薄膜チップ抵抗を含めた、抵抗の聴き比べ(音質再評価)
もう9年前になる抵抗の音質を正しく評価するの記事以来、まともに抵抗の音質評価をしていなかったので、古い記事のアップデートも兼ねてチップ抵抗を含めた音質の再評価をしてみました。
- 抵抗の音質について分かっていること
- リード抵抗などの音質再評価
- 薄膜チップ抵抗の音質評価
- ERA-6A 精度0.1% / 10-25ppm / 0.125W / 64-141円
- TNPU 精度0.1% / 5ppm / 0.125W / 297円
- TNPW 精度0.1% / 15ppm / 0.125W / 106円
- RNCF 精度0.01% / 5ppm / 0.125W / 256円
- PLT 精度0.05% / 5ppm / 0.25W / 508円
- PATT 精度0.1% / 25ppm / 0.25W / 164円
- PAT 精度0.1% / 25ppm / 0.25W / 116円
- RT0805 精度0.1% / 25ppm / 0.125W / 47円
- RN73 精度0.1% / 10ppm / 0.1W / 72円
- RR1220 精度0.5% / 25ppm / 0.1W / 13円
- RG2012 精度0.1-0.05% / 10-25ppm / 0.1W / 67-124円
- 2012まとめ
- 1608薄膜チップ抵抗の音質評価
- PATT0603 精度0.1% / 25ppm / 0.15W / 162円
- PAT0603 精度0.1% / 25ppm / 0.15W / 111円
- RR0816P 精度0.5% / 25ppm / 0.063W / 12円
- RG1608N 精度0.05% / 10ppm / 0.1W / 106円
- ERA-3ARB 精度0.1% / 10ppm / 0.1W / 122円
- RP73 精度0.1% / 25ppm / 0.167W / 71円
- RNCS0603 精度0.1% / 25ppm / 0.063W / 60円
- AT0603 精度0.1% / 25ppm / 0.1W / 51円
- MCT06030 精度1% / 50ppm / 0.125W / 20円
- RT0603 精度0.5% / 25ppm / 0.1W / 26円
- RT0603 精度0.1% / 10ppm / 0.1W / 76円
- VKMF1608 精度0.5% / 25ppm / 0.0625W / 10円
- 1608まとめ
- おすすめ抵抗ランキング
- まとめ
- 1005サイズの追試
- 参考
抵抗の音質について分かっていること
経験則から以下のことが分かっています。
- 抵抗の構造や素材によって音質が異なる
- 電流雑音係数はほとんど影響がない
- 同シリーズならば、温度係数(ppm)が低いほど音質が良い
同シリーズならば、ワット数(W)が大きいほど音質が良い- 今回の結果から必ずしも成り立たないようです。
- 信号に対して直列に入る要素は影響が大きく、並列に入る要素は影響が小さい(詳細)
そしてよくよく考えてみると、音質が良い抵抗は温度係数も低いことが分かっています(ただし逆は必ずしも成り立たない)。
- 音質の良い金属皮膜抵抗 15~25ppm
- 無誘導巻線抵抗 20~50ppm(ワット数大きめ)
- 金属箔抵抗 0.5~2.5ppm
リード抵抗などの音質再評価
比較方法として、D級ヘッドホンアンプのNFB抵抗R3の2KΩを変更して聴き比べてみました。空間再現能力を再優先で評価しています。
差し替えた直後は音が安定しないので、すべてしばらく鳴らしこんでから試聴しています。
LGMFSA 金属皮膜 / 精度0.4% / 15ppm / 0.6W / 42円
- bispa製 LGMFSAシリーズ
最近のメインです。bispaのLGMFSAをよく使っていますので、これを目安に評価したいと思います。
LGMFS50 金属皮膜 / 精度0.5% / 25ppm / 0.5W / 26円
LGMFSAより安価ですが、音質は劣ります。とはいっても、普通アンプ回路を作るには安価で十分な音質だと思います。0.25W品のLGMFS25は0.5W品より音質が少し劣ります。
Ohmite WNA(無誘導巻線)/ 精度1% / 50-90ppm / 0.5W / 200円
2Kがないので、100Ω(WNA100FET)で比較しました。LGMFSAよりWNAの方が上だと思っていたのですが、空間再現はLGMFSAのほうが明らかに上でした。
同じくOhmite無誘導巻線抵抗のWNC 1K(WNC1K0FET/2W)とも比較してみましたが、同様にLGMFSAのほうが空間再現能力は上でした。ちなみにLGMFSと比べると、Ohmite無誘導巻線のほうが音質は優れています。
ただ、無誘導巻線のほうが音が元気でLGMFSAは良く言えば少しおとなしい感じです。悪く言えばWNAに比べLGMFSAは若干音が曇ります。いわゆる金皮の音といってこれを嫌う人も世の中にはいるようですが、(無誘導巻線と比べて)歪まないからおとなしく感じるだけのような気も。
