マイコン/デジタル回路
電子工作関連の記事です。アンプ回路はこちら。
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※この記事で解説していることは半分誤っています。ダイオードの特性よりもオペアンプのスルーレートが問題であり、FETでバッファすることはスルーレート改善に効果的です。
ピーク検出回路などではダイオードが整流のために使われます。実際のダイオードは理想的ではないため簡単には行きません。100kHz の sin波 を検出することを考えてみます。
まずは誰もが思いつく簡単なピークホールド回路です。回路図中のRは放電用抵抗です。CRで時定数となりますが100kΩ~1MΩ、Cは0.01uF~1uFなどを使用します。例えば、100kΩ、0.01uFならば時定数は100k*0.01u=1msとなります。
「入力電圧>出力電圧」(コンデンサに充電されている電圧)のとき、ダイオードの電流が流れコンデンサが充電され「入力電圧=出力電圧」となるとダイオードがオフになって最大電圧を計ることができるという回路です。
この回路がうまく行かないことは多くの人が気づくと思います。ダイオードには順方向電圧というものがあり、約0.7Vの電圧降下が起こります。逆に言えば「入力電圧>出力電圧+0.7V」でないとダイオードに電流が流れませんので、0.7Vより小さな信号のピークを計測することができません。
またダイオードには電流によって順方向電圧が非線形に変化する特性がありますので、これもまた正確な測定には向きません(下図は1N4188の電流電圧特性)。
ダイオードの順方向電圧や非線形特性の問題をクリアするための典型的なピーク検出回路です。FET入力のオペアンプ(コンパレータでも可)を使用します。*1
出力電圧より入力電圧が高い場合、電圧差に関わらずオペアンプは+V(電源)に近い電圧を出し続けますので勢いよくコンデンサが充電されます。そして入力電圧より出力電圧が高くなれば、オペアンプは-Vを出力しダイオードに電流が遮断さることによって、ピーク時の電圧がコンデンサにより保持されます。
実際この回路は機能的に動きます。オペアンプ LF356N、C=0.33uF、R=220kΩ、D=1S1588(小信号高速スイッチング用)、電源±15Vで実際に出力電圧を計測してみましょう。DCは直流、sinは0-p電圧です。
入力電圧 | DC | sin 100kHz |
---|---|---|
50mV | 35.0mV | -0.2mV |
100mV | 71.1mV | -0.4mV |
200mV | 170.0mV | -0.3mV |
300mV | 268.6mV | 45.7mV |
400mV | 367.7mV | 117.3mV |
500mV | 466.2mV | 192.6mV |
700mV | 664.1mV | 349.2mV |
1V | 955.6mV | 594.1mV |
2V | 1.944V | 1.439V |
3V | 2.932V | 2.290V |
5V | 4.906V | 3.969V |
DCならばきちんと計れていますが、100kHzのsin波はまともに計測できているとは言い難い状況です。200mV以下のsin波に至っては全く計測できないことになります。
DCだと計測できるのに、高々100kHzのsin波だとまともに計測できない。しかもDCの方は線形な変化をするのに対し、sin波の方は非線形な入出力特性を持っています。一体何が起こっているのでしょうか?
