2011/03/20(日)計画停電で暇だったので電力不足についてまとめてみた
ただ今計画停電中でネットもつながりませんが、ノートPCがあれば文章を書くぐらいはできる(笑) 計画停電や電気の需要などについて簡単にまとめてみたいと思います*1。より専門の方は補足・訂正のコメントをいただければ幸いです。*2
計画停電とは
読んで字のごとく計画的に停電させるものです。
東電管内の以下地域で時間を区切って停電させています。
栃木、茨城、群馬、千葉、神奈川、東京、埼玉、山梨、静岡(東部)*3
地震や津波の影響で、東日本沿岸に存在する原子力発電所および火力発電所が使用できなくなったため、足りない電気を補うために計画停電が実施されています。
電気は貯めておくことができない
計画停電を理解するための重要なポイントがあります。それは「電気は貯められない」ということです。
みなさんが家庭やオフィス・工場などで使う電気は、使っているその瞬間に発電されています。なぜなら電気は貯めておくことができないからです。これが一番重要なポイントです。
電池や車のバッテリー、PC用のUPS(無停電電源装置)はどうなんだと言われるかもしれませんが、一般家庭で使用する電気量はこれらのエネルギーに比べてはるかに大きいものです。例えばこれを書いているノートPCのバッテリーは7.2V/5.8Ahですが、これを全部使いきっても60Wの電球ですら40分しか付けることができません。
電気が足りないとどうなる?
電気が足りないとはどういう意味なのでしょうか。
発電所レベルでは飛躍しすぎてイメージがわかないと思いますので、家庭レベルで考えます。各家庭にはかならず配電盤が付いており、配電盤の遮断機(ブレーカー)には「20A(アンペア)」や「30A」という数字が書かれています。エアコンとポットや炊飯器を使いながら、電子レンジを使ってうっかりブレーカーを落としたという経験のある人も多いかと思います。これが家庭レベルでの電気が足りない状況です。
家庭用の電気は100Vと決められているので、20Aは「20A×100V=2000W=2kW(キロワット)」という電力制限になります。20Aのブレーカーが付いている家庭では2kWまでしか電気が使用できません。2kWを超えると供給能力(20Aブレーカーの制限)を超えてしまうため電気が切られます。*4
これを発電所レベルで考えてみます。発電所はそれぞれ発電能力が決まっています。ニュースで耳にする数万kW~100万kWといった数字です。今現在の東京電力の発電能力(稼働している発電所のトータルの発電量)は3000万kW前後で、各家庭が2kWの電力を使ったとすると(3000万/2=)1500万世帯に電気を供給する能力があります。*5
もし供給可能な電力が3000万kWのとき、3500万kWの需要(電気の消費要求)が起こるとどうなるでしょうか。当たり前のことですが、3000万kWしか供給がないのに3500万kWの電気を消費することはできません。もしも何もしなければ次の現象が起こります。
電圧の低下
100Vではなく90Vや80Vなどに低下します。一般的に電気機器は電圧が下がれば下がるほど電力が減る傾向にあります*6。しかし電圧が下がると家電がうまく動作しなかったり、最悪壊れてしまうことがあります。
この他にも発電機(発電所)が過負荷で壊れたり、発電周波数が50Hz(東日本)より低下したり、電圧が安定しなかったりと本当に数々の問題が起こります。
電力会社ではそのような問題をさけるため、電気が安定しなくなったら強制的に電気の供給をやめる装置*7が発電所から家庭に至るまであらゆるところに無数に設置されています。だから実際には不安定な電気が供給されることはあり得ないのですが、その代わり需要と供給が見あるようになるまでいたるところで停電が発生します。
つまり、どの安全装置が働いて「どこで停電するか」「いつ停電するか」がまったく制御できなくなり、仮に上位レベルで安全装置が働けば関東一円で大停電なんてこともあり得ます。
これが、何も対策をしなかったときのシナリオです。
なぜ計画停電が必要なのか
いつどこで停電するか分からないよりも、特定の時間に決まった場所で短時間(今回は3時間)停電したほうがマシであるというのが計画停電です。
あらかじめ電気が足りなくなったら停電する場所を決めておきます。これなら事前に告知されるので、停電になる家庭やオフィスもあらかじめ備えることができますし、無対処による大規模停電もさけることができます。
なぜ市町村ごとではなく停電地域がバラバラなのか
今回の計画停電では、変電所ごとに電気を遮断し停電しているからです。
ここでいう変電所とは発電所からの送電線である高い鉄塔等の「高圧電線」(10万V以上)から、街中にある電柱レベルの電圧(6600V)に変換するために設けられた設備のことで、1度に6600Vに落とすことはできないため段階的にいくつかの変電所を経て電圧を下げています。今回の計画停電では二次変電所と呼ばれる街中電線に電気を供給する変電所単位で停電を行っているようです(参考資料 - 電気が伝わる経路 - 送電のしくみ | 電気事業連合会)。
そしてこの電柱の電線網は市町村とは関係なく、おもに電力会社の都合で引かれています。行政区域である市町村で区切るより、このほうが効率よく(安く)電線網を構築できます。
そのため同一市町村でも、複数の停電グループに分かれるといったことが起こります。最初にグループの詳細情報が遅れたのも、その情報が膨大であることからすべの市町村の状況を把握するのに大変な時間がかかったためと想像されます。*8
関西で節電しても意味がないの?