昔の音質比較で無誘導巻線(NS-2B)は「直結と差が分からない」と書きましたが、現在の再生環境だとWNAに関しては決してそんなことはなく奥行き感が失われます。
MF1/4CC 精度1% / 50ppm / 0.25W / 1円
- KOA製 MFシリーズ
よくある普通の金属皮膜抵抗です。そこまで悪くはないのですが、LGMFSAと比べると音が平明的でガヤガヤします。*1
カーボン抵抗 精度5% / 50ppm / 0.25W / 1円未満
秋月で購入したどこにでもあるカーボン抵抗です。MF1/4CC以上に音がガヤガヤし平面的な音になります。
チップカーボン 厚膜 / 精度5% / 200ppm / 0.1W / 1円未満
大昔にリールをカットしてもらったもので型番はメモってないのですが、おそらくERJ3GEYJ222Vあたりです。リードカーボン抵抗よりもさらに酷く、のっぺりとした平らな音がします。
ここまでのまとめ
薄膜チップ抵抗の音質評価
一口にチップ抵抗といっても色々ありますが、音質に定評があり値段が高すぎない*2薄膜チップ抵抗をメインに試聴してみました。2012サイズに絞って製品をピックアップしています。なるべく温度係数低いものを中心に選んでいます。
ERA-6A 精度0.1% / 10-25ppm / 0.125W / 64-141円
- Panasonic製。ERA-6ARB202V 10ppm / 131円
- Panasonic製。ERA-6APB202V 15ppm / 141円
- Panasonic製。ERA-6AEB202V 25ppm / 64円
LGMFSAよりもクリアに鳴り奥行きも良いです。±10ppmより±15ppmが高いという不思議な値段設定になってます。
6ARB(10ppm) > 6APB(15ppm) > 6AEB(25ppm) > LGMFSA(15ppm)
音質は「同シリーズなら温度特性が良いほうが音が良い」という法則通りになりました。
TNPU 精度0.1% / 5ppm / 0.125W / 297円
- Vishay Dale製。TNPU08052K00BZEN00
無誘導巻線抵抗で有名なDale製の薄膜抵抗です。5ppmなのでいいお値段しますが、それだけあってLGMFSAより明瞭。
TNPW 精度0.1% / 15ppm / 0.125W / 106円
- Vishay Dale製。TNPU08052K00BZEN00
TNPUより温度特性は劣りますが、高性能な薄膜抵抗です。しかしながら、音は明瞭さに欠け曇ってしまいます。データシートを読むと素材にセラミックを使用しているようなので、それが原因かも知れません。
RNCF 精度0.01% / 5ppm / 0.125W / 256円
- Stackpole Electronics製(台湾製造)。RNCF0805TKY2K00
0.01%という高精度で温度特性も優れた抵抗です。しかし、音が少し平面的になってしまいます(奥行きが少し悪化する)。
PLT 精度0.05% / 5ppm / 0.25W / 508円
- Vishay Thin Film製。PLT0805Z2001AST5
Vishayの薄膜抵抗です。他と違い定格1/4Wになります。値段にびっくりしますが、音質もびっくり。LGMFSAよりも明らかによく(聴き比べてすぐに分かるレベル)、明瞭で奥行きの優れた音になります。
金属箔抵抗より安いとはいえ、値段が高過ぎるのと250Ωからしか値がないのが難点です。
PATT 精度0.1% / 25ppm / 0.25W / 164円
- Vishay Thin Film製。PATT0805E2001BGT1
PLTほどではありませんが、LGMFSAよりクリアで明瞭な音です。125℃対応品。
PAT 精度0.1% / 25ppm / 0.25W / 116円
- Vishay Thin Film製。PAT0805E2001BST1
PATとほぼ同じ性能でこちらは通常温度版でちょっとお安い。しかも音質はPATTより上でPLTにかなり近い音です。PLTがちょっとだけ上という感じ。
値段や抵抗値(PLTは最小が250Ω)を考えたらPAT断然買いです。
RT0805 精度0.1% / 25ppm / 0.125W / 47円
- YAGEO製(台湾)。RT0805BRD072KL
差し替えてしばらくは「おおっ」という感じの音がするのですが、しばらく鳴らしていると音質が悪化してLGMFSAよりも奥行きのない鳴り方になります。風を当てて冷ますと元に戻るので熱の影響のようです。
RN73 精度0.1% / 10ppm / 0.1W / 72円
- TE Connectivity(台湾)。RN73C2A2K0BTD
値段は安いのに大変クリアで明瞭な音がします。LGMFSAより上です。
RR1220 精度0.5% / 25ppm / 0.1W / 13円
- ススム工業(中国製)。RR1220P-202-D
LGMFSAより少し明瞭です。慎重に聴き比べないと分からないレベル。
RG2012 精度0.1-0.05% / 10-25ppm / 0.1W / 67-124円
