ループする回路に意味はあるのか?

はてブ数 2009/02/04電子::アンプ

低電圧ヘッドホンアンプ(ダイアモンドバッファ付)の回路に次のようなコメントを頂きました。

回路図を眺めていておもったのですが、P点を接続するとOPアンプからの出力が

ダイヤモンドバッファをスルーしてしまうような気がするのですがどうなんでしょう?

僕の中学理科程度の解釈が正しければ、ショート=0Ωな方に信号は流れていくと思うのですが・・・

ともさんのコメント

明らかに釣りですが、暇だったのでいい勉強になりそうだったので付き合ってみました(笑)

※2009/10/10 本文修正

どういう指摘か?

回路図の模式図を掲載しておきます。*1

loop-buf01.png

ダイアモンドバッファの入力と出力が接続されているから意味がないのではないか? という疑問です。

ほんと不思議ですよね(笑)

回路がある程度分かっていないと、この不思議さはわからないと思うので一応説明しておくと、入力信号と出力信号が接続されているということは、入ってくる電圧と出てくる電圧はまったく等しいということになり、それならば付いていても付いていなくも意味がないではないか? という疑問です。

*1 : 回路図は昨年末から改良のため書き換えることを予定しているため、いずれここに掲載するものと記事で掲載するものは一致しなくなります。

あの回路が生まれた本当の事情

オペアンプの出力とダイアモンドバッファの出力をいいとこ取りで混ぜてしまえという話は記事にかきましたが、それを接続したあとはたと気付きました。これ回路がループしてるじゃないか? って。

正直なところ「なんの間違えだ?」と思いました。ダイアモンドバッファがあってもなくても出力は何も変わらないはずです。でも、じゃあ戻しましょうとはならなかった。

ダイアモンドバッファの入力側を切断しても、出力側を切断しても音が変わります。相当気を遣って何度も何度も確認しましたが確実に音が変わります。

音が変わるということは接続されているダイアモンドバッファが無意味ではないか、自分の耳が相当に腐っているかのどっちかです。音の差を客観的に示す方法をまだ持っていませんので(THD等ではなく)、後者の可能性は否定しきれませんが、とりあえず耳が正しいとしました。*2

実物は下手に考えるより正直なものです。

*2 : 実際に作ったみなさんも変わるといわれますし、回路にまったく疎い人にブラインドで聞き比べてもらっても変わると言われましたので、多分大丈夫でしょう。

どうして音が変わるのか?

loop-buf02.png

U2がダイアモンドバッファ回路の代わりです。R2はダイアモンドバッファ回路の出力抵抗。1Ωの並列なので0.5Ωぐらいです。一方R1はオペアンプの出力抵抗。どんなに低くても20Ωぐらいで、通常は50~100Ω。

出力インピーダンスの意味を理解している人には簡単なことなのですが、U2側の出力はたしかにU1の負荷として働く面はあるものの(U2の出力は常にU1に追従するためそこまで大きな負荷にはならない)、それと同時に負荷に対するインピーダンスを下げる役割があります。

検証2 2009/02/07

出力インピーダンスを実際に観測するため注入法によりインピーダンスを測定しました。オペアンプ負帰還がかかっていればON/OFF法により出力インピーダンスに変化がないと主張する人もいますが誤った認識です。

問題の回路のボリュームをしぼり0Vを出力させ、出力点に100Hzの矩形波(出力インピーダンス10Ω)を入れてどのように変動するかADCで観測してみました。矩形波の生成は、WaveGeneを使用し、出力をオペアンプ+ダイアモンドバッファ(P=R13=R14を切断)でクリップしない程度に出力(ここまでDC直結)させ生成しました。

loop-buf11.png

ダイアモンドバッファのスイッチをONにした状態、OFFにした状態で2回測定し、それぞれ記録。1秒だけ切り出して「OFF=L-ch」「ON=R-ch」に合成しました。測定ミスがあると困るので2度測定しました。結果をSoundEngineで表示したのが次の図です。

dbuf01.png
dbuf02.png
dbuf-wave.lzh:WAVEファイルDL(dbuf-wave.lzh)

ダイアモンドありの方が信号が小さくなっていることが分かります。これから、出力インピーダンスが低くなっているといえます。ちなみに、同じ要領で、ダイアモンドバッファを接続したままR3(P点)相当部分をON/OFFすると、よりはっきりとした差が現れます。

検証3 DC出力インピーダンスの測定 2009/02/08

わざわざ矩形波入れなくても安定化電源を使えばDCインピーダンスが計れることに気付いて(遅い)、ちょっと試してみました。使った抵抗も電圧計も精度をとったわけではないので、相対比較以上の意味はもちません(特に印可電圧の計測使った電圧計は値がずれてます)。*3

印可電圧回路状態抵抗両端電圧
1Ωによる注入10Ωによる注入
0.2Voff110.4mV195.5mV
on103.3mV195.5mV
R3切断53.9mV195.5mV
0.5Voff112.6mV511.3mV
on116.5mV511.3mV
R3切断67.3mV511.3mV
1.0Voff120.0mV1012mV
on178.6mV1012mV
R3切断86.0mV0.755mV

電源は1.2~1.1Vぐらいのエネループ2本。

  • ダイアモンドバッファ回路がまともに働く電圧範囲の限界がある(Vbeの分)。
  • 電流量、電圧量からR3を切断したとき、駆動力不足になることがある。
  • オペアンプの出力電流はほぼ100mAで制限されている。

*3 : 毎回同じ電圧を与えることが重要なのであって、電圧値がずれていても今回の場合はそこまで大問題ではありません

補足 2009/10/10

  • 電圧レベルでしか着目せず「変わらない」と言っているのは思考停止も甚だしい勘違いです。(電圧)出力装置には必ず「出力インピーダンス」というパラメータが付きまといます。
  • 出力インピーダンスの差がそこまではっきりとは計測されなかったのは、バッファ回路事体が負荷としても働くため、オペアンプ側(LME49721)の駆動力を殺している部分が少なからずあるからです。R3を切断するとよりはっきりとした差が表れるのもそのためです。

自分では確認していませんが裏技(応用技?)として、わざと電流負荷を並列に繋ぎ(バッファを負荷とみなす)、オペアンプ側の動作モードを変更し音質変化を狙うというやり方もあるそうです。聞いただけで検証していないため真偽は不明。