADCMP600(or LTC6752→本文参照)1高速コンパレーター
U3-10NC7WZ16P6X1高速ロジックバッファ
FB1-6フェライトビーズ6MI1206K601R 600Ω@100MHz
D1-4SBD(30V 1A等)4CRS01(TE85L,Q,M)
R1-2薄膜チップ抵抗 10KΩ2RT0603。
R3-4薄膜チップ抵抗 1-4.7KΩ2RT0603。帰還抵抗
VRボリューム 10KA(or 20KA)1RD925G等
C1-4PPSチップフィルム 100pF4ECH-U1C101GX5
C5-6PPSチップフィルム 1000pF2ECH-U1C102GX5
C31-388
C7-8未接続(or PPSチップフィルム 1000pF)2ECH-U1C102GX5
C21-28導体性高分子コンデンサ8低電圧・大容量品を使用

回路の説明

  • R3-4は小さくするほど発振周波数が高くなりますが歪みやすくなります。歪む場合は、2.2K~10KΩ程度まで増やしてください。
  • R1-4の抵抗は音質に大きく関わりますので、RT0603等を推奨します。
  • U3-10のバッファは、2パラ~4パラの範囲で選んでください。並列数が多いほうが駆動力は高くなりますが、発振周波数が下がります。
  • C31-38は0.1uFとかでも良いと思いますが、1000pF(1nF)のほう良さそうです。
  • SBDは手持ちを使用しました。低順方向電圧、高電流容量のものを選んでください。順方向電圧が高いと音質面で不利です。秋月のCUHS20S30おすすめ。
  • フェライトビーズはそこまで吟味はしていませんので、他に良いのがあったら教えてください。おそらく低ESRは必須です。
  • C21-28のコンデンサ選びは聴き比べ記事を参考に。手元ではただ単に余ってたAPSC 2.5V 2700uFを使用しました。
  • ボリュームから出てC1/C2の手前に直列に1KΩの抵抗を入れると、ボリューム最少時に安定するようになります。
  • C7,C8に100pF〜1000pF程度のフィルムコンデンサを入れると回路が安定しやすくなります。

LTC6752を使用する場合

LTC6752は音質は大変優れます(明らかに違うレベル)が、ADCMP600で製作した場合に比べて難易度が高くなります。以下、LTC6752を使用する場合の注意点を書きます。

  • C7/C8に1000pF(1nF)を必ず実装してください。安定性が段違いです。
    • 音質は多少劣りますが、470pF~1000pFの積層セラミックコンデンサ(温度特性NP0/C0G)でも構わないので、必ず実装してください。最悪X7R特性でも良いです。
    • 音質も付いてるほうが良いです。
    • このコンデンサの影響で発振周波数は20MHz程度まで低下します。
  • R3-4は大きめ(3.3Kや4.7KΩ)で製作するのほうが無難です。
  • 万全に製作しても出力にわずかにホワイトノイズが残ります。
    • 静かな部屋で高能率イヤホンを使わないと分からないレベルだとは思いますが、無音時に定常ノイズがあります。
    • 出力フィルタをがちがちに強めると消える気もしますが(未検証)、音質が犠牲になります。

ADCMP600で製作したほうが無難ですが、最高音質を求めるならLTC6752に挑戦してみてください。

なおTLV3601は最低±1.05V必要なこともあり、今Versionでは未テストです。また、LTC6752、C7/C8=1nF時の全消費電流約130mAです。

解説

D級アンプは発振周波数が速ければ速いほど音質が格段に良くなるのですが、一般的なMOS-FET素子はそこまで高速に動作できません。市販されているD級アンプは、(2025年の)最新のもので2MHz程度ですので、このアンプがいかに高性能か分かるかと思います。

このヘッドホンアンプは超高速ロジックICをパラレル使用することで、高速性と低出力インピーダンスを実現しています。遅くて大きいMOSを使わずに、速くて小さいMOSを複数使用することで高速性と低インピーダンス化を同時に実現しています。

音質

LTC6752で試作していますが、今(2025/2/7)のところ手持ちヘッドホンアンプの中では一番良い音で鳴っています。

まとめ

久しぶりのアンプ回路の記事となりました。暇を見つけてはずっと改良していて、特にノイズ対策のためにパターンを変えてはプリント基板を何度も作り直していたので大変でした。

自作する人は居なそうですが、感想や「こうしたら良くなった」とかありましたらコメントください。


試作基板の余りをBispaさんに委託しました。完売しました。購入ありがとうございます。

作例リンク

2021/08/24(火)OPA1622のGNDの扱いと音質比較

Ti製のSoundPlus高性能オーディオ・オペアンプ「OPA1622」のGNDをどこに接続するか問題について。

OPA1622とは

高性能オーディオ用ICであり、音質も大変優れていることから人気のオペアンプです。SoundPlusシリーズの中でも最高の「Ultimate」を冠しています。

このICは「100mA以上の電流」を取り出せ、ヘッドホンなどを直接駆動することも可能です。もっぱら「いわゆる載せ替えオペアンプ」として人気のようですが、このICは10pin DFNとして提供されており、通常の方法ではオペアンプとして載せ替え使用することはできません。