- ススム工業。RG2012N-202-W-T1 0.05% / 10ppm / 124円
- ススム工業。RG2012P-202-B-T5 0.1% / 25ppm / 67円
RRは中国製ですが、この2つは日本製。同じ精度のは売ってなかったので、こうなってしまいました。LGMFSAよりクリアに鳴ります。
RG2012N(10ppm) > LGMFSA(15ppm) > RG2012P(25ppm)
RG2012Pは差し替えた瞬間に聴いただけでも平面的な鳴り方でイマイチでした。
2012まとめ
ほとんどがLGMFSAより音質が優れるという意外な結果になりました。
- PLT0805 5ppm 508円
- PAT0805 25ppm 116円
- PATT0805 25ppm 164円
- RN73 10ppm 72円
- ERA-6ARB 10ppm 131円
- TNPU0805 5ppm 297円
- ERA-6APB 15ppm 146円
- RG2012N 10ppm 124円
- ERA-6AEB 25ppm 64円
- RR1220P 25ppm 13円(ERA-6AEBとほとんど一緒)
- LGMFSA
- その他の薄膜チップ
圧倒的な音質はPLT0805とPAT0805です。聴き比べてもすぐに分かるレベルなので、この2つは群を抜いてます。その代わり、PLTはお値段も圧倒的ですが、肉薄する音質のPATなら値段もそこそこ抵抗値も多いのでおすすめ。
RN73以下は順位を2つぐらい飛ばさないと明確な差は分かりにくい感じの群雄割拠状態ですが、それでもRN73シリーズのコストパフォーマンスには驚きです*3。KOAに似た型番の抵抗があるようですが、試聴したのは「TE Connectivity」ですのでご注意ください。
1608薄膜チップ抵抗の音質評価
スルーホール抵抗(リード抵抗)では同シリーズならワット数の大きいものが音が良いことが多いのですが、チップ抵抗ではどうなるのか検証してみしまた。
PATT0603 精度0.1% / 25ppm / 0.15W / 162円
- Vishay Thin Film製。PATT0603E2001BGT
- 比較対象:PATT0805 精度0.1% / 25ppm / 0.25W / 164円
ほぼ同じ音ですが、少しだけ1608サイズの方が上でした。
PAT0603 精度0.1% / 25ppm / 0.15W / 111円
- Vishay Thin Film製。PAT0603E2001BST1
- 比較対象:PAT0805 0.1% / 25ppm / 0.25W / 116円
明らかに1608サイズの方が上でした。
RR0816P 精度0.5% / 25ppm / 0.063W / 12円
- ススム工業(中国製)。RR0816P-202-D
- 比較対象:RR1220P 0.5% / 25ppm / 0.1W / 13円
差が微妙なのですが、何度試聴しても何時間かエージングしても2012サイズのほうが音が良い印象でした。
RG1608N 精度0.05% / 10ppm / 0.1W / 106円
- ススム工業。RG1608N-202-W-T1
- 比較対象:RG2012N 0.05% / 10ppm / 0.1W / 124円
ほとんど差がないけども、RG1608Nのほうがいいのかな?ぐらいでした。
ERA-3ARB 精度0.1% / 10ppm / 0.1W / 122円
- Panasonic製。ERA-6APB202V 141円
- 比較対象:ERA-6ARB202V 0.1% / 10ppm / 0.125W / 131円
明らかに1608サイズのほうか音質が上でした。
RP73 精度0.1% / 25ppm / 0.167W / 71円
- TE Connectivity(台湾)。RP73PF1J2K0BTDF
- 比較対象:RN73C2A2K0BTD 0.1% / 10ppm / 0.1W / 72円
同一品種や同一仕様がなかったので同一メーカー比較です。RP73の音が悪かったです。というかそもそも、LGMFSAより音悪かった(苦笑)。1608唯一の無かったことに。
RNCS0603 精度0.1% / 25ppm / 0.063W / 60円
- Stackpole Electronics(台湾)。RNCS0603BKE2K00
- 比較対象:RNCF0805TKY2K00 精度0.01% / 5ppm / 0.125W / 256円
同一メーカーですが物は全然違います(苦笑)。RNCFの高精度抵抗は音悪かったので、RNCSが上でした。
AT0603 精度0.1% / 25ppm / 0.1W / 51円
- YAGEO(台湾)。AT0603BRD072KL
- 比較対象:LGMFSA
安いので買ってみたのですが、刺した瞬間「これは格が違いそう」という音がしまして、案の定エージングが進めば進むほどどんどん音質が向上していきました。とても優れた空間再現能力です。
MCT06030 精度1% / 50ppm / 0.125W / 20円
