2006/10/01(日)スピーカーユニットまとめ

スピーカーパラメーターでよく聞くQ(or Qo or Qts)が直感的によく分からないので、色々調べてみました。間違ってたら訂正お願いします。

スピーカーユニットのダンピング

ダンピング([e2j:damping])というのはすなわち制動能力のことで、よく聞くオーバーダンピングというのはスピーカーユニットの機械的/電気的制動が効きすぎるものとなります。次のグラフはspedを用いてユニットの特性をプロットさせたものです。

unit_q_fe103e.gif

unit_q_fe83e.gif

回路のLC共振などを勉強した人は共振の尖度Qを学んだことがあると思いますが、機械系の制御も結局同じレベルで共振を論じることができます。スピーカーコーンの共振についての話がユニットのQであるわけです。FE103Eは、Qtsが0.36と異様に低く裾が広い共振インピーダンスを持っていることが分かります。

  • Qtsが低すぎて(オーバーダンピング。上図FE103E)で低音が出ないというのは、ユニットの機械的/電気的制動が強すぎるために*1、低域でのインピーダンス上昇が起こり低音が出ないということです。
  • Qtsが高い(FE83E)ということは、低域での大きなインピーダンス上昇がおきないということです(ただしインピーダンス上昇の山は鋭くなります)。

つまり、ユニットの低域の再生限界には2種類があって、1つは低域共振でのインピーダンス上昇による音圧の低下。これは能率の悪い、重たいコーンをもつユニットを用いることで解決することができます。もう1つはユニットが小さいことによる空気の空振り現象による限界。後者はユニット(ホーン)の面積が大きくすることで解決することができます。

しかしながら、重たいコーンなどのユニットは電気信号をあたえてから実際に音として現れるまで(定常状態に落ち着くまで)若干のタイムラグがあります*2。立ち上がりの悪い音になるでしょう。

参考文献

*1 : ダンパーのバネとしての能力(電気のLに相当)やダッシュポットとしての能力(電気のCに相当)が大きいということです(Qms)。Qtsには電気的なダンピングも含まれます(Qes)。

*2 : 重たい重りの付いた振り子と、軽い重りの付いた振り子を、手で押して同じ周期で揺らすことを想像すれば分かると思います

アンプのダンピングファクター

アンプのダンピングファクター(DF)というのもありまして、これまた制動を表す値です。こちらは比較的簡単に調べることができ、「ユニットのインピーダンス÷アンプの出力抵抗=DF」です。この値が大きいほど電磁制動がかかります。

電磁制動というのは何かと言うと、ユニット両端を解放したときに(DF=0)ユニットを軽く手で押すと簡単に動きますが(コーンに傷を付けないように注意してください)、ユニット両端をショートした状態(DF=∞)では押す力に対して反動があります。これが電磁制動です。*3

  • ダンピングファクターは、主にアンプの負帰還(NFB)よって発生する。*4
  • DFには、Qts(Qes)をDFで割る効果がある(制動能力がDF倍される)。
  • DFが低い(1や1以下)と、低音の制動が効かず、自由振動の分、出力音圧が増した感じになる(悪く言えば低音がボン付く)。

現在の世の中の設計思想としては、アンプ側はDFを高く(制動力を強く)、ユニット側はQtsを高く(制動力を低く)のようです。

NFBがかけると音が悪くなることについて

理論的な根拠は示せませんが、NFBが強くかかると音が元気ではなくなり、平明的な鳴り方になるなどと言われます。色々と言われてることを集めてみると、だいたい1つに集約されます。DFが大きすぎると過制動となり、音の立ち上がりが悪くなる。どうもユニットが自由に振動できなすぎて、結果的に波形追従性が失われているようです。

参考文献。ダンピングファクター(DF)とスピーカーの固有振動と制動について

*3 : もっと理論的に詳しく知りたい人は電磁気学を勉強してください。

*4 : NFBをかけないときのDF×負帰還量(倍)=DF×10^(負帰還量(dB)/20)

