PCM2704で音質のいいDAC
※2021/08/05 Version2に進化しました
※2012/12/13 回路図の修正(Ver1.4)
※2011/07/05 回路図の修正(Ver1.3)
※2011/02/10 回路図の修正(Ver1.2)
※2010/11/24 キット頒布開始
※2010/10/27 回路の修正
PCM2702を使用した高音質のDACを公開し、キットの頒布も行いましたが、音はいいものの物量投資しまくりでコストが高くついていました。コストや回路規模を小さくし、バスパワーでそこそこの音質を目指したのがこのDACです。
ユニバーサルで作るのならば、新型PCM2702DACよりこちらの方が楽でよいと思います。
回路図
この回路図はレギュレーターとして「ADP150」専用設計です(他のレギュレーターではR1が大きすぎて動きません)。ユニバーサル基板等で作られる場合は、部品入手性の問題もあるのでVer1.3回路図に準拠(参考に)してください。
改変履歴
- 2012/12/13 (Ver1.4)レギュレータをADP150に、負電源ICをMAX889に変更。10uF積セラを0.1uF積セラに変更(C9を除く)。
- 2011/07/05 (Ver1.3)L1追加、R1 100Ω→68Ω、R9/C8の追加(kiryさんに感謝)。
- 2011/02/10 (Ver1.2)R3/R4を100Ωに。R11/R12分圧の基準をVccに変更。
- 2010/10/27 C28の追加。チップ積セラを1uF→10uFに変更。
- 2010/08/06 R8を追加しTCXOの出力をプルダウン。
- 2010/07/08 LTC660の1pinを+5V(=8pin)に接続してboostモードに変更。
部品表
部品記号 | 部品名 | 使用部品型番 | 数 | 備考 |
---|---|---|---|---|
U1,U2 | 低ノイズ3端子レギュレータ(3.3V) | ADP150AUJZ-3.3 | 2 | Ver1.4はADP150専用 |
U3 | USB DAC 16bit/48kHz | PCM2704 | 1 | PCM2704Cでも可(確認済) |
U4 | DCDC反転チャージポンプ | MAX889RESA | 1 | LTC660から変更 |
U5, U6 | シングルオペアンプ | LT1363 | 2 | 可能な限りLT1363使用のこと |
X1 | 12MHz TCXO | FOX924B-12 | 1 | 12MHz-TCXOなら何でも可 |
L1 | コイル 100uH/40mA | - | 1 | 2012チップ使用 |
R1 | カーボン抵抗 68Ω(47Ω) | - | 1 | 1608チップ使用 |
R2 | カーボン抵抗 220Ω | - | 1 | 1608チップ使用 |
R3,R4 | カーボン抵抗 100Ω | - | 2 | 1608チップ使用 |
R5,R6 | カーボン抵抗 22Ω | - | 2 | 1608チップ使用 |
R7 | カーボン抵抗 1.5kΩ | - | 1 | 1608チップ使用 |
R8 | カーボン抵抗 2.2kΩ | - | 1 | 1608チップ使用 |
R9 | カーボン抵抗 1MΩ | - | 1 | 1608チップ使用 |
R11 | カーボン抵抗 10kΩ | - | 1 | 1608チップ使用 |
R12 | カーボン抵抗 3.3kΩ | - | 1 | 1608チップ使用 |
R13-R18 | 音響用抵抗 22kΩ(20k) | - | 6 | LGMFSやLMFQを使用 |
C1-C8 | 積層セラコン 0.1uF | - | 1 | 2012チップ使用(X8R) |
C9 | 積層セラコン 10uF | - | 1 | 2012チップ使用(X7R) |
C10-C18 | フィルムコン 0.1uF | - | 9 | 2012/ECPU使用 |
C21-C24 | 超低ESR電解コン 6.3V 820uF | UHN0J821MPD | 6 | 470uF以上 |
C19,C28 | ||||
C25-C27 | OS-CON 6.3V 1500uF | 6SEPC1500M | 3 | OS-CON指定 |
C31,C32 | PPSフィルムコン 330pF | ECH-U1C331GX5 | 2 | 高音質フィルムコン |
C33,C34 | PPSフィルムコン 100pF | ECH-U1C101GX5 | 2 | 高音質フィルムコン |
J1 | USB Bメス基板コネクタ | - | 1 | - |
J2 | RCA基板用コネクタ(白) | - | 1 | - |
J3 | RCA基板用コネクタ(赤) | - | 1 | - |
すべてのパーツは秋葉ショップとDigikeyの併用で入手可能です。小型化する必要がなければチップ抵抗・コンデンサは普通のカーボン抵抗やDIP積セラ/フィルムコンで問題ありません。
C23,C24は音質に直接関わるので、OS-CONの6.3V/560uFとか使うとより音質が改善します。
部品解説
- Ver1.4以降、U1,U2は低ノイズ3端子レギュレータであるADP150専用設計です(R1の値)。
- Ver1.3回路図では、U1,U2は3.3Vレギュレータならばほぼ大丈夫ですが、NJM2391DL1-33に比べ消費電流やドロップ電圧(2.3mA/1.1V)の大きいものは安定動作しないことがあります。また出力側に低ESRコンデンサを置くため発振に注意してください。
