この記事は古くなってます。できれば次の記事も合わせて参照し情報を補完してください。
通常のアンプは入力波形に対し、できるだけ忠実な電圧を出力しようとします。電流出力アンプでは、入力波形に対してできるだけ忠実な電流を出力しようとします。ネットワークを持つスピーカーは電圧出力を基準に作られているため、実質フルレンジスピーカー専用の方式です。
スピーカーユニットは高域と低域でインピーダンスが上がり、その影響で低音と高音が出にくくなります。電流駆動では、スピーカーインピーダンス上昇に関係なく、波形に応じた電流を流すことができます。電圧出力を中心としてみれば、スピーカー特性に合わせてラウドネスがかかった感じになります。スピーカーユニットも電圧駆動に合わせて設計されているということを抑えておく必要があります。
とにもかくにも入力に対して忠実に(ほとんど歪まずに)再生し、音の立ち上がり特性が特段によいことが最大の特徴です。ケーブルや出力系のループにある電気的影響をほとんど無視するとも言えます。特にアンプとして小型(小規模)であっても、その再生能力は電圧出力のそれと比べて大きな差が生まれます。
この前の続きです。山本式電流帰還アンプの改良版みたいな感じです。(10/12回路図更新)
下図には記入し損ねましたが、BOOTSTRAPと呼ばれる端子も接続しました。
- Czは負荷インピーダンス調整用(発振防止用)のフィルムコンデンサです。
- 帰還量調整用抵抗「Rh」を可変抵抗にすると音質的には不利になりますが、原理上、ユニットをつないで動作させるまでほぼ調整不可能ですので可変抵抗にすることをお勧めします(ラウドネスコントールのような働きをします)。
- 「Rh」の値は、IC内部に組み込まれているフィードバック用抵抗の値によって適切に変更してください(ICの仕様書をみれば書いてあります)。あまり帰還量を増やすと発振します(この手のICでは帰還量20数dB程度が限界です)。
- Coを大きくするほど低音が出るようになります。低音をさほど望まないのならば、小さく(470uF程度に)しても構いません。
- Cfの大きさは「Rh」の値によります。低周波でのインピーダンスを計算し、その値がRhより十分に小さくなる値を選びます。
- 電流帰還抵抗「Re」は0.22Ωです。Rhによる帰還量調整と合わせ、電圧帰還と電流帰還の比を決定します。例えば「Rh」をいっぱいに回してもドンシャリ気味である場合は、この電流帰還抵抗を0.2Ωや0.1xΩなどに小さくしてください。
- Reをバイパス(ショート)すると電圧出力になります
- 実際には入力ボリュームを付けてあります。入力抵抗、カップリングコンデンサは省略しました。
- パワーIC TA8217Pの仕様書はこちら
みれば分かりますが、電圧出力と電流出力のミックスな感じの回路です。初めRh=0Ωの状態で組み込んだところ、高域と低域ばかり強調されて中域が抜けた(まさに中抜けな)音がしました。定位や音の素直さは抜群でしたが、いかんせんこれでは聴くに耐えません。アンプICを見ると元々電圧帰還ループが中に組み込まれていたので、この部分の帰還量を変更する方式にしました。狙い通りRhを大きくし電圧帰還量を増やしてあげると(相対的に)電流の帰還量を減らすことができました。
帰還量を減らすためには電流帰還抵抗を小さくする方法もありますが、0.1Ωにしたところ「電流出力アンプ独特の良さ」が失われたように感じたので0.33Ωに、しかしそれではドンシャリ気味でしたのでさらに変更して0.22Ωにしてあります。試聴した感想などはこちらを参照。
FE83Eによる自作バックロードホーンスピーカーを鳴らしてみましたが、ディスクリートアンプに負けず劣らずという鳴りっぷりでした。コンデンサーのエージングが済むまでうるさい鳴りをしますが、スピーカー自作派の人には(部品も安いですし)だまされたと思って一度作成してほしいと思います。
7812ライクな3端子レギュレータ、LM2940Cを使用しました。7809でも7815でもLM317でも、トランジスタによる直列安定化電源でもなんでも構いません。お約束ですが、3端子レギュレータ使用時は「Cx」に積層セラミック0.1uFなどを3端子レギュレータと物理的に最短で配置しましょう(発振防止です)。LM2940Cは逆電圧保護回路が入っているため省略しましたが、通常の3端子レギュレータの場合は出力側から入力側へ保護ダイオードを取り付けてください。