オーバーダンピングユニットにぴったりの方式

書いていて思ったのですが、

オーバーダンピングで低音が出ないというのは、制動が強すぎるために低域でのインピーダンス上昇が起こり低音が出ない

ということは、まさに探し求めていた(?)電流出力アンプ向けのユニットということではないですか。電流出力アンプでは、(電圧が十分にあれば)インピーダンス上昇による低域や高域の減衰は無視できますし、電圧出力とは比較にならないほど優れた立ち上がり特性を得ることができます。唯一にして最大の欠点は、電磁制動がまったく効かないこと(DF≒0)と、それによるユニット共振周波数(fo)での音圧の上昇です。

オーバーダンピング(Qtsが低い、軽量コーンで磁気回路が強力な)ユニットというのはDFが大きくても機械的制動が期待出来るユニットです。このユニットをなるべく背圧がかからない(Qtsが上昇しない)ようなエンクロージャ(箱)に納めれば、電流出力アンプと互いの欠点を相殺しあって非常に良い結果になりそうです。……いつか試してみます。

2006/09/30(土)リプトン製吸音材

FE83Eダブルバスレフの調整

FE83E使用バックロードホーン(BH)を作成して以来、すっかり隠居生活をしていたFE83Eダブルバスレフ(DB)の吸音材を、リプトン社製吸音材に変更しました。類似商品画像)もありますが、断然リプトン製です。

lipton.jpg

10個入り138円也。ボンドがかわいたおかげで妙な箱鳴りがまったく無くなっていたので中の吸音材を取ったのですが、箱は振動しないものの定在波によると思われる鳴りが発生してるようで、どうもうるさくて定位感が悪い。BHスピーカーは出張中のため、電流出力改造済F通PCスピーカーにリファレンススピーカーの座を奪われるという、なんともしょぼい事態が発生していました。

fe83e_db_lipton.jpg

1ユニットあたり内部に4つほど吊してみました。ティーバッグは予想よりも小さかったですね。ちなみに第1空気室は内径で横17cm×奥22cmほどあります。

fe83e_db_setting.jpg

設置して聞いてみました。妙な鳴りはほとんど影を潜め、すっきりとした音になりました。ということでリファレンススピーカーに返り咲きです。ただあとに示しますが、FE83Eにしては背圧がかかりすぎて(箱が大きすぎて)高域がバックロードホーンほど伸びてません。やっぱりサブスピーカーかなぁ。*1

  • 箱鳴りには、箱そのものの固有振動による共振と、定在波による鳴りの2種類がある。
  • スピーカー(エンクロージャー=箱)を作成して1年ぐらいは、ボンドが乾き切らないために、箱(板)そのものが(物体固有振動により)共振してしまう。これを抑えるためには、かなりの吸音材が必要。
  • 吸音材は良し悪しで、詰めすぎるとエンクロージャ(箱)として必要なスピーカーの音や低音まで吸音してしまう。
  • 約1年して、ボンドが乾くと箱は強力に接着されまったく振動しなくなる。そのため吸音材は不要になる。しかし、定在波による固有振動が発生するため、空気室内部で音波を乱反射させるための細工(例えば今回のリプトン)が必要がある。

効果のほどは?

吸音材としてグラスウールがたくさん入っていたときのF特がこちらです(作成直後に測定したものです。右のホワイトのイズ測定はたぶんグラスウールなしだと思う)。

ftoku_fe83e-db-pn.gif
ftoku_fe83e-db-wh.gif

リプトン社製吸音材に変更した結果がこっち(変更直前を測定しておけばよかったですね(汗))。

ftoku_fe83e-db-lipton-pn.gif
ftoku_fe83e-db-lipton-wh.gif

50Hz~100Hzの間にかなり大きな谷があって、このせいで音のムードがない曲などが多かったのですが、ボンドが乾いた結果かどうか分かりませんが、かなり改善されています。1.5kHzと1.8kHz付近に大きな山がありますが、それぞれ「340m/220mm=1.54kHz」「340m/170mm=2kHz」ということで、奥行き、横の反射音だと推測できます。よく考えたらスピーカーユニットのまっすぐ背後にリプトンを配置し忘れたので、あとで買ってきて追加しようと思います(汗