またこのオペアンプには±電源ピンの他に、GNDピンがありこのピンの処理方法について多少の議論があるようです。

OPA1622のGND処理と音質比較

GND端子の接続方法は3つ考えられます。

  1. V-(マイナス電源)につなぐ(秋月変換基板ほか)
  2. 変換基板上で仮想GNDにつなぐ(Bispa変換基板)
  3. 8pinオペアンプ互換を諦めGNDに直接接続する(Bispa変換基板では可能)

仮想GNDの回路はこんな感じです。*1

OPA1622_VG.png

比較結果

(3)GND接続 > (1)Vee接続 > (2)仮想GND回路付

ある種、当たり前の結果になりました。

*1 : Bispaの基板では10KΩではなく22KΩが使われているようです。

GNDはどこに接続するべきか?

データシートには次のような記述があります。

OPA1622-GND.png

【赤下線】GNDピンはノイズが最小でインピーダンスが最も低い基準に接続しろ

ノイズが少なくインピーダンスが低い基準点というのは、通常はGNDになりますが*2、GNDに接続できない状況でしたら次点でマイナス電源に接続するのは決して悪いことではありません。*3

上に示した仮想GND回路は、電源ピン(V-)に直接接続するよりインピーダンスが高いので、音が悪くなるのは当たり前です。

*2 : 回路全体が仮想GNDで動作している場合は除く。

*3 : 似たようなものだからとプラス電源に接続すると動作しなくなるのでご注意。

一番良い方法は何?

「なんだ仮想GND基板ク○じゃん」という結論は、実はちょっと焦りすぎです。

OPA1622.jpg

左が仮想GND付き変換基板(R/C裏面実装)で、右がGND-Vee接続変換基板です。GND-Vee接続基板は、上ではCを載せずに評価しました。ここには0.1uFのECPUを電源パスコンとして接続することができます。

仮想GND付基板は、GNDを接続するためのPAD(旧Bispa変換基板ならばホール)があります。仮想GND付き基板はGNDを正しく接続すると基板中のC1/C2が電源パスコンとして作用します

その結果こうなります。

C付き仮想GND基板のGNDを接続 > C付きGND-Vee接続基板 > GND接続 > その他

まとめ

  • 仮想GND付き変換基板をそのまま使うのは愚行。
  • GND-Vee接続のオペアンプ変換基板は、電源パスコン付きのほうが音が良い。
  • 仮想GND付き変換基板は、Cを付けた状態でGND端子を回路中のGNDに接続する。
    • Rはあってもなくてもどちらでも良い。

おまけ

実験に使った基板はBispaで販売されているものです。

2021/07/26(月)D級ヘッドホンアンプと出力フィルタと負帰還

Twitterにも書きましたが、D級ヘッドホンアンプ Ver2 / pwm-hpa2をいじっていました。

出力フィルタの意味と役割

pwm-hpa2_1ch.png

D級である限り、出力フィルタは避けて通れないものです。この出力フィルタ(L5/C5)は、高周波のスイッチノイズを除去するために入れていますが、再生音を良くするためというよりは、余計なノイズ(電波)を巻き散らかさないためという意味合いが大きくあります。

第2世代と呼ばれるD級アンプは、原理的に「LCフィルタを入れなくても十分に放射ノイズ(EMI)が少ない」ことが利点として挙げられています。TPA3110D2なんかもそれです。

ノイズの問題を一旦おいておけば、L5があったほうが良いか、無いほうがよいかは難しい問題ですが、うまく動作させられるならばL5は無いほうが良さそうです。実際、TPA3110D2アンプの音が良いのは、そういう点も影響しています。

出力フィルタの影響をなくしたい!

フィルタを無くすというわけにはいかないものの、フィルタの後ろからフィードバック(負帰還)をかけて出力フィルタの影響を少なくするということは可能です。*1

D級アンプICですと、フィルタ前のフィードバックをやめることはできませんが(ミックスした負帰還になる)、自作回路ならL5の後ろからのみフィードバックすることは可能ですので、試してみました。

まず通常動作時です。(1)がL5の手前で、(2)がL5の後の波形になります。32MHzでスイッチしており、出力ではこのスイッチノイズが減っています。

pwm-hpa2_lpf1.png

次にL5の後ろからフィードバックをかけた波形です。

pwm-hpa2_lpf2.png

発振周波数が下がり、出力に±5Vのsin波が出ていますが(おそらく共振と思われる)、音質はこのほうが良い感じでした。

まとめ

AB級アンプで同じことをすると発振します。(自励式)D級アンプは元々発振させるものですので、どうせ発振させるのならフィルタの後ろから負帰還かけても良いんじゃない? という実験でした。

このまま使うのは躊躇しますが、もうひと工夫すれば pwm-hpa2 を更に進化させる可能性もありそうです。