ダイオードにはリカバリー特性というものがあります。PN接合面がONになった状態から、逆電圧が掛かりダイオードがOFFになるまでの時間のことをリカバリタイムと言います。詳細はリンク先を参照して頂きたいのですが、PN半導体に存在する電子やホールが移動することによってダイオードはオフになります。実はこの移動時間というのは速くありません。それは電子などの信号の伝達時間と違い、物理的な移動時間だからです。
よって、入力電圧が現在の保持電圧を下回ってもすぐにはオフにならず、せっかく溜まっていた電荷が-Vにめがけて流れ出してしまいます。よって電圧が下がってしまうのです。微小信号では、コンデンサにたまる電荷 Q=CV の V が少ないので素早く放電されてしまうどころか、マイナスの電荷をため込んでしまうというわけです(電源電圧 -V=-15V は、充電されている電圧 100mV などに比べ非常に大きいため簡単に流れ出します)。
一般に、周波数が高ければ高いほど、検出電圧が低ければ低いほど、その測定は困難になります。
まず思いつくのがダイオードをFRD(ファーストリカバリダイオード)やSBD(ショットキーバリアダイオード)などのリカバリ時間短いものに変更することでしょう。
試しにSBDで実験すると、まともに計測できなくなりました。SBDの特性として忘れてはいけなのは漏れ電流が大きいことです。漏れ電流によりそのまま放電されるため整流(波形整形)すらできなくなり、sin波がほぼそのまま出力されます。そもそも小信号高速スイッチング用である1S1588の逆回復時間は4ns程度でして、FRDよりよっぽど速いくらいです*2。
そもそもの問題はダイオードの前に -V が出力されてしまうことで、この部分をクリアすれば(完全には解決しないにしろ)かなり良くなるだろうと考えました。
負電圧-Vを出力せず、FETでスイッチしてしまうという回路です。+Vとハイインピーダンス出力になります。実際にはわずかに電圧がゲートからドレイン側に漏れるため、すこしだけ電位が下がってしまいます。
FETの代わりにバイポーラトランジスタを使うことはできません。2SC1815で試しましたがほとんど改善しませんでした。考えてみれば単純な話で、バイポーラトランジスタのベースエミッタ間は単なるダイオードですから、結局同じ問題に当たるわけです。
計測結果をここに示します。その他条件は上と一緒です。
入力電圧 | 出力電圧 | ダイオードなし回路 |
---|---|---|
50mV | 28mV | 40mV |
100mV | 61mV | 87mV |
200mV | 128mV | 183mV |
300mV | 194mV | 280mV |
400mV | 260mV | 378mV |
500mV | 325mV | 475mV |
700mV | 458mV | 671mV |
1V | 658mV | 966mV |
2V | 1.505V | 1.97V |
3V | 2.362V | 2.96V |
5V | 4.060V | 4.95V |
小さい電圧も検出できるようになりましたが、結局ダイオード等の非線形性からは逃れられず、入出力電圧が非線形になっています*3。とりあえず、この値をADCで取り込んで非線形補正をかけることにしました。
ネットを調べていると、こちらのダイオードを使わないピーク検出回路が良さそうな感じです。コンパレータがないためLF356N+2SC1815で同じ動作の回路*4をつくって検証したところ上の表「ダイオードなし回路」のようになりました。ほとんど線形で、かなり特性が良いです*5。
以前作成したNJM2073ヘッドホンアンプがあまりにもダメダメなので(その割に高価な部品が載っていて勿体ないので)、回路を分解してLM4880で作り直してみました。
※どうせ作るなら、部品点数が少なく音質が優れたLM4880-DC直結版をお勧めします。
LM4880(LM4881含む)はナショナルセミコンダクターのポータブルプレイヤー向けアンプICです。外部部品が非常に少なく自作には扱いやすいICです。仕様外(保証外)ですが、単3電池2本で動作します。
マルツパーツ館で姉妹品のLM4881が、ネットではエリスショップなどで販売しています。DIPパッケージとSOP(1.27mmピッチ)のパッケージがありますが今回は後者を利用し、秋月の変換基盤を使ってDIP相当として使用しました。