*1 : バスレスポート共振周波数付近の低音の力強さはよいんですけどねぇー

F通スピーカーの改造

過去記事。元々プラスチックのチャチな箱で、電流出力アンプへの改造後の再生能力向上に箱が付いていけず、125Hzと250Hzで盛大に箱なり(箱が共振)するので、強度補強してみました。

ftsu_pc_speaker_box.jpg

箱鳴りは無事収束。しかし、曲よって、所々どうにも割れた感じになるんですが、これはどうやらアンプの問題だったようです。160Hz付近の共振周波数や10kHzを越えるような高周波が同時にソースに存在すると、それに見合う電流を流しだす特性上(高い電圧が必要になって)クリップするようです。これは原理上仕方ないねぇ……。


……しかし、リプトン版ダブルバスレフと比べると、やっぱりクリアさに欠ける。これ以上はスピーカーユニットの性能だから仕方ないなぁ。

2006/09/28(木)ヘッドホンアンプ

NJM2073ヘッドホンアンプの実力を知る意味でも比較用にもう1つアンプを作ろうと考えています。単純単電源バッファアンプは障害が多い割にそこまでの音質も望めそうにないのですよね。というのもFET入力にしないと、入力インピーダンスやバイアス回路、電源、カップリングコン除去などなどの複合的な問題が多すぎまして、何をどう考えても、1つを優先すれば他がみんな立たずみたいな状況。

FET入力にするなら別にバッファアンプにしておく意味もないですし、単電源を諦めればDCアンプを作ることも可能になるというわけで。

  • FET入力+バイポーラバッファ回路
  • DCアンプ
  • 正負電源使用(ただし電池)*1

という非常に正当派の(ヘッドホン)アンプを作ろうと考えています。回路を色々と設計中。FETってよく考えたら使ったことない上、回路の読み方もわからないということで1から色々勉強してます*2。いやネットとかにある回路をそのまま真似れば簡単に作れますけど、せっかくなら理解したいじゃないですか(笑)

*1 : 別に抵抗分圧でもトランスでもよいけど、一番音質を望めそうな電池に

*2 : スイッチとして使うならこの上なく楽なんですが、交流増幅となるとちゃんと理解しないと無理

2006/09/21(木)ヘッドホンバッファアンプの試作中

バッファアンプでヘッドホンを鳴らす

トランジスタ(1石)ヘッドホンバッファアンプを試作してました。

下に書いたNJM2073ヘッドホンアンプを試作してて気づいたんですが、ヘッドホンアンプの場合、アッテネーターを通してアンプの初段に入力される電圧レベルって、実用範囲の音量だと数百μV~1mVオーダーなんですよね。そりゃ雑音に弱いわけで。

ヘッドホンアンプの出力なんて、せいぜい数十mVオーダー、どんなに大きくても数百mVオーダー。最近のプレイヤー機器の出力信号って民生用で1v p-p(ピークピーク)ありますから、「ボリュームを通してそのままバッファアンプに突っ込めば電圧的には十分なハズ」というA氏の発言が発端。

試しに2SC1815を使って回路を設計して組み上げたところ、簡単に発振すると噂のエミッタフォロアの発振を実体験*1。これはたしかにひどい。パスコンを付けたりと試行錯誤中ですが、現状聞いてかなりよさげなので*2発振を止められれば相当良い線行くと思います。

回路的には、音質の最大の障害であるカップリングコンを全部排除して、しかも単電源で動かすという無茶をやってます*3。しかしこれ作った本人からして「よくこれで動作するな」という感じなので、無事に試作完了して回路図公開したら袋だたきに会いそうです(笑)*4 電源はNJM2073ヘッドホンアンプの電源をそのまま使いましたが、電源コンデンサは1~2つ程度で十分そうでした(まだわかりませんが)。