- Vishay Beyschlag / Professional。MCT06030C2001FP500
追試。1608サイズを網羅すべく買ってみたのですが、50ppmということもあるのか、LGMFSAより音質が劣りました。
RT0603 精度0.5% / 25ppm / 0.1W / 26円
- YAGEO(台湾)。RT0603DRD072KL
追試。AT0603は自動車向けなので、通常品を買ってみました。他の抵抗は、自動車向けのほうが音質悪いので。この抵抗も、通常品の方が音が良かった。
RT0805の音が悪かったので1608版は買わなかったのですが、最初から買っておけばよかった。こんなに音が違うとは……。*4
RT0603 精度0.1% / 10ppm / 0.1W / 76円
- YAGEO(台湾)。 RT0603BRB072KL
追試。10ppm版です。25ppm版より音いいけど、他の抵抗のppmの差ほど音質差はないイメージです。
VKMF1608 精度0.5% / 25ppm / 0.0625W / 10円
追試。Bispaのオリジナル抵抗VMFKです。RG1608Nよりは上ですね。比べると、RG1608はややどんよりした音に聞こえます。
1608まとめ
- RT0603 10ppm 76円
- RT0603 25ppm 26円
- AT0603 25ppm 51円
- ERA-3ARB 10ppm 122円
- PAT0603 25ppm 111円
- PATT0603 25ppm 162円
- VKMF1608 25ppm 10円
- RG1608N 10ppm 106円
- RNCS0603 25ppm 60円
- LGMFSA
- その他(RR含む)
上位5つはどれを選んでもかなり良いです。その5つの中でも、追試したRT0603の2種と、その下3つは結構はっきりとした差があります。RT0603は他の抵抗と違い、10ppmと25ppmの音質差が非常に小さく、値段を考えると25ppmで十分だと思います。
2012サイズのERA-6ARBはそこまででもなっかたのですが、ERA-3ARBは圧倒的でした。でもエージングが進んでAT0603がそれを追い越してしまいました(笑)
PATT0603とVKMF1608間にそれなりに差があります。
おすすめ抵抗ランキング
- (1608)RT0603 0.1% / 10ppm / 0.1W / 76円 / 5~330KΩ
- (1608)RT0603 0.5% / 25ppm / 0.1W / 26円 / 2~1MΩ
- (2012)PLT0805 0.05% / 5ppm / 0.25W / 508円 / 250~260KΩ
- (1608)ERA-3ARB 0.1% / 10ppm / 0.1W / 122円 / 1K~100KΩ
RT0603は値も在庫も比較的豊富で、仕様上では1Ω~1MΩまで存在します。温度係数による音質差がそこまでではないので、通常は25ppmで十分だと思います。
一部に人気のススムの抵抗ですが、それより安くて音の良い抵抗がたくさんあるので買う理由が全くありません。
- リード品:LGMFSA 0.4% / 15ppm / 0.6W / 42円
値段を考えても大きさ*5を考えても音質面でもLGMFSA以外を選択する理由がほとんどありません。抵抗値が10~1MΩまで揃っているのもありがたいです。
注意
抵抗には同じシリーズでも細かい型番で温度特性(音質)が異なるものが存在します。温度特性をよく確認してから購入してください。
まとめ
- 薄膜チップ抵抗はだいたい音質が良い。
- 薄膜チップ抵抗も同一シリーズならば温度特性が良いほど音質が良い。
- 抵抗値の精度は音質に影響しない。
- リード抵抗のときに微妙だったススムRGとRRは、予想通り大したことない。
- 薄膜チップ抵抗はサイズが小さいほど音が良くなる傾向がある。*6
何度も書きますが同シリーズでも温度特性が異なる抵抗は音質が別物です。聴き比べる際は特に注意してください。
後日、RT0603を10~47KΩで揃えて長年常用しています。
1005サイズの追試
何年も経ってしまいましたが、RT0603とRT0402で比較してみました。同一アンプの入力抵抗として、同じ10KΩを左右で変えての比較。
- 1608 RT0603BRB0710KL 10K / 10ppm / 0.1%
- 1005 RT0402BRB0710KL 10K / 10ppm / 0.1%
サイズ以外同一スペックです。予想通り、RT0402(1005サイズ)のほうが良い音でした。1005サイズは手付けが少々面倒なのと、そこまで大きな差ではないので、通常使う分には1608で十分かと思います。
抵抗体が変わってるとは思えないので、抵抗体そのものより、外装(抵抗体を貼り付けているベース)の影響が大きいのかもしれませんね。リード抵抗とかでも、被膜の影響大きいとききますし。
参考
- 高音質アッテネータ①抵抗の音 : 通電してみんべ
- 薄膜チップ抵抗、金属箔抵抗などの音質評価をしている貴重なブログです。1608サイズのほうが音が良いという貴重な発見をされています。