仕様書の回路図そのままです。
仕様では電源として2.7~5.5Vとなっていますが、単3×2で使用しています。色々調べてみると、2.2Vが最低動作電圧で、2.1Vになると音が割れ気味、2.0Vでは全く動作しなくなりました。ニッケル水素電池×2でもだいたい駆動できます。
回路定数ですが、実際に作成するときは手持ちのオーディオ用抵抗の関係から「Ra=1k、Rf=2k」にしました*2。同じく手持ち部品の関係から、入力カップリングCiに「OS-CON 100uF」と出力カップリングCoに「OS-CON 470uF」を使いました。OS-CONはメーカー側でカップリングコンに使用出来ないと言われていますが、この程度の使い方ならば大きな問題はありません。(自己責任で)
なおカップリングコンに電解コンデンサを使う場合はオーディオ用コンデンサを使ってください。このアンプでは、カップリングコンの音がそのままストレートに出てきます。
またカップリングコンおよび中点保持用コンデンサとして電解コンデンサを使用する場合、電解コンデンサがハンダ熱によって失った性能を回復させるため、十分な電圧を加えて性能を回復させる必要があります。*3
電源にはジャンクPCから外した低ESRコンデンサ 6.3V 1000uFを6個使用しました。過去に何度も書いていることですが、電源のインピーダンスを下げることは音質面やノイズ抑制の意味で最重要です。最近はOS-CONやオーディオコンデンサが売られていますので、東信のUTSJやOS-CON 6.3V1500uF(千石で固体コンデンサとして売られてます。マルツならば2.5V2700uF)をお勧めします。
抵抗は好みに応じてオーディオ用などを用いるといいと思います。抵抗は2ピンにできるだけ近づけて配線してください。2ピンが一番ノイズを拾いやすいので、ここの配線を長くすることは音質的に不利です。
クリアかつ明瞭でかなりの高音質です。ノイズも皆無で、NJM2073のノイズと戦っていたのがバカらしくなりました(汗)
カップリングコンの音がストレートに出てくるという印象があります。OSコンのクリアな音質です。カップリングコンにMuse KZを使った似た回路実装と比較させてもらいましたが、こちらはKZ特有の重い低音が鳴っていました。高域まで綺麗に伸びて、歪み感もなく、とても素直な音質です。
電源 | 電流 |
---|---|
2.2~2.4V | 0.5~0.7mA |
3.0V | 1.4mA |
4.0V | 1.6mA |
4.8V | 2.5mA |
だいたいの数値です。続いて、インピーダンス34Ωのイヤホンに繋いだ場合の電流。平均電流ですので、瞬間最大ではこの何倍か行くと思います。
ボリューム位置 | 減衰 | 電流 | 主観的な音の大きさ |
---|---|---|---|
9時 | -33dB | 0.5~1mA | ちょっと小さいぐらい。小さめで聞く人には丁度良い。 |
12時 | -20dB | 15~25mA | 結構な音量。かなり大きめで聞く感じ。 |
1~2時 | -10dB | 25~50mA | うるさくて聞いていられない |
ポータブルプレイヤー向けに作られているだけあり、低価格ながら扱いも簡単で高音質です。1~2万ぐらいのオーディオカード付属ヘッドホン端子*6よりいい音がします。
組み立ても簡単ですし自作初心者向けに丁度良いと思うのですが、問題はチップの入手性でしょうか。そのうち秋葉原の店舗で扱ってくれそうですけどね。(希望的観測)
Prodigy 192の廉価版として、デジタル入出力などを省略したサウンドカードProdigy 192VE。実売8千円前後ながらなかなかの高音質であり、気に入って使っていましたが、ヘッドホンアンプ作成後「どうも音が歪む」感じがしてオペアンプの載せ替えに挑戦してみました。
192VEにはオペアンプとしてNJM4580が使われています。
NJM4580*1は決して悪いオペアンプではないのですが、自作ヘッドホンアンプで聞いていると、どうにもオペアンプに起因すると思われるうるささがあります。複数の音が混ざって聞こえてしまいガヤガヤしてしまいます。
