スピーカーパラメーターでよく聞くQ(or Qo or Qts)が直感的によく分からないので、色々調べてみました。間違ってたら訂正お願いします。
ダンピング([e2j:damping])というのはすなわち制動能力のことで、よく聞くオーバーダンピングというのはスピーカーユニットの機械的/電気的制動が効きすぎるものとなります。次のグラフはspedを用いてユニットの特性をプロットさせたものです。
回路のLC共振などを勉強した人は共振の尖度Qを学んだことがあると思いますが、機械系の制御も結局同じレベルで共振を論じることができます。スピーカーコーンの共振についての話がユニットのQであるわけです。FE103Eは、Qtsが0.36と異様に低く裾が広い共振インピーダンスを持っていることが分かります。
- Qtsが低すぎて(オーバーダンピング。上図FE103E)で低音が出ないというのは、ユニットの機械的/電気的制動が強すぎるために、低域でのインピーダンス上昇が起こり低音が出ないということです。
- Qtsが高い(FE83E)ということは、低域での大きなインピーダンス上昇がおきないということです(ただしインピーダンス上昇の山は鋭くなります)。
つまり、ユニットの低域の再生限界には2種類があって、1つは低域共振でのインピーダンス上昇による音圧の低下。これは能率の悪い、重たいコーンをもつユニットを用いることで解決することができます。もう1つはユニットが小さいことによる空気の空振り現象による限界。後者はユニット(ホーン)の面積が大きくすることで解決することができます。
しかしながら、重たいコーンなどのユニットは電気信号をあたえてから実際に音として現れるまで(定常状態に落ち着くまで)若干のタイムラグがあります。立ち上がりの悪い音になるでしょう。
アンプのダンピングファクター(DF)というのもありまして、これまた制動を表す値です。こちらは比較的簡単に調べることができ、「ユニットのインピーダンス÷アンプの出力抵抗=DF」です。この値が大きいほど電磁制動がかかります。
電磁制動というのは何かと言うと、ユニット両端を解放したときに(DF=0)ユニットを軽く手で押すと簡単に動きますが(コーンに傷を付けないように注意してください)、ユニット両端をショートした状態(DF=∞)では押す力に対して反動があります。これが電磁制動です。
- ダンピングファクターは、主にアンプの負帰還(NFB)よって発生する。
- DFには、Qts(Qes)をDFで割る効果がある(制動能力がDF倍される)。
- DFが低い(1や1以下)と、低音の制動が効かず、自由振動の分、出力音圧が増した感じになる(悪く言えば低音がボン付く)。
現在の世の中の設計思想としては、アンプ側はDFを高く(制動力を強く)、ユニット側はQtsを高く(制動力を低く)のようです。
理論的な根拠は示せませんが、NFBが強くかかると音が元気ではなくなり、平明的な鳴り方になるなどと言われます。色々と言われてることを集めてみると、だいたい1つに集約されます。DFが大きすぎると過制動となり、音の立ち上がりが悪くなる。どうもユニットが自由に振動できなすぎて、結果的に波形追従性が失われているようです。
参考文献。ダンピングファクター(DF)とスピーカーの固有振動と制動について
書いていて思ったのですが、
オーバーダンピングで低音が出ないというのは、制動が強すぎるために低域でのインピーダンス上昇が起こり低音が出ない
ということは、まさに探し求めていた(?)電流出力アンプ向けのユニットということではないですか。電流出力アンプでは、(電圧が十分にあれば)インピーダンス上昇による低域や高域の減衰は無視できますし、電圧出力とは比較にならないほど優れた立ち上がり特性を得ることができます。唯一にして最大の欠点は、電磁制動がまったく効かないこと(DF≒0)と、それによるユニット共振周波数(fo)での音圧の上昇です。
オーバーダンピング(Qtsが低い、軽量コーンで磁気回路が強力な)ユニットというのはDFが大きくても機械的制動が期待出来るユニットです。このユニットをなるべく背圧がかからない(Qtsが上昇しない)ようなエンクロージャ(箱)に納めれば、電流出力アンプと互いの欠点を相殺しあって非常に良い結果になりそうです。……いつか試してみます。