Chu Moyヘッドホンアンプ製作のコツ
※2009/02/15 全面修正。
自作のヘッドホンアンプと比較のため、CMoy式のヘッドホンアンプを作成しました。
回路図
- DC直結アンプになっています。オペアンプ自体のオフセットが出力側に少し出ますが、多くの場合「数mV程度」なので気にしなくていいと思います。
- 増幅率は「10kΩ/2.2kΩ+1=約5.5倍」です。ヘッドホンアンプは1~2倍の方が使いやすいのですが、単純に増幅率を下げると発振しやすくなります。
- 帰還抵抗には1~10kぐらいがよいと思います。ここの抵抗をあまり大きくするとノイズが増えます*1。MΩぐらいまで大きくするとノイズを拾い発振することもあります。
- 電解コンデンサは手元では低ESRコンデンサであるOSコンを使用しました。標準品コンデンサや音響用などを使う場合は、0.1uFフィルムコンデンサをパラレルに付ける方か良いです。これは電源のインピーダンスを下げるためです(インピーダンスが下がると瞬間的な電流供給能力が高まり、また電源ノイズ除去能力も向上します)。
- 電源側のGNDバランスにLEDを付ける作例もありますが、電源のバランスが崩れたときに修復されない問題があるのでLEDは分圧部には付けないようにします。
- 手前にボリュームを付けない場合は、入力端子を10kΩ程度でGNDに落としてください。そうしないと発振することがあります。
- 中点バランス用の抵抗はなるべく小さくしますが、その分電気は無駄に消費されてしまいます。1~5kΩぐらいを使うのが良いと思います。
実装上の注意
- コンデンサとオペアンプ電源はなるべく太い線で短く配線します。こうしないと、いくら性能のいいコンデンサを使用しても無意味になります。
- オペアンプ入力端子の抵抗は、なるべくオペアンプ側に近づけて配線します。その方がノイズを拾いにく、発振しにくくなります。
発振のお話
よく知られているとおり、この回路はヘッドホン接続時に発振することがあります。特に、最近の高速オペアンプ・高性能オペアンプは軒並み発振します。
普通は使いませんが、高速オペアンプであるNJM318DやLM7171で、1kHz矩形波を入れたときの写真が次になります。
オペアンプ | NJM4580DD | NJM318D | LM7171 |
---|---|---|---|
矩形波応答 | |||
帯域幅等 | 15MHz, 5V/us | 15MHz, 70V/us | 200MHz, 4100V/us |
NJM4580DD はよく知られたオーディオ用オペアンプ、非オーディオ用の他2つは高スルーレートオペアンプです。波形が歪んでいることが分かります。実際オーディオを再生させるとトゲトゲして聴けたものではありませんでした。
発振させないために
発振させないためのポイントは次のとおりです。
- 増幅率を5倍以上にする。
- 帰還回路で位相補償を行う。
- 出力抵抗を付ける。
- Zobelフィルタを付ける。
出力抵抗を付けず、増幅率を1倍というのはかなりの冒険になります。後ろ2つについては個別に解説します。
高性能オペアンプの発振防止と出力抵抗
出力抵抗について、誤解が広がっているようなので注意。
発振しにくくする | 発振しやすくする |
---|---|
どちらもオペアンプの出力電流制限用としては同じ意味がありますが、発振防止用としてはまったく逆の効果があります。
ループ外抵抗
- 発振しにくくなります。安全性では数十Ωが必要ですが、音質への影響を考えると10Ωぐらい、できれば1~2.2Ωぐらいにしたいところです。しかしながら、1Ωぐらいで発振防止効果のあるオペアンプは限られます。
- この抵抗の音質が、そのまま再生音に直結します。
- 数Ωより大きくすると音質の面からはオススメできません。しかしながら、LM4562やLT1028等の広帯域アンプではこれでも発振することがあり、安定のために50~100Ω近くの値を直列に入れる必要があります。
- 使用出来るオペアンプは限られますがZobelに逃げる方が得策でしょう。
- 理屈など
- 出力インピーダンスが入れた抵抗値とほぼ等しくなります。
- (理屈)この抵抗を入れることで負荷が純コンデンサ(ケーブル容量など)から、どんどん遠ざかるため位相が遅れにくくなる。
ループ内抵抗
- 発振しやすくする。10Ω程度から効果的に発振能力を高め、よく使われる51Ωでは相当発振しやすくなります。
- 数十Ω入れても出力インピーダンスはほとんど変わらない(0.01Ω以下と思って問題ない)。
- 理屈とか
- (理屈)この抵抗を入れることで、オペアンプの純出力抵抗*2がより高くなるため容量負荷により位相が遅れやすくなる。
- またオペアンプの駆動力が出力抵抗で制約されるために、駆動性能を殺す結果となります。単純にアンプとしていの性能は入れれば入れるほど悪くなります。
- そもそもオペアンプはこの位置に抵抗を入れることを想定していません(例外あり)。
ループ外抵抗はあまり付けたくはないのですが、音響用抵抗などで数Ωぐらい入れるだけでも入れないよりは随分マシになります。回路図に示した+1倍動作では安定しにくいものです。
Zobelフィルタによる発振防止
使用出来るオペアンプは限られますか、Zobelフィルタと呼ばれる回路を取り付けることで、オペアンプを安定させることもできます。
LT1028やLT1115などの多くの高速オペアンプで効果を発揮しますが、LT1498など容量性負荷に対して特殊な作りをしているオペアンプ(特殊な位相補償により発振しにくくしているオペアンプ)を使用すると、付けることで逆に発振させてしまうことがあります。
使用出来ないオペアンプがあるということだけ注意すれば、音質劣化もほとんどなく、かなり強烈に回路を安定させる効果があり、おすすめです。
理屈など
Zobelフィルタの 10Ω+0.1uF というのは、もともとスピーカー(8Ω)の負荷インピーダンスを平坦化化させるために*3と解説されます。
しかしこのような回路での働きは、それとは違います。駆動力の劣る今回のような回路では、Zobelフィルタは駆動回路側(今回はオペアンプ)の駆動性能の悪さと相まって、高周波での性能を殺すように働きます。つまり、それ自体がLPF(ローパスフィルタ)となり位相補償として働きます。*4
オペアンプの発振は高周波(1MHz~)で起こるのですが、そもそも高周波でのオペアンプの性能を殺すことで発振を抑止します。オペアンプの発振はケーブル容量などコンデンサ負荷によるものがほとんどですが、Zobelフィルタより高周波域でのインピーダンスを10Ωで頭打ちし、ケーブル容量よる影響を相対的に小さくします。*5