その後

方式に無理がありすぎたらしく、発振が止まらないので諦めました。一石で色々作ってみましたが、現在のところ、この前示したNJM2073回路で十分という結末に…(汗

*1 : 1815のFtは50MHzです

*2 : 今日は手元にまともなヘッドホンがなかったので何ともいえませんが

*3 : シンプル is Bestが最近のポリシー

*4 : 発振をきちんと止められればですけど

2006/09/21(木)NJM2073によるヘッドホンアンプ

NJM2073はIC自体の問題(ノイズ)が大きくヘッドホンアンプには向きません。どの回路図でも、NJM2073でヘッドホンアンプを作ることは全くお勧めしません。

このアンプを作るぐらいならLM4880ヘッドホンアンプを作る方が100倍マシです








アンプ回路図

まだ部品不足のために作成の目処は経っていませんが、ブレッドボードで動作(音質)確認をとったので回路図を掲載しておきます。部品点数は可能な限り少なくなるようにしてあります。

hamp_2073.gif

hamp_2073_pow.gif

制作時の注意点とポイント

  • NJM2073データシート
  • このアンプの電源は「単3電池2本」です。これでも通常のリスニングでは十分な音量が出ますし、音質の面から言えば電池であることが最重要です*1
  • 電源のC1~C5に使う超低ESRコンデンサが音の要です。三栄電波などでニチコンHN(or HZ)を、ジャンクで入手する場合は壊れたPCマザーボードなどから6.3Vコンデンサを取り外してください*2。個数はお好みで。
  • PC用低ESRコンデンサはちょっと……という方は、千石電商等で売られている「OSコン 6.3V 2200uF」を適当に使用してください。
  • 電源からNJM2073電源入力までのラインは、あまり長く引き回さないようにしましょう(そこまで神経質にならなくても構いませんが…)。
  • Cpには積セラなどを使い、NJM2073の直前に配置してください(発振防止用です)。
  • 入力アッテネーター抵抗である20kと2kは、できるだけICの近くに配置し最短で配線してください。Rsの1kΩも同様です。この部分が最もノイズに弱くなります。
  • Czにはフィルムコンデンサをご使用ください。ケチるなら積セラでも構いませんが。

だいたいこんな感じです。フィードバック信号のカップリングコンデンサCfはかなり音質に影響しますし、Co、Roなども同様です。全体がシンプルなだけに1つ1つの部品が音質に与える影響は大きいという感じでした。Cf、CoにはMUSE FG等の音響用コンデンサの使用を強く勧めます(少なくともCfには)。抵抗には音響用抵抗を使うとより一層音がクリアになります。

音質評価

ブレッドボードへの組み込み、電源にニッケル水素×2、C1~C5にGSCコンデンサ×6、安物のボリューム抵抗、CoにTKの標準品コンデンサ、RfにMUSE FG 100uF、抵抗は音響用ではないカーボン抵抗という状況で試聴しましたが、非常にクリアな音がしていました。かなりのクオリティーです。1万以下の市販ヘッドホンアンプでは、おそらく勝負にならないだろうと思います。部品点数が少なく、すべて音響用カーボン抵抗や音響用コンデンサなど使ったとしても、トータル3000円程度ですし、一度試してみてはどうでしょうか?

出力アッテネーターを使用しないとこの音は出せません(;;)

*1 : NJM2073はノイズが多いとあちこちで書かれていますが、ほぼすべて電源のせいです。おそらく数十uV程度の電源ノイズが音として出力されているのでしょう。どうやらIC自体からノイズが発生しまくってる模様です。出力抵抗の100Ωをもう少し増やすといいかも知れません(;;

*2 : 電源のインピーダンスを下げることでNJM2073のノイズをかなり低減できます。

作成後の評価 2006/10/27

音質評価はちゃんとすべきですね(汗) エージングはまだ終わりませんがOSコンらしいクリアな音質なんですが、ノイズが……。出力抵抗をオン/オフ式(100Ω/0Ω切り替え式)にしたんですが、出力抵抗がないとIC自体の発生するノイズが多すぎます。100Ωだとわずかに聞こえる程度ですが気になります*3、IC本来のノイズを出力アッテネーターで押さえ込むというのはかなり間抜けな話です。

どうもこのIC、オープンループゲイン(仕様書未記載)がかなり大きいようで(80dB近くあると思われます)、結果的に出力段で0.5~1mVのホワイトノイズが発生してしまいます(電源電圧や周辺回路に関係なく)。また今回NJM2073Sを使用したのですが、NJM2073D(8pin-DIPタイプ)に比べて雑音が多いようです。

NJM2073はやめて、ほかのICでつくった方がいいような気がする……。

*3 : ヘッドホンの感度と抵抗値による