オペアンプと言えばバーブラウンの OPA2604(約550円)や OPA2134(約300円)が有名ですが、最近登場でそこそこ評判のいいアナログ・デバイセズの高スルーレートオペアンプAD8066ARZ(約600円)*1に載せ替えてみました。(秋葉原だとサンエレクトロで売ってます。)
Prodigy 192VEの出力部の回路図は次のようになっています。
チャンネル | L-ch | R-ch | オペアンプ |
---|---|---|---|
Out1-2 | C42,C48,C54,Q5 | C43,C49,C55,Q6 | U9 |
Out3-4 | C44,C50,C56,Q7 | C45,C51,C57,Q8 | U10 |
Out5-6 | C46,C52,C58,Q9 | C47,C53,C59,Q10 | U11 |
Line IN | C41,R52,R53 | C39,R46,R47 | U7→U8 |
MIC IN | C36,R37 | -none- | U6 |
ロットにより回路図や部品番号が違うことがありますので、改造時は必ず自らご確認ください。また改造は各自の責任で行ってください。著者は一切の責任を負いかねます。
出力チャンネルであるU9, U10, U11をそれぞれAD8066に載せ替えてみました。また、出力用カップリングコンデンサC48,C49(他チャンネルでは相当品)をジャンパーしてみました。この改造により最大1.5mV程度のオフセットが出力される可能性があります。高出力アンプなどに接続する場合は十分にご注意ください。またC42等はスルー(削除)できません。*2
無理矢理外してパターンを切り取ってしまわないように十分注意してください。サンハヤトの表面実装取り外しキット*3があれは完璧ですが、40W以上のはんだごてを使って、ハンダを上側下側ともにたっぷりたらして4ピンともブリッジした状態で交互に十分に熱すれば外すことができます。
よく熱した状態で、小さいマイナスドライバーなどを用いて少し力を加えます。このとき無理な力を加えないようにくれぐれも注意してください。
一度にかつ正確に評価するために、Out1-2をNJM4580のまま、Out3-4をAD8066に載せ替え、Out5-6をAD8066に載せ替えてかつカップリングコンデンサをバイパス(ジャンパー)した状態で、ドライバのオーディオ出力をクローン設定にして、Out1-2, Out3-4, Out5-6 で全く同じデータを再生。音量もすべてMaxの状態で評価しました。
なお再生ソフトからの出力にはASIOを用いました。
「AD8066+カップリングコンあり」と比較。
逆に言えば、カップリングコンがあると次のような感じです。
大満足という結果になりました。特にAD8066+カップリングコン削除で別世界の音という感じです。高域の綺麗な伸び具合や低音の素直さは格別です。自作ヘッドホンアンプ(カップリングコンなしDCアンプ)と組み合わせるとピアノやストリングのリアルさが身震いするほどです。
二~三世代前のプロ用オーディオカードよりいい音してます。
onkyoのSE-U55SXを入手したので聞き比べたところ(SE-U55SX無改造状態)、192VEの歪み感が気になってしまいました。この「歪み」はDAC直後のカップリングコンデンサC42~C47(おそらく音響用ではない)によるもので、これを載せ替えたところ解消しました。
写真のとおりOS-CON(10v47uF)を突っ込みましたが*4、オーディオ用電解コンデンサとかなら何でも構いません。使用可能なのは6.3V/10uF以上のものです。物理的に小さいコンデンサを選んでください。
ADC/DACチップのアナログ電源まわりのコンデンサを載せ替えて、同時にノイズ対策をしました。出力抵抗の100Ωをニッコームのプレート抵抗に置き換えました。SE-U55SX(改)と同等以上の音質になりました。
※他の記事では、この状態を192VE(改v2)と書きます。
オペアンプ電源のコンデンサをうち1組をUTSJ 16v470uFに交換しました。ほとんど変化ないかと思ったのですが、かなり効果的で音の透明度が増しました。
R56, R62, R68をそれぞれニッコームの抵抗RP-44C、10kΩがなかったのでR62/R68については多摩電気工業のLFに置き換えましまた*5。がやがやとした曇りが非常に透明度の高い音質になっています。
DAC音質比較も参照してください。