今回の計画停電は東京電力および東北電力で行われています。
特に需要が切迫している東京電力では他の地域から応援として電力を送ってもらっていますが、それは北陸電力のみで中部電力や関西電力などそれより西の地域は含まれていません。なぜなのでしょうか。
各家庭で使われる交流は「周波数という電気がプラスマイナスに入れ替わる回数」があり、この回数が違うものは互いに接続することができないのです。この周波数をHz(ヘルツ)という単位で表します。
東京電力やそれより東の地域では50Hz(ヘルツ)の電気を使用していますが、中部電力やそれより西では60Hz(ヘルツ)の電気を使用しています。同じ交流の電気でも周波数が違うので融通することができないのです。
どうして周波数が違うの?
明治時代、電気や発電所というものが盛んに作られたころにさかのぼります。
関東地方ではドイツから輸入した50Hzの発電機を、関西地方ではアメリカ合衆国から輸入した60ヘルツの発電機使用して電気網が整備されてきました。この2つの電気網がそれぞれ独自に発展したため、国内でありながら50Hzと60Hzが混在している状況が現在も続いています。
第二次大戦後等にこれらを統一しようという動きもありましたし、今現在でもできることなら統一したいのは山々なのですが、あまりにもコストや不便がかかりすぎるため将来においても混在し続けるものと思われます。*9
東西で電気を融通するための荒技
とはいっても、東西で発電所の電気を融通することができれば、どの電力会社もいざというときのために余分な発電所を準備しておく必要が減ります。
これを実現する変換所という設備があります。この変換所により50Hzと60Hzを互いに変換すれば東西で融通することができるのです。まさに夢のような設備です。
「じゃあこれで、関西でもたくさん節電すれば、関東や東北の停電はなくなる!」と一瞬思ってしまうかもしれません。でも世の中そんなにうまくは行きません。
変換所が変換できる電力には限界があります。
現存する3つの変換所をあわせても100万kWまでしか電気を融通することができません。すでに電気を融通している中部電力には100万kW以上の発電余力があるので、これ以上節電しようがしまいが関係ありません。
この辺かなり誤解されていますが、節電自体は(環境資源保護の観点から)意味があることなので別に訂正しなくてもいいかなと個人的に思っています(苦笑)
大口需要家ってなに?
ニュースなどで次の言葉をきいた人も多いと思います。
東京電力は、大口需要家に電気の使用抑制をお願いした
大口需要家というのは、大型工場(プラント)などで大量に電気を使用している顧客のことです。わかりやすいところでは、自動車会社(日産、ホンダ等)や電機メーカー(NEC、富士通、三菱)、製鉄会社、化学会社(住友化学、カネボウ化粧品)などです。
ニュースのトピックや記事だけみると、そういう大きな会社に節電に協力をお願いしただけのように見えます。何故お願い程度でニュースになるんだと不思議に思った人もいるかもしれません。ですが実態はまるで違うのです。
これらの大量に電気を使用する大口需要家の中には需給調整契約をしているところが少なくありません。需給調整契約とは、電気料金を安くする代わりに電気が足りないときは使わないでねという電気を使わせないことに強制力を持った契約です。先ほど具体例を示した会社は、(このサイトの情報によると)いずれも需給調整契約を結んでいます。
つまり先ほどのトピックは事実上次の意味になります。
東京電力は、需給調整契約をした大口需要家に工場などの操業停止を強制(要請)した
この契約自体は今回のような災害を前提としたものですが、2007年夏の電力不足*10のときにもこの要請は行われました。
電気を貯める裏技、揚水式水力発電
先ほど「電気を貯めることはできない」と解説しましたが、電気そのものを貯めるのでなければ実は方法があります。
それが揚水式水力発電所という水力発電設備です。
通常、水を上から下に流して発電する水力発電所ですが、電気が余る夜間(深夜)の電力などを使用して低いところに落ちた水をモーターで高いところに移動しておきます。この水を昼間の電力ピークに発電として使用するのです。
電気そのものを貯められない代わりに水力発電所に水をため、結果的に電力の備蓄をすることができます。ざっと計算すると東電管内で600万kWぐらいの出力があります。
電気があまる夜間電力もこのように利用できるので、夜だから節電しなくてもいいかというと少し違うように感じます。
常に最大まで発電できるわけではない
少し前に、韓国が天然ガス(LNG)を日本に融通するというニュースが流れました。
(韓国)知識経済省は声明で、日本は4月以降、毎月100万から150万トンのLNGを追加で輸入する公算が大きいとの認識を示した。
韓国が日本にLNG提供へ、4月以降月100万─150万トン
ロシアも天然ガスを増産したり、石炭を融通するというニュースもありました。
当たり前の話ですが、3000万kWの供給能力があっても毎日24時間ずっと供給できるわけではありません。水力発電所ならダムの水が無くなれば終わりですし、石油や天然ガスなどの資源も限りがあります。
このうち石油は備蓄もあり比較的余裕がありますが、天然ガスは1ヶ月に使用できる量が決まっています。発電のためにダムを空にするわけにもいかないので、水力発電所も使用量に限度があります。揚水式水力発電所に至っては原則、通常の流量のほかはあらかじめ貯めた分しか使うことができません。
電力会社ではこの先何ヶ月の中で「どれくらい電気が必要になるか」予想してあらかじめ発電資源を確保しておきます。1ヶ月なりの中でも毎日の需要を予測し、どの発電所をどれくらい動かして電力を確保するか毎日決めています。今回のような緊急時でなくても、電力会社は毎日これ行っています。どうしても足りないときは他の電力会社から融通してもらったりしています。
だから明日の供給能力といった具合に毎日供給能力が何百万kWも変化するのです。
ちなみに当日も、現在の発電量と現在の需要(消費)のモニターをしながら、きめ細かな発電量の調整を行い、突発的な電力不足や大きな電気あまり(発電資源の無駄遣い)を起こさないように調整されています。
電力供給調整に休みはないのです。
消費電力の大きいもの
電気不足についてひと通り説明したところで、たくさん電気を食う家電を上げておきます。基本的には熱を発するものが電気を食うものです。
- エアコン
- 冷蔵庫
- こたつ
- 炊飯器
- 電気ストーブ
- ホットカーペット
- 電子レンジ(オーブンレンジ)
- 乾燥機
- アイロン
この他、大型テレビも比較的電気を食います。一番大きく効くのはエアコンの設定温度を下げる(夏場なら上げる)ことです。そして可能ならば電気を使う暖房を避け、石油ストーブ、石油ファンヒーター・ガスファンヒーターなどの暖房に切り替えることです。
夏場なら、扇風機を併用するなどしてエアコンの設定温度をさげることが効果的だと言えます。
また当然のことながらつかわない電気をこまめに消すことが一番大切です。
まとめ
説明が曖昧だったり、すこし難しすぎる面もあったかと思いますが、なんとなくでも伝わったでしょうか。質問コメントなどありましたら分かる範囲でお答えしようとは思います。
最初にも書きましたが、専門の方からの補足や訂正などありましたらコメント頂ければ幸いです。
参考資料
- UPSは本当は何分もつの? 有効電力と力率の話 - 「電力と電力量」に電力の基礎説明
- 東京電力の計画停電を考える
- 東西で電気の周波数がなぜ違うのか