- アンプ部および電源で、Co、Cf、C1、C2は Muse FG を、C3にはOSコンを使用しました。電源はもう少しコンデンサ容量を増やしてもいいと思います。またコンデンサの種類によって音が変わりますので(特にCo、Cf)、好みで楽しんでください。
- 回路作成時は1点アースを心がけました。ただ、プリ部の電源はプリ部で1点にまとめてから、パワー部のアースに落としました。
- ACアダプタを使わない場合は、トランス+SBD(ショットキーバリアダイオード)をおすすめします。スイッチング電源は絶対不可
ここではパワーアンプICとしてTA8217Pを使用しましたがPCスピーカー用やラジカセ用パワーIC等、基本的に何でも構いません。基本的な流れとしては「その辺のPCスピーカーの分解 → ネットで検索してパワーICのマニュアルを入手」になるのではないかと思います。マニュアルをみながら適当に対応付けすれば、どのICでもこの方式を使えると思います。
例えば秋月で売られているTA7252AP(データシート)はTA8217Pとほとんど同じ構成ですので、このICを2つ使って(片チャンネル1個)組むことができます。千石で売られているTA7281P(データシート)ならば、上記回路の定数を変えず、ほぼそのまま流用可能だと思われます。
あちこちで叫ばれているように、電流駆動アンプは電磁制動(電磁ブレーキ)が効かず低域にあるスピーカーの機械的共振部分で音の収まりが悪い的発言をよく見かけますので実験してみました。電流出力時は上の回路でRh=0Ω、電圧出力時はReをシートして(=0Ω)測定しました。この際、Rhは適当に(おそらく数kΩ程度に)設定しました。
測定周波数 | 20Hz |
測定波形 | インパルス、方形波(ステップ応答代わり) |
測定部分 | スピーカー両端電圧 |
左:インパルス応答、右:方形波応答
左:インパルス応答、右:方形波応答
2つの波形を比較すると分かりますが、電流出力では入力周波数の7倍程度=140Hz程度の揺れがあります。これがスピーカーユニットのfo(低域共振周波数)による揺れで、この部分に対し電磁制動がほとんど効いていないことが分かります。一方、電圧出力の方では、このような揺れが見えないことから電磁制動が効いていると考えられます。
プローブが1本しかないので入力波形が表示出来てませんが、電圧出力の方は出力波形がかなり大きく歪んでいます。出力コンデンサの影響の影響が大きいのか、周波数的にかなり広い部分の低域(100~200Hz程度?)をほとんど再生できないことを示しています。
単純問題として、どちらが良いかということですが、低域共振にしたところで25ms程度で収束していることから電流出力に軍配を上げます。波形追従性、つまり忠実に再生するということにおいて(この回路での)電圧出力は遠く及びません。
女性ボーカル、ストリングや金管楽器を含めた中高域を主成分としてもつ楽器の艶っく豊かな再生、大型アンプに負けない低音の再生能力、実にハッキリとした定位を考えると一度試してみて損はないです。PCスピーカー組み込みではなく、今度機会があればディスクリートアンプとして作ろうと本気で考えています。
追記 2007/12/12
http://nabe.blog.abk.nu/098 より。
立ち上がりの良さは音の臨場感に多いに影響しますが、普通のアンプで電流出力を採用すると(スピーカーが電流駆動用に設計されていないために)、音のメインである中音がきこえなくなり、ハイが強く聞こえてしまいます。
もともとアンプIC自体がハイあがりなのか(ブートストラップのせいか、スピーカー&ボックスのせい)、シャリ付いて仕方なかったため、今日電圧出力に戻しました(帰還抵抗=0Ω)。
電流出力を使用するときは、回路からスピーカーまで含めた構成を本格的に考察する必要があります。とはいえ、簡単に0.1Ω程度(以下)の電流帰還抵抗を使って、高域特性と立ち上がり特性を改善するのは手段として有効です(フラットなF特をめざすとかなりシビアになりますが、それはそれ)。
さらに追記。0Ωだとややしょんぼりな音なので0.05Ωにしました。曲によって少しだけシャリ付きますが、曲自体がシャリ付いているもあるのでしょう。