- U4は-5V負電源生成用です。MAX889は周波数の違いで500k,1MHz, 2MHzの3種類がありますが好きに選んでください。個人的には500kが良い気がしました。入手性の問題がある場合は、Ver1.3回路図を参考にMAX660(LTC660)などをご利用ください。
- U5,U6のLT1363は安易に変更しないでください。(理由は次項)
- X1はTCXO使用。高音質に重要なのはジッタであり必ずしもTCXOである必要はないのですが、お手軽なのでTCXOを使用。FOX924Bは面実装品なので自信のない方は注意。
- R1~R12は抵抗なら何でも可。
- R13~R18はLPFの音に直結する部分。REYよりもLGMFSかLMFQで。
- C1~C7は0.1uF積セラを使用しデジタル電源のデカップリングに。以前は10uFでしたが、0.1uFのほうがよさそうです。
- C10~C18はパナソニックのECPUというチップフィルムコン0.1uFを使用。他のフィルムコンでも可能ですが小型化のためECPU推奨。C15/C16は無くてもいいかも。C17/C18はもっと大きくてもいいかも。
- C19~C24,C28には低ESR電解コンデンサを使用。6.3V/470uF以上。試作では入手性から820uFのMCZ(@千石)を使用しました。低ESRで容量が多いほど良い。C19,C23,C24はOS-CON(SEPC 6.3V 1500uFや6.3V 560uF)を使用するとよりよくなりそうです。
- C31~C34はECHUコンデンサを強く推奨。フィルムコンデンサの音質比較を参照。
回路解説
必要に応じてPCM2702DACの記事も参照してください。
- LPFはPCM2702DACと同じ設計です。解説も参照してください。
- シンプルに構成したいため反転出力になっています。
- DCオフセット調整回路を省いているため、数十mV程度のオフセットが出ることがあります。気になる人は出力カップリングコンをつけてください(音質は不利です)。
PCM2702DACよりも電解コンデンサの数を減らすことを主眼において設計しました。RCフィルタで電源を平滑化しているのが肝です。試作回路にはLも乗せたのですが、音質上RCフィルタで十分と判断して省略しました。
PCM2702はアナログ部の電源が5Vであり、PCM2704はアナログ電源が3.3Vであるので、出力信号電圧が2/3程度に小さくなっています。例えばヘッドホンアンプなどに使用するとき低能率ヘッドホン+1倍アンプの組み合わせでは十分な音量が取れないことも予想されます。
LT1363は耐容量性負荷がある(C-Load)広帯域アンプです。±5Vで満足な帯域と音質があるオペアンプとして選択しました。コストを下げるのならばLT1364(Dualオペアンプ)を使用する手もありますが、若干音質は下がります。
他のオペアンプを選択する必要は全くないと思いますが、オペアンプ変更時は出力側にZobelなり出力抵抗なりを付けないと発振のおそれがあります。また試作で使っていたLT1677は帯域不足でDACノイズが満足に除去できません。*1
PCM2704は出力抵抗が比較的小さいためにLPFの抵抗を1kΩなどの音質の優れた無誘導巻線抵抗に変更することも考えられますが*2、DACチップの出力電流が増えるためアナログ段の電源ノイズが増加し、そのノイズの影響を受けて音質が明らかに悪化しました。
製作アドバイス
PCM2702のときとだいたい一緒ですが、GNDはIC直下でアナログ段とデジタル段を接続するようにしてください。その他、アナログ部とデジタル部のGNDを混ぜないようにして、DCDC(LTC660による負電源生成)部のGNDはデジタル部から引き、途中GNDを絶対に混信させないで、平滑コン(C25, C26)の手前でGNDを切り離し平滑コンはアナログ電源GNDに接続すると良いと思います。
もっと良い製作ノウハウがあればコメントください。
音質評価
PCM2704はDACの素性としてPCM2702には勝てないのですが、最強「PCM2702 USB-DAC」の製作 / PCM2702-v2のノウハウをフィードバックした結果、相当に高音質になってしまいました。普通に使用する分にはこれで十分なような(苦笑)。フルチューンナップしたPCM2702DAC(Ver1)より明らかに音がいい。
PCM2704の一番厄介なポイントは出力信号の小ささなので(約2Vpp)、低能率ヘッドホンしか持っておらず、1倍アンプを使用しようと思っている人は注意したほうがいいかも知れません。
キット・回路改善情報の詳細
キットはこちらで頒布しています。この項目はキットの改造情報です。
Ver1.1以前
- 可能ならばR3/R4を100Ωに変更することを推奨します。
- C24はコンデンサの種類によって音色(音の傾向)が変化します。お好みで入れ替えてみても良いか。OS-CONとかも。
Ver1.2以前
- R1を47Ωや68Ωにすると音の滑らかさは失いますが、定位が劇的に改善します*3。L1を追加することで音の綺麗さをそのままに定位を改善できます。
- R9,C8も音質改善効果が大きいものです。セルフパワーモード動作ではVbusはただのロジカル入力なのですが、ここから回路全体にノイズが伝搬するようです。kiryさんの情報に感謝。
共通
C23, C24をOS-CON 6.3V560uF(SEPC)か、サイズが無理矢理でも気にしないならSEPC 6.3V 1500uFに入れ替えると更に音質が向上します。*4
その他
- kiryさんによるユニバーサル基板への実装記事
配線図があるので、ユニバーサル基板で作る人は